畠中恵/ぬしさまへ
ぬしさまへ
畠中 恵/新潮社十七歳になるというのにちょっと出歩くとすぐに熱を出して寝込んでしまうほど病弱な一太郎は、お江戸・日本橋の大きな回船問屋・長崎屋の大事な跡取り息子。
その生活を守るのは彼の兄やであり、今では商売を仕切る手代となっっている仁吉と佐助。
実はこの二人、三千年の齢を重ねる大妖である一太郎の祖母が呼び寄せた「白沢」と「犬神」と言う妖なのであった…。
『しゃばけ』に続くシリーズ第二弾。
このシリーズは一太郎の身の回りで起きた事件を、仁吉と佐助を始めとした妖たちの力を借りて一太郎が解き明かす捕物帖の形を取っているのですが、正直な話 私はその謎とか謎解きの部分はあまり興味がありません。
では何がこの作品の魅力かと言うと、一太郎を取り巻く様々な妖たちの個性的なキャラクターと、その過剰なまでの愛情をちょっと鬱陶しく思いながらもそのそれぞれを愛おしく思っている一太郎とのやり取りです。
身体が弱くなかなか自分の思い通りにはならないけれど、優しい両親と何不自由ない生活、そして自分を心配する妖たちに見守られている「恵まれた自分」をきちんと認識し、周りに甘えることなく自分に出来るだけの事はきちんとやり遂げようとする若だんな一太郎の頑張り。
そしてその若だんなのために少しでも役に立とうと思いつつ、人とはちょっとずれた感覚のため思い通りの結果になかなかたどり着けない妖たちの可愛い自己主張。
お互いがお互いを大事に思っている、そんなたわいない両者のやりとりが何とも暖かくてホンワカした気分にさせてくれました。
ただ作品全体に言えるのですが、一太郎サイドの登場人物はみんないい人(ヒトじゃない方が多いけど(笑))ばっかりなのに、それ以外の登場人物は意外なくらい悪役が多いのがちょっと気になりました。
例えば「空のビードロ」は、一太郎の腹違いの兄・松之助の窮地を一太郎の真っ直ぐな気持ちが救うと言うちょっとジンワリ来るいい感じの作品だったのですが、この中でも前半、松之助の奉公先でのエピソードは読んでいてちょっと辛かったです。
もちろんそこで松之助が追いつめられ、自暴自棄になるからこそ後半の一太郎との出会いが生きるのだとは思うのですが、あそこまで他の登場人物を「イヤなヤツ」にする必要はあったのかな…と。
せっかくいいキャラクターと雰囲気を持っているのだから、こういう善悪をきっぱり分けるような書き方ではなくもっとゆったりとした作品であった方が味わいが出てくるのではないかな、と思います。
なのでこの中ではそういう部分があまり出てこない「虹を見し事」が一番好きでした。
妖たちを敢えて消すことでその重要性を認識させる描き方や、それに対する若だんなの不安な気持ちの描き方も上手かったし、結末も切なくてちょっと泣けました。
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コメント
お久しぶりです。
「しゃばけ」がおもしろかったので、この本も読みました。まだシリーズとして続くのですね。
トラックバックさせていただきたいのですが、うまくいきません。
もし何重にも行ったら、ごめんなさい。
投稿: 涼 | 2006/09/25 16:50
■涼さん
こんにちは。
コメント&TBありがとうございました。
このシリーズはこのあと、「ねこのばば」「おまけのこ」「うそうそ」と続きます。
私はこの2作目と次の3作目くらいは「う~ん、イマイチ…」だったのですが、その後の2作品はかなりお気に入りです。
この調子で続いてくれるといいのですが。
映画化の話もあるようで以前から噂は聞こえてくるのですが、なかなか具体的には見えてきません。
どうなっているのでしょうか。といっても映画化自体が「微妙」って感じもありますけどね^^;
期待しないで待ちましょう。
投稿: tako | 2006/09/30 12:02