福井栄一/鬼・雷神・陰陽師 古典芸能でよみとく闇の世界
鬼・雷神・陰陽師 古典芸能でよみとく闇の世界 PHP新書
福井 栄一
内容(「BOOK」データベースより)
古来、日本人は鬼や怨霊といった「もののけ」の存在を信じ、語り継いできた。本書は、それらをモチーフとする能や歌舞伎などの舞台を通して、 日本人の心の深層に広がる闇の世界をよみとく。陰陽道を駆使して平安京の悪霊に立ち向かった安倍晴明。雷神として恐れられつつも、 信仰の対象となった菅原道真。酒呑童子などの鬼退治で名を馳せた渡辺綱。人間社会と闇の世界との境界にいた彼らはどのように演じられ、 観客を魅了するのか。芸能文化を探究する気鋭の語り部が、跳梁跋扈する「もののけ」の世界に誘う。
最近、安倍晴明(=陰陽師)や菅原道真(=雷神) に関する本をけっこう読んでいるので彼らに関する古典文学の中のエピソードなどは知ってる話も多かったけど、この本はそれだけに留まらず能・ 歌舞伎・和歌・狂歌・落語などあらゆる古典芸能の中で扱われている上記2人+渡辺綱(=鬼)の姿を数多く、 また判りやすく解説してくれていてすごく面白かった。
これを読むと、
日本人は鬼や怨霊や雷神などを恐れながらもそれを自分たちの楽しみとしての芸能に転化することが上手かったんだなと感じる。
(もちろん、「鎮魂」の意味を含んだものもあるだろうけど)
恐れながら親しむ、親しみながらも敬意を忘れない、という感じ。
「光」の隣には「闇」があることが当たり前だった。
最近はどこもかしこも「光」で満たされてしまい「闇」がなくなってしまったから、
そこに隠れていたものがどんどん明るいところに出ざるを得なくなってしまっているんじゃないのかな。
「光」と同時に「闇」とも上手く付き合っていた昔に学ぶものがたくさんあるような気がする。
でも、そんな時代でも時が過ぎ、人の気持ちが変化すると「闇」との関わり方も変化するらしい。
「鬼」は当初不可視の存在であったためその脅威に備えるため平安時代は陰陽師が活躍したけれど、
時代が下り室町時代になると陰陽師の力が弱まってくる。
それは不可視であったはずの鬼の姿が人々の想像によって可視となり、恐怖が薄れてきた(姿があるものなら武力で倒せる)からだ、
という考察が興味深かった。
最近陰陽師ブームが再燃しているのは、もしかしたら不可視の脅威を感じる人が多くなっているということなのかも。
著者の豊富な知識を軽々と扱う語り口の軽快さ、崩れすぎない気安さ、
専門的になりすぎず省略しすぎてもいない適度な情報量で書かれた文章が読んでいて気持ちいい一冊。
とても読みやすくてオススメ。
「世界初の『上方文化評論家』」だという著者本人もなかなか興味深い。(想像していたより若い!)
また他の本も読んでみたいし、機会があれば講演も聞いてみたいな。
<関連サイト>
■福井栄一の世界
(公式サイト)
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コメント
読了本の作家名別インデックスを拝見しましたが、
私の名前は、「福田栄一」ではなくて、
「福井栄一」ですので、訂正願います。
投稿: 上方文化評論家 福井栄一 | 2006/01/24 23:03
■福井さん
お名前の誤記の件、大変失礼いたしました。
早速訂正いたしました。
ご指摘ありがとうございました。
投稿: tako | 2006/01/24 23:11
陰陽道や陰陽師に関する知見が、
単なるブームに終わることなく、
多くの日本人に、素養として
浸透していくのは、
喜ばしいことです。
投稿: 上方文化評論家 福井栄一 | 2006/02/03 15:40
■福井さん
こんにちは。コメントありがとうございます。
陰陽師の物語は好きだし興味があるのでいろいろ読みたいと思っていますが、奥が深すぎてなかなか真実の姿に辿り着くのは難しいですね。
でも最近はいろいろな作品が手に入れやすくなっていて読者としてもとても嬉しいです。
投稿: tako | 2006/02/05 13:15
ご無沙汰です。
12月上旬に、新著『イノシシは転ばない~「猪突猛進」の文化史』(技報堂出版・税込2310円)を刊行します。
どうぞご贔屓に!
投稿: 上方文化評論家 福井栄一 | 2006/11/26 15:43
例のイノシシ本の刊行日が、12月8日(金)に決定しました。
投稿: 上方文化評論家 福井栄一 | 2006/11/30 22:13
ご無沙汰です。
私の8冊目も著書『にんげん百物語~誰も知らないからだの不思議』(技報堂出版株式会社)が、9月下旬に刊行されます。
どうか、お楽しみに!
投稿: 上方文化評論家 福井栄一 | 2007/08/29 21:57