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2005/09/10

宇江佐真理/涙堂 琴女癸酉日記

涙堂 琴女癸酉日記
宇江佐 真理
宇江佐真理/涙堂 琴女癸酉日記

内容(「MARC」データベースより)
通油町で琴女が過ごしたほのぼのとした毎日。夫の不審死の真相を息子達とともに追いつつ、通油町での日々を綴る琴女のやさしい眼差し。 江戸市井を描く連作時代小説。『小説現代』掲載。

夫の突然の死に納得できない妻が息子達と一緒にその謎を追う…って展開らしかったのでミステリーなのかと思いつつ読んでみたら、 違いました。
確かにそれも重要な要素になってはいるけど、それが「主」ではありません。
物語の中心にあるのは主人公である琴を始め、彼女の家族(彼女の5人の子どもたちとその連れ合い)や幼なじみとその家族、 下町暮らしのご近所さん、夫の元手下…などなど多彩な人々のそれぞれの思い、日々の暮らしぶり、季節の移ろいなど、日常的な話ばかり。
つまり、これはあくまでも「世話物」「ホームドラマ」としての物語なのです。

と言って、夫の死の謎やその後の結末がうやむやになるわけではありません。
琴の息子たちの努力で真相が明かされ、首魁だった人物は処断されることになります。
ただ、いわゆる「捕り物」のように悪い奴らを一網打尽、一刀両断にするというわけにはいかずそれに対して琴も歯がみする部分もあるのですが、 その取り残した人物たちにも悪人として相応しい末路が準備されていました。
それが「誰かによって成敗される」ということではなく、自らの心によって滅んでゆくという結末であるところがこの物語らしいと感じました。

特筆すべきは登場人物の描きわけが見事さ。
物語の分量に比べて登場人物が多いのですが、 それぞれの性格描写やエピソードがすごく印象的なので誰が誰だか判らなくなることはありませんでした。

みんなそれぞれ個性的ですが、特に琴さんの幼なじみで医者の清順先生の次女・若とその夫・豊成夫婦は強烈。
夫婦喧嘩のたびに実家に逃げ帰る若を豊成が追って来て、清順はもとよりご近所まで巻き込んでの大騒ぎを繰り返すのです。
何度も繰り返されるその大騒ぎに腹を立てた琴が若に意見をしたところ、逆に琴の家に持ち上がっていた問題を持ち出されやり込められてしまう、 という場面には驚くと同時にちょっと笑ってしまいました。

死んだ夫の元手下であった伊十と琴との関係を描いた最後の短篇「涙堂」は、しんみりと味わい深く一番印象的な作品でした。
朝の電車の中で読んでいたにも関わらず、思わず泣いてしまいました。

例えば「鬼平」の登場人物のように、先のことまで見通していて、判断を誤らず、懐が広く、差別せず、誰からも信頼され慕われ、しかも力を持っていて…といったようなヒーロー的な人物は登場しませんが、多彩な登場人物がそれぞれの目線で相手を見つめるその眼差しの優しさ、 柔らかさ、そして確かな生活感が感じられる作品でした。

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