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2004/05/30

あさのあつこ/バッテリー

バッテリー
あさの あつこ
あさのあつこ/バッテリー主人公・巧は少年野球のピッチャーとして大人も驚くほどの才能を持っている。
そんな巧が中学入学直前に父親の転勤でやってきた山あいの地方都市で新しい野球仲間と知り合う。
自分の実力に自信を持つがゆえに高圧的で協調性のない態度を貫いてきた巧が、その仲間、特にバッテリーを組むことになる同い年の豪との関わりによって少しずつ変わり始める。


両親の出身地でもあるその町の新しい関係の中でその天才性のために孤独だった巧の心が少しずつ変化していく様子、その変化に伴って見えてくるもの、気付くこと…。
特に大きな事件が起こるわけではなく家族や友人たちとの普通の日々の関わりの積み重ねが丁寧に書かれているのがとてもいいです。

巧や豪ももちろん印象的な少年なのですが、私は巧の弟・青波(せいは)がとても印象的で好きな登場人物でした。
巧と3歳違いの青波は、未熟児で産まれ小さい頃から何度も入退院を繰り返すほど病弱な少年。
母は青波の看病で手を離せず、父も仕事が忙しかった事から3歳の巧はしばらくの間、祖父母の家(ここが新しく家族が住むことになった家なのですが)に預けられた事もあったほど。
3歳で両親の愛情の大半は病弱な弟に移ってしまい、一人で遊ぶことを覚えた少年が野球を好きになり、そしてその野球で自分には誰にも負けない才能があると言うことに気付いたら(いいか悪いかは判らないけど)巧のように「自分だけを信じる」少年になってしまうのも判る気がします。
かたや青波の方は、いくら母親の注目を一身に集めていたとは言え、小さい頃から外にいるより家の中で寝込んでいる事が多く兄のように思いっきり野球がしたくても出来ない生活を強いられます。
その中でどうやってあれほどまでに明るく、人を思いやり、気持ちを読み、誰にでも愛される子供に育てたのかの方がちょっと不思議でもあります。
青波のセリフには印象的なものがたくさんありますが、特に「夜中に喘息の発作が起きても遠慮なく咳が出来るから引っ越して良かった」と言うシーンはちょっと泣けてしまいました。
この弱く一人では何も出来ないと思っていた小さな弟に巧はどんなに救われていたか。
それまではそんな事には思いも至らなかった巧が、そんな青波のすごさに気付いていく過程もとても良かったです。

この作品は「児童書」として発表されたとか。
確かに(年齢的には)子供を主人公にしていますが、「児童書」と断らない小説たちとどこがどう違うのか私には判りませんでした。
「児童書」(を始めとしたいろんなジャンル)というくくりの中であまり一般的に目に触れることなくひっそりと存在する名作がたくさんあるのでしょうね。
「文庫」と言う形態が出版社や作家にとってどういうメリット・デメリットがあるのか私には判りませんが、少なくとも読者として手に取りやすい事は確か。
作品が世に出た以上は「読まれてナンボ」だと思うので、もし児童書が文庫になりにくい傾向があるようなら少しでもその垣根が低くなっていい作品が多くの人の目に留まるようになった方がいいのではと感じました。

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