富樫倫太郎/美姫血戦 松前パン屋事始異聞
美姫血戦 松前パン屋事始異聞
富樫 倫太郎
戦の携行食としてパン作りを命じられた和菓子職人が見た箱館戦争とは!? 北の大地を揺るがした幕末維新の凄絶な戦いを描く、 著者渾身の傑作歴史小説。(実業之日本社 WEBギンザ 書籍紹介ページより)
先日著者の
『妖説 源氏物語』を読んだときに、“他にどんな本書いてるのかな~”と思ってamazonで検索したらこの本が一番上に出てきた。
ふと表紙を見ると、おっ!トシちゃんじゃないですか!
これは読まねば、と早速図書館で借りてきて読んでみた。
読む前の私の勝手なストーリー予想では、もっと土方メインの話(しかもラブストーリー。当然アンハッピーエンド)
かと思っていたらかなり違っていた。
(それにしては表紙のイラストや帯のコピーなど土方を使いすぎでは。確かにそうすれば注目されることが多いと思うけど。私みたいに(笑))
土方が出てくると言っても新選組ものではなく、完全に旧幕府軍が蝦夷に渡ってからの話。
来るべき決戦時の携行食料として旧幕府軍から「パンを作れ」と依頼された和菓子職人 藤吉と、
藩内の対立により惨殺された松前藩の重臣である父の仇を討つべく病を抱えながら旧政府軍に味方する美少女 蘭子、
そして蘭子を見守る旧幕府軍の人々。
それぞれが、それぞれの想いを胸に決戦の日がやってくる…ってな感じのお話だった。
読みやすいし、なかなか面白かったけど、全体的にちょっと物足りない感じかな~。
それは決して土方の登場シーンが少ないからではなく(笑)、物語の軸が複数あるために印象が拡散していたためではないかと思う。
藤吉のパン作りも、蘭子の命がけの仇討ちもどちらも面白い話ではあるんだけど、逆に面白すぎて一緒に書くには紙数が足りなかった感じ。
しかも、そこに合わせて旧幕府軍の内部の様子とか新政府軍との攻防戦の様子も入れなくちゃならないわけだから、さらに大変。
結果、どれも尺足らずになってしまったような感じ。
私としては和菓子職人だったのにいきなりパン作りを命ぜられ、苦労して作り方を習得した藤吉の話が面白かったな。
箱館のロシア大使館までパン作りを学びに行った話や、肝心のパン種を入手するのに苦労した話、
味が薄いのを補うために味噌を塗る工夫した話など興味深い話が多かった。
(これって実話?)
一方で不治の病に冒されながら命がけで父の仇を討とうとする蘭子を見守る土方をはじめとした旧幕府軍の要人たちの描写もよかった。
特に私のお気に入りは元遊撃隊の人見勝太郎と伊庭八郎
(『幕末遊撃隊』以来の再会!相変わらず男前!(笑))の2人。
自軍の敗北はおろか自分の死期さえも目の前に見えているような状況でお互いに気の置けない本音を明るく語り合う2人の会話が切なかった。
人見が伊庭に蘭子に対する自分の気持ちを打ち明けるシーンとか、戦闘の中傷ついた伊庭が蘭子の後ろ姿を見送るシーンが印象的。
結局どちらも良かったんだけど、両方一緒だとなんとなくどっちつかずな印象が残ってしまった。
どうせなら2つの作品に分けた方が良かったような気がするな。
蘭子と土方の距離感とか藤吉、人見、伊庭たちのキャラクター設定などはとても巧くて好感が持てた。
ラストはもうちょっと頑張って欲しかった。
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