筒井康隆/富豪刑事
富豪刑事
筒井 康隆悪の限りをつくして一代で財を成した大富豪・神戸喜久右衛門の一人息子・大介は地元の警察署で刑事として働いている。
過去の悪事を反省し、人のため社会のために自分の財産を使うことに目覚めた父親の財力を武器に大介が難事件解決に挑む。
今月からテレビ朝日で始まった深田恭子主演の同名ドラマの原作本。
面白かった(^^)
別にストーリーとか謎解き自体はそんなに凝ったものではないし、多分作者もそうした部分だけを中心に書こうとしたわけではないのだろう。
この作品の一番のポイントはそのタイトルロール、「富豪刑事」こと主役の大介のキャラクターだと思う。
最初は単に「お金はあって当たり前。お金で解決するならどんどん使えばいいじゃない」的なキャラクターなのかと思っていたら、
さすがは筒井御大。
そんなに単純なヤツを主役に据えるわけはない。
大介は資産家である父を持つ自分、人よりお金が自由になる立場である自分を認めていて、それを後ろめたく思っているわけではない。
同時にそのお金の大半は自分ではなく父親のものであり、自分個人は「刑事」であるということも認識している。
そしてそういうある意味相容れない2つの側面を同時に持つ立場である自分を少々持てあましていたりする。
つまり、大介は当たり前すぎるほど、当たり前な感覚の持ち主として設定してあるのだ。
しかし、この作品の中では「当たり前」であることの方が異端(と言うと言葉が強すぎるけど…相応しい単語が見つからない)になること、
そのギャップこそがこの作品の面白さなのだと思う。
事件を解決するために結果的に大介は父親からの援助で大金を使っていくことになるわけだけど、
そのどれもただ単純にお金を出すという展開ではない。
犯人や世間や一般常識や法律などになるべく触れないような形で実現されていくのだ。
その手間の掛け方がとても面白かった。
と言っても、やっぱり普通に見れば「そこまでするかい!」って話ばっかりだけどね(笑)
特に犯人逮捕のために会社を一つ作っちゃう話は!
大介の上司・同僚たちのそれぞれ個性的なキャラクターも楽しいし、何よりも大介の父親・喜久右衛門が最高にいいっ!(^^)
あ、あとね、面白いな~と思ったのは、よく推理小説で主人公が「本人は一般人だけど身内に警察の偉い人がいる」って設定があるでしょ。
そういう作品って、何故かその主人公まで警察に丁重な扱いを受けてるよね。
でも、この作品は主人公の父親はビックリするくらいお金持ちだけど、
本人はヒラ刑事なのでみんなにバカにされたり軽くあしらわれたりしちゃうんだよね(笑)
これって結構凝った設定だよねえ。
これは推理とか謎解きとかあまり考えずに、キャラクターと話の展開をそのまま楽しむのが正解の一冊。
<関連サイト>
■「筒井康隆ホームページ」
公式サイトです。
<以下のblogでもこの本の感想が読めます>
■serendipityさん「『富豪刑事』筒井康隆」(by suminiyaさん)
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 田牧大和 / 泣き菩薩(2015.07.24)
- 山本兼一 / 黄金の太刀 刀剣商ちょうじ屋光三郎(2015.07.23)
- 田牧大和 / 春疾風 続・三悪人(2015.07.22)
- 田牧大和 / とんずら屋弥生請負帖(2015.07.21)
- 里見蘭 / 暗殺者ソラ: 大神兄弟探偵社(2015.07.19)
「読了本」カテゴリの記事
- 田牧大和 / 泣き菩薩(2015.07.24)
- 山本兼一 / 黄金の太刀 刀剣商ちょうじ屋光三郎(2015.07.23)
- 田牧大和 / 春疾風 続・三悪人(2015.07.22)
- 田牧大和 / とんずら屋弥生請負帖(2015.07.21)
- 里見蘭 / 暗殺者ソラ: 大神兄弟探偵社(2015.07.19)
コメント
読みました〜。TBさせていただきまーす。
肩肘張らずに楽しめる本でしたね。
大介の周りの元気なジジイたちもおかしいし、
富豪っぷりにだんだん慣れてくる警察側も笑えます。
ドラマはみてないんですけど、大介が深キョンなわけですよね?
鈴江はいないのかなー?
でも筒井さんは出ているんですね(笑)
投稿: suminiya | 2005/02/18 09:58
■suminiyaさん
こんばんは。コメント有り難うございます。
>ドラマはみてないんですけど、大介が深キョンなわけですよね?
です(笑)
彼女独特の「ホヨヨン」とした感じで、お金持ちのお嬢さんっぽさは出ているのですがやっぱり原作とは雰囲気違いますね。
それに喜久右衛門のあの強烈なキャラが生きていないのがどうにも納得できなくて、結局2回くらい見て止めちゃいました^^;
ちなみに「鈴江さん」はドラマでは、深キョンのお母さん的存在のお手伝いさん「鈴木松江」さんとして登場しています。
投稿: tako | 2005/02/18 21:10