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2005/07/16

上野正彦/「藪の中」の死体

「藪の中」の死体
上野 正彦
上野正彦/「藪の中」の死体文学作品や過去の未解決事件の死体についての記述を元に日本法医学の第一人者として著名な著者が死因や隠された犯人像を推理する。
取り上げられるのは芥川龍之介『藪の中』、ポー『マリー・ロジェエの怪事件』、谷崎潤一郎『鍵』など。


面白かった!

何より「小説に出てくる死体を現実の法医学的視点から見る」という発想が面白い。
時々タイトルでは「○○を暴く!」なんて惹句を付けながらも読んでみると回りくどい話が延々と続いているだけで結局何も判らなかった… というような本もあるけどこれはちゃんと科学的な論拠に基づいて犯人像を推理した結果を提示してくれている。
(もちろんそれがその作品の著者が意図した結果通りであるかどうかは判らないわけだけど)
で、更にその結果を丁寧だけど、しつこくなりすぎずに解説してくれる上野氏の文章が判りやすく読みやすいのもよかった。

特にタイトルにも使われているだけあって『藪の中』についての考察は、 それぞれの登場人物が語る死体や周囲の状況を細かく検証した上で法医学の見地から犯人を特定するだけでなく、犯人ではないにも関わらず 「自分がやった」と名乗り出ている登場人物の心理状態も読み解くという力作。
これを読んでからオリジナルを読み直すと新たな視点で読むことが出来るんじゃないかな。

よくTVドラマで法医学が取り上げられるときに出てくる「生きている人間は嘘をつくけど、死体は嘘をつかない」 という言葉がこの本の中にも出てきた。
どんなに死因をごまかそうとしても、ちゃんとした法医学者が検死をすればその死因は間違いなく特定できる、とのこと。
ただ、明らかに殺人であると判断された以外のケースで死因に不審がある場合に行政解剖が出来る制度は現在日本国内で東京23区内、横浜、 名古屋、大阪、神戸の5大都市でしか実施されていないらしい。
死者の権利、主張を正しく理解し擁護するために必要な制度だと思うので、全国に導入されるようになってほしいものである。
(使わずに済めばそれに越したことはないわけだが)

その他、「水死した死体は口や鼻から細かい泡が出ている」とか 「焼死体は肘や膝の筋肉が熱で凝固するため身体が屈曲してボクサースタイルになる」とか、 普通の一般市民として暮らしていくのに全く必要のない知識(笑)も満載で読みどころたっぷりの一冊でした。

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