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2006/03/11

梨木香歩/春になったら莓を摘みに

春になったら莓を摘みに
梨木 香歩
4104299022内容(「MARC」データベースより)

「理解はできないが受け容れる」 学生時代を過ごした英国の下宿の女主人・ウェスト夫人と住人たちとの騒動だらけで素敵な日々。 徹底した博愛精神と時代に左右されない手仕事や暮らしぶりが、生きる上で大事なことを伝える。

柔らかい印象のタイトルだし、舞台はイギリスだし、内容はエッセイらしいし、ということでもっとサクサク読めて、 思わずニコニコしちゃうような作品かと思って読み始めたら…思いがけずヘビィな内容で驚いてしまった。

上記に引用した「内容」通り、若き日の著者がイギリスの小さな町で下宿生活をしていた日々のことが綴られているのだが、 そこで繰り返し語られるのは人と人の「コミュニケーション」についての話題である。
アメリカ生まれでイギリスの上流家庭に嫁ぎ、やがて離婚をし小さな町で暮らし始めたウェスト夫人。
彼女を中心に、彼女の下宿に訪れる人種も年齢も宗教も考え方も様々な人々の中で、日本人である著者が何を感じどう行動したか…。

私は他人とコミュニケーションを取るのが得意ではない。
もちろん敵意のない相手と友好的な会話をしたり、当たり障りのない関係を結んだりすることは普通に出来るけれど、 そこから一歩進むことがなかなか出来ない。
特に「本気で気持ちをぶつけ合う」ということに慣れないままこの年まで来てしまった人間なので(それでも何とかなってしまう、ということだ (笑))、 この本に書いてあるような個人同士の思惑や欲望やプライドを前面に出した付き合いというのは文字で読んでいるだけで疲弊してしまうのだ。

そんな私もイギリスは大好きな国で何度か訪問したけれど、私自身はもちろんこんな経験はしたことがない。
それは私が「生活者」ではなく、単なる「旅行者」だったからであろう、と思っていた。
でも、この本を読んでみて「果たしてここで生活したいたとしても、こんな経験をすることがあったろうか」と考えるようになった。
もし私がそこで生活をしていても、そして目の前にそうした「関係」があったとしても、私は気付かない(または「気付かないフリをする」) でそのままやり過ごしてしまうのではないだろうか。
そして自分の中の小さな平安は守れるけれど、さして大きな感動も喜びもなく日々を送るのかもしれない…と思えてしまった。

著者がイギリスであの経験をし、それを自分の記憶として大切に想うことが出来るのは、 ただそういう環境であったということではなくまずは著者の中にそれを受け入れる要素があったからであると思う。
そこにいさえすれば誰にでも出来る経験ではないのだ。

だからこそ

自分の信じるものは他人にとってもそうなるはず、と独り合点するところはなく、また人の信じるところについてはそれを尊重する、 という美徳があった。

というウェスト夫人と知り合い、濃密な関係を築くことが出来た著者の精神性に、それを持たないものとして強く惹かれるものがあった。
(とは言え、現実にそれが目の前に差し出されても怖じ気づいてしまうだろうことは容易に想像できてしまうわけだが^^;)

内容が(私にとって)重いことに加えて書き方自体も時系列に沿ったものではなく、突然過去に飛んだり、 著者の考えに沈み込んでいく部分などが挿入されたりして少々読みにくい部分もあった。
(意味が取れなくて何度か読み返した部分もいくつか)

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コメント

takoさん、こんばんは。私もずいぶん前に図書館でこの本を借りて読みました。
先日、文庫になっているのをつい買ってしまいましたが、なかなか再読できません。
重いですよね。

なんというか、彼らのコミュニケーションは、「あなたと私の違い」を
最初にはっきりさせてから始まる感じがします。「私たちって同じ」という部分を
すりあわせながらコミュニケートする日本人とは違うなあ、と思いました。

投稿: risumago | 2006/03/16 01:01

■risumagoさん
こんにちは。コメントありがとうございます。

>「あなたと私の違い」を最初にはっきりさせてから始まる

ああ、なるほどですね~。

私もけっこう「私は私、あなたはあなた」って部分がハッキリしていた方が楽なタイプなのですが
(少なくとも自分はそう思っている(笑))、
それでも彼らからみたら曖昧で何を考えているのか判らないんでしょうね。

日本もイギリスも同じ島国なのにどうしてこうも環境や考え方が違うんでしょうね。
興味深いです。

投稿: tako | 2006/03/16 22:44

TBさせていただきました。
全く共通点のない人でも、気脈が通じるというような開かれた感じならば、コミュニケーションの努力はいとわないだろうと自分では思います。
でもウェスト夫人みたいに、相手にその気がない場合でも受け容れていくのは素直にすごいです。

なかなかヘヴィなエッセイですけど、以前に読んだ『ぐるりのこと』も同じくヘヴィなエッセイでした…。

投稿: nao | 2006/05/16 11:58

■naoさん
コメント、TBありがとうございました。

梨木さんはお名前も本のタイトルも柔らかい、というか可愛らしい響きのものが多いし、「児童文学」という看板に騙されて^^;つい手に取ってしまうのですが、「重い」作品多いですよね。

私は「家守綺譚」の淡々とした感じが一番読みやすかったのですが、作品として一番好きなのは「村田エフェンディ滞土録」です。
根っこの部分はこのエッセイと同じことが書いてあるような気がするのですが(多分)、形が違うと受け取り方も変わってくるということでしょうか。

投稿: tako | 2006/05/17 23:00

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» 『春になったら苺を摘みに』梨木香歩 [月着陸船]
著者が敬愛するウェスト夫人と、そのまわりの人々との交流を描いたエッセイです。著書の『村田エフェンディ滞土録』の下宿そのままの雰囲気。 [続きを読む]

受信: 2006/05/16 11:19

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