火坂雅志/骨董屋征次郎手控
骨董屋征次郎手控
火坂 雅志
時は幕末。
征次郎は訳あって生まれ故郷の金沢を離れ、京都は東大路 夢見坂で骨董屋「遊壺堂」を営んでいる。
ある日征次郎の店に品のいい武家の妻女と見受けられる女が現れ、一つの茶入れの鑑定を依頼する。
征次郎には一目で「名品」と認められる作品だったが、女は何故かそれに困惑し茶入れを征次郎に預けたまま帰ってしまう。
数日後、茶入れを返してくれとの女からの便りを受け取った征次郎は約束の場所に出向くが、そこで見知らぬ武士にいきなり斬りつけられる。
骨董という"魔"に魅入られた人々が「遊壺堂」に持ち込むいわくつきの品々と人間模様を、闇の顔を持つ征次郎が読み解く連作短篇。
この著者の作品は以前
『美食探偵』という作品を読んだことがあって
そのときの感想が「イマイチ…」だったのでこれを買うときも 「どうしようかな~」とちょっと躊躇したんだけど、今回は買って正解。
面白かった。
前の作品は『美食探偵』なのに他の要素が多すぎて肝心の<美食>についての記述が割とサラッと流されていたのが不満だったけど、
こっちは<骨董>というモチーフがきちんと物語のなかで生かされていたし、
人に言えない過去を抱えながら京都で若いながらもひとかどの骨董屋の主として名品を扱う征次郎のキャラクターもいい。
更に短篇として独立していながらも前に出てきた登場人物や状況をその後の物語にも生かすことで作品全体のまとまりもあって読みやすかった。
ただ、京都の「遊壺堂」を舞台にして訪れる客や同業者たちちと征次郎のやり取りが中心に描かれる前半はよかったけど、
あるきっかけから新選組から追われる身になり京都を離れ、更には故郷 金沢(加賀藩)で藩ぐるみの悪事に巻き込まれる
(と言うか首を突っ込んでいく)展開にまでなってしまう後半は話が広がりすぎてちょっと違和感。
元々そういう展開にするために征次郎の過去をああ設定したんだろうけど…
私は別に歴史的な登場人物が出てこなくても世を動かすような大きな事件が起きなくても充分面白い題材だと思うんだけど。
この作品の最後では加賀藩での騒動も収束、時代も江戸から明治へと変わり晴れて京に戻った征次郎が「遊壺堂」を再開し
『ここがおれの居場所だった』と思いを新たにするところで終わり、更にその後続編が出版されているとのこと。
時代が明治になってしまうのはちょっと残念だけど続編では京都を中心にした物語が読めることを期待したい。
同じ本の感想を書いていらっしゃる「serendipity」さんにTBさせていただきました。
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コメント
こんばんはです。
うちにReadingBatonというのが回ってきまして、記事を書くことになりました。で、恐縮なんですが、うちの次にsecond messageさんにバトンを渡させていただきました。
スルーしていただいても結構ですので!
投稿: take_14 | 2005/06/25 23:39
また同じ本を読んでましたので、TBさせていただきました。
そして続きも図書館で予約してみました。
(自分の感じた後半の違和感は、二作目を読んで解消できるかもしれないなあと思って…)
この文庫本を読んでいた時に、以前のエントリーのしおりについて改めて実感しました。
薄さとデザインのでしゃばらなさ、確かに!
書店で挟んでくれるしおりって、けっこううるさいですよね〜。
投稿: suminiya | 2005/07/05 02:30
■suminiyaさん
コメント&TBありがとうございました(^^)
私も後半どんどん別の世界に行ってしまうのが不満でした。
この作家さんて歴史小説も書いていらっしゃるらしいので、そういう要素を入れたくなってしまうのでしょうか。
こちらからもTBさせていただきました。
しおりの件、ご賛同頂けて嬉しいです(^^)
控えめなのに有能なところが素晴らしいですよね。
よく考えてあるなあ、と感心します。
投稿: tako | 2005/07/05 07:25