松井今朝子/奴の小万と呼ばれた女
奴の小万と呼ばれた女
松井 今朝子
大阪でも名の知れた大店のお嬢様(おいとさま)として美しく生まれながら、
男勝りの負けず嫌いな性格と大きな身体で人から常に注目され続けるお雪。
仕組まれた縁談を壊してもらう目的で近づいた身分の違う乱暴者の男に惚れ込み、果ては彼を助けるために角材を手に大立ち廻りを繰り広げる。
そんな彼女を<まっとうな世間>は「奴の小万」と渾名し、人形芝居に登場させた…。
江戸時代に実在した奴の小万こと木津屋お雪の生涯を描く物語。
先に読んだ『非道、行ずべからず』が面白かったので図書館で借りて読んでみた本。
う~ん、こっちは今ひとつかな。
<まっとうな世間>が女に与えた役割を本能的に嫌いそれにひたすら反発することで生を貫いたお雪の生き方は、
200年も前の江戸時代に生きた女性としては特殊なものだったのであろうと思う。
その辺りを彼女が愛した男達を始め、
たくさんの登場人物との出会いと別れを絡めながら生き生きと描写している辺りは前作同様非常に面白かった。
ただ、彼女は世間に反発しあくまで自分を貫くことで一体何を得、何をなそうとしたのか。
そこまで激しく世間とぶつかり、好むと好まざるとに関わらず注目を浴び、
家族や使用人に迷惑をかけ心配させた人生の果てにあったものは何だったのか。
「物語」であれば、彼女のつまずきながら傷つきながら生きたその人生の果てに、何か悟りにも似た回答を載せることだろう。
しかし、この作品にはそれがない。
愛する男も、生まれ育った家もなくし、
ただ自分を育ててくれた寝たきりの祖母を抱えて尼に姿を変えて生きていこうと決めた彼女はその後どうなったのか…。
それをこの作品は伝えていない。
もちろん人生の中で何か形のあるものを、しかも他人に認めてもらえるものをしかと残せる人間は一握りでしかないのだろうとは思う。
彼女もまた自分の人生をただ真っ直ぐに生きた一人の女性であったということなのだろう。
彼女くらいの美貌、胆力、財力、包容力があってさえも世間にただの<変わり者>の烙印を押されてしまう。
そしていくら全力でそれに立ち向かおうとしても結局それに勝つことは出来ないのだ。
そこに勝手な思い込みやサービス精神で何かの「意味」を与えることを、著者は敢えてしなかったのかもしれないが… 私にはそれがちょっと不満だった。
それに、とにかく彼女の男の趣味が悪すぎるっ!(笑)
(いや、他人の男の趣味に口出すのは野暮だと判ってはいるけど)
何だってあんなしょーもない男ばかり好きになって、しかもその相手が悪い方へ転がる手助けになってしまうような関係しか作れないのかなあ…。
友人とか信頼できる人とかはみんなちゃんとした人なのにね。
人の好みは自分でコントロール出来ないってことかな。
まあ、だからこそ人生は面白いのかもしれませんが。
現代の大阪の地下街で偶然見つけた古書店で手に取った一冊の和綴じ本から物語が始まり、またそこに戻ってくる構成は面白かった。
<関連サイト>
■「松井今朝子ホームページ」
公式サイト
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