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2004/05/09

恩田陸/麦の海に沈む果実

麦の海に沈む果実
恩田 陸
恩田陸/麦の海に沈む果実今年の始め文庫化されてすぐに買って最初の何ページかを読んだものの、何故か続きを読む気になれずにずっと積んで置いた一冊。
昨日ふと思い出して読み始めたらグイグイ引き込まれて結局2日で読み切ってしまった。
どんなに面白い本でも読むタイミングってのがある。
この本の場合、冒頭が(その内容を暗示するような)恐ろしく寒々とした冬のシーンから始まるので、現実の季節も冬だったその時期にはあまり読みたくないお話だと判断してしまったのではないかと。
(別に意識したわけじゃないけどね)

で、感想ですが…。
何とも残酷なお話ですね。
容赦ないって言うか。

広い湿原に囲まれた要塞のような場所に建つ、「訳アリ」な子どもたちばかりが暮らす特殊な学園。
全てが3月から始まり例外は忌み嫌われるその学園に2月の最後の日に一人の少女が転入してくる。
そこから始まる数々の事件と謎の物語。

「学校」って別にこんな風に特別な環境ではなくても、現実社会の中に普通にあってさえ「特殊」な場所だと思う。
同じくらいの年齢の少年や少女たちの集団が、同じ建物の中に精神的にも肉体的にも閉じこめられている。
私は幸い「学校」と言う場所に特にイヤな記憶はないけれど、もし「イヤだ」と思っても自分の意志だけではそこから逃れる事が難しい…う~ん、なんか考えるだけで息苦しくなる感じがする。

ましてやこの物語の舞台になる学園は全寮制で、北の国の人里離れた湿原の真ん中に建っていて(ご丁寧に跳ね橋まで付いている!)、学内では他人に迷惑をかけない限り何をしても自由だが手紙のやり取り以外の外部との連絡は一切出来ない…ある意味豪華な牢獄ですね。
こういう場所って平和に暮らせれば外の世界のことを考えずに済んで確かに理想の学校なのかも知れないけど、ちょっとでも自分の中に「不安」が芽生えてしまったらどこにも逃げ出す場所がないわけだからよっぱど強くなければ壊れてしまうと思う。

こんな中で人がどんどん死んでいくわけだからそりゃあ怖いよね。
それに主人公以外は誰が殺されても、誰が犯人でもおかしくない上に、その動機とか背景が全く見えない状態で話が進むので最終的にどんな結末になるのか想像出来ない事が更に物語を盛り上げている。

なのでラストの一歩手前までは主人公の理瀬と同じ気持ちで次がどうなるか判らなくてハラハラしながら面白く読んでいたし、結末も正直スッキリはしないけどあの物語世界の中ではアリなんだろうなと思う。

でも、私の好みから言うともっと「ああ、終わったんだ」って納得できる、本を閉じたときに「ふうっ」と満足して穏やかな息が継げる、そういう結末を持った作品であって欲しかった。
あの何とも後味の悪い読後感は(著者が敢えて意図したものであるにしても)、それまで息を止めるようにして一心に物語を読んで来た私にはちょっと残念だった。

何よりも沢山の子どもたちが死んでいくのに、結局この結末では誰一人としてその死を悼まれることがない、と言うのが哀しすぎる。

設定や登場人物たちは確かに魅力的ではあるけど、「大人になってしまった」私はこの子供特有の冷たい残酷さには共鳴できなかった。
もっと暖かみのある物語が読みたかった、と言うのが正直な感想。

<おまけ>
物語には直接関係ないけど、この中で理瀬が思い出すアンドレ・モーロワと言う作家の物語にとても興味を持った。
<毎夜自分の夢の中に出てくる家が実在すると信じた主人公が、その家を探してついに辿り着く。その家は現在は無人でかつてその家の使用人だった男がいるばかり。使用人は主人公に会って驚愕する。その家の住人たちは毎夜現れる幽霊に怯えてその家を逃げ出したのだ。そしてその幽霊は主人公とそっくりだった…>
と言う内容。
これって内田善美の「星の時計のLiddell」(名作!)の内容とそっくりなんだけど…ネタ本なのかな?と思ってググってみたらやっぱりそうらしい。
(インターネットは偉い!と思うのはこんな時~♪)
思わず「読みたい!」と思ってしまったけど…どうやら普通の本屋で見つけるのは難しいらしい。
古本屋だったらあるかな~?ちょっと探してみよう。
(こんな風に次の興味に繋がる記述があるのは嬉かった)

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