池波正太郎/上意討ち
上意討ち
池波 正太郎主に幕末を中心とした時代小説の短篇集です。
一番目当てだった新選組の鬼の副長・土方の恋をモチーフにした『色』ですが、印象(と言うか土方の捉え方)としてはちょっと司馬遼太郎の名作「燃えよ剣」での土方の扱いと似ているところがあるような気がしました。
敵方である長州と関係がある女・お房に土方がそれと知りながら惹かれていく様子がとてもいいです。
特に年老いた猿回しを間にした二度目の偶然の出会いのシーンが印象的でした。
気になっている相手とこういう形で再会してしまったら、そりゃあますます忘れられなくなるでしょう。
また、新選組が京都を離れるに当たり「これで最後」とお房に会った土方が思わず彼女にすがりつき泣き言を言うシーンも印象的。
強くて冷静だと思っていた男が自分に向かってこんな弱いところを見せてきたらちょっとグラッと来ちゃいますよね。
ましてやそれが新選組の鬼の副長だったりしたら…!
ところが、お房はその土方を「それは約束が違う」と突っぱねてしまう。
そう言ったお房の性格設定と言うのもなかなかスゴイです。
土方の死後、お房に二人の密会の手引きをしていた土方の従僕・平吉が会いに行きその時の土方への態度について少々恨み言めいた事を言うラストシーンも良かったです。
ただ、その間の転戦の末に土方が五稜郭で壮絶な戦死を遂げるあたりはもうちょっと短い方が物語として気持ちが伝わってくるような気がしました。
その他全11篇の作品が収録されているのですが、それぞれ初出の時期がかなり違うせいか作品の出来にはかなり幅があるような気がしました。
作品によっては物語の核になる話よりもその当時の社会情勢が詳しく書かれすぎている部分が多く、せっかく盛り上がった物語への興味がそれによって拡散してしてしまい何を書こうとしたのかよく判らなかったものもあったり。
ただどんな物語でも最後の最後に日本人的な心を「ジワッ」と刺激する幕引きが準備されているのは、やはり「鬼平」や「剣客商売」を書いた作者ならでは、と言う感想を持ちました。
他の作品では「雨の杖つき坂」、「晩春の夕暮れに」がよかったです。
<以下のblogでもこの本の感想をかいていらっしゃいます>
■「みつろぐ」さん
<関連サイト>
■「池波正太郎記念文庫」ホームページ
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コメント
はじめまして、takoさん。トラックバックをしていただき、ありがとうございました。
takoさんも『燃えよ剣』の土方歳三がお好きなようですね。史実、真実ではなくても、私の中ではあの土方像が定着してしまいました。この『色』では、土方がお房にすがりついた時、突っぱねないで受け入れてあげてほしかった……と思ったものです。
投稿: Tompei | 2004/06/20 12:09
Tompeiさん、こんにちは。
実は「色」を読もうと思ったのはTompeiさんの記事を読んだからだったんです。
「あ、こんな作品もあったのね」と思って。
だから感想を書いた時点でトラックバックをすれば良かったのですが、その当時はまだblogを始めたばかりでトラックバックってものがよく判らなかったものでついスルーしてしまいました。ごめんなさい(汗)
最近になってようやくちょっと慣れてきたので改めてTBさせて頂いた次第です。
わざわざコメントを頂けて嬉しかったです。
ありがとうございました。
投稿: tako | 2004/06/20 12:28
takoさん
遅ればせながらですが、トラックバックしていただきましてありがとうございます。
司馬遼太郎の『燃えよ剣』はまだ読んでいないので今度図書館で見つけてこようと思います。
投稿: みつ | 2005/06/12 17:11
■みつさん
こんばんは。コメントありがとうございました。
『燃えよ剣』はちょっと長いですが、新選組ものとして読んでおいて損はない作品だと思います。
感想楽しみにしています。
投稿: tako | 2005/06/13 20:59