坂木司/青空の卵
青空の卵
坂木 司
内容(「BOOK」データベースより)
僕、坂木司には一風変わった友人がいる。自称ひきこもりの鳥井真一だ。複雑な生い立ちから心を閉ざしがちな彼を外の世界に連れ出そうと、 僕は日夜頑張っている。料理が趣味の鳥井の食卓で、僕は身近に起こった様々な謎を問いかける。鋭い観察眼を持つ鳥井は、 どんな真実を描き出すのか。謎を解き、人と出会うことによってもたらされる二人の成長を描いた感動の著者デビュー作。
初めての作家さんの作品。
的確な描写力、真っ直ぐな視点、コージーミステリーとして読むのにちょうどいい事件、多様な人物設定など、面白く読んだ。
でも、何より一番最初に感じたのは丁寧で柔らかい文体の心地よさ。
ふわっと読者を包み込む独特の雰囲気がすごく気持ちよくて、まだ読み終わる前にシリーズの続刊を図書館に予約してしまったくらい(笑)
なので、全体的には面白い作品だと思うのだけれど…。
読み進めるうちに気になってきたのが、主役である司と真一の関係。
いや、関係というよりも彼らの人物設定かな。
司と真一は中学時代の同級生で、親友。
複雑な生い立ちからひきこもり状態になっている真一を司はいつも気にかけて何とか外に連れ出そうとし、
真一はそんな司に絶対的な信頼を置いていて苦手ながらも少しずつ外に出ていく。
で、この2人の傍で事件が起こって、司がそれを持ち込んでくるので人間嫌いの真一もイヤイヤながら巻き込まれ、
だんだんと人間関係が広がっていくよ…といった設定なのだ。
この2人の関係の何が気になるかと言うとその年齢なんだよね。
この2人、27歳という設定なのだ。
別に「27歳の男が2人で連んでちゃおかしい」とか言うわけではない。
確かにこの2人のお互いに対する感情というのは、読み進めるうちに「そんなに相手のことを重要に考えることってあるかな~?」
って思うくらいお互いを深く思い遣っているのでちょっと引いてしまう部分もあるくらいなんだけど、それもまあ「ない」とは言えない…
ということにしておこう(笑)
でも、27歳って言ったら、この2人が出会ってからは13~4年経ってるわけでしょう。
その後、大学出て会社入ったと考えても大体4~5年は経っているわけで。
その間、ずっと同じような環境、関係性であったのに何故ここで劇的に変化するか、という説得力に欠ける年齢なんじゃないかと思うんだよね。
この2人がここまで色んな事件に巻き込まれる切っ掛けとなったのは、司サイドにもある事件を切っ掛けにして
小さな心配を置き去りにしてゆくことは、おせっかいを怒られることよりも何倍も後悔することを、僕はもう知っているから。
という心境になって困っている(いそうな)人を見つけると放っておけなくなっているからなんだけど…でも、
それだって長年真一のような人と友人でいたらもうちょっと早い時期にそういうことって気付かないかな?
しかも、この司という人は感動したり悔しかったり悲しかったりすると、すぐ泣いちゃったりするようなタイプなんだよ?
それだけ感受性が強くて、中学生のときいじめられている真一にただ一人救いの手を差し伸べてそれ以来ずっと親友で居続けている司が、
27歳になるまでずっとそれに気付かないことのほうが私には不自然に思えてしまうのだけど。
例えばこれが23、4歳で、大学出て会社入って大きく環境が変わってそれにも何とか慣れてきましたよといったタイミングで、司も 「このままじゃいけないからなんとかしなくちゃ」とそれまでよりも強く思うようになってその結果…というのなら理解できるし、 年齢的にも納得できるんだけどな。
物語には直接関係ないんだけど、そこのところがすごく気になってしまった。
それ以外は面白かったし、読後の雰囲気もよかった。
これから続刊で真一の過去が明かされていくようだけど、あまり重くならないことを期待したい。
生きていく上での幸福は、誰かとわかちあう記憶の豊かさにあると僕は思う。
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コメント
はじめまして、ノラと申します。
実は「りゅうと」でここのブログにきました。
坂木司さんの本。
わたしもはじめて手にしてから気にいってしまい
一気に他の本も購入しました。
理由はtakoさんと同じで、やわらかさです。
まだ、わたしの周りでは坂木さんの本を読んでいる人が
いなかったので、ちょっと嬉しくてコメントさせてもらいました。
投稿: ノラ | 2007/10/08 22:30
■ノラさん
こんにちは、はじめまして。
コメントありがとうございます[♪]
あまりいい感想を書いてなくてゴメンナサイ。
(って別に謝ることでもないですが…なんとなく^^;)
かなり設定が濃厚で読むのがちょっとつらい部分があったのですが、それでも3冊読ませてしまう文章の豊かさはありましたよね。
作品の雰囲気としては私は「切れない糸」のほうが好きなので、続編が出るのが楽しみです。
本の感想にコメントを頂くことが割と少ないので、とても嬉しかったです。
またお時間があったらお立ち寄り下さいね[ハート]
投稿: tako | 2007/10/08 22:45