鳥飼否宇/昆虫探偵 シロコパκ氏の華麗なる推理
昆虫探偵
鳥飼 否宇
内容(「BOOK」データベースより)
ある朝目覚めるとゴキブリになっていた元人間のペリプラ葉古。無類のミステリ好きだった葉古は、昆虫界の名探偵、 熊ん蜂シロコパκの助手となった。人の論理が通用しない異世界で巻き起こる複雑怪奇な難事件を、 クロオオアリの刑事の力も借りて見事解決していく!書下ろし「ジョロウグモの拘」を収録。 昆虫と本格ミステリについてのユニークな注釈を新たに付加。
ある日目が覚めると、葉古小吉(はぶる・しょうきち)はゴキブリになっていた。
こんな衝撃的な(でもどこかで聞いたことがあるような(笑))文章で幕を開けるこの作品。
普通だったらいきなり人間からゴキブリになっていたら、驚いたり、悩んだり、哀しんだりしそうなものだけど、
この小吉は地味で目立たない存在のまま30数年を人間として過ごしてきた、しかも無類の虫好き。
むしろ喜んで虫社会の一員になり、探偵シロコパκ(カッパ)氏(熊ん蜂)の助手として活躍(?)する、というお話。
初めて読む作家さんでどんな作風か判らなかったし、カバーイラストが蝶と蛾、 蟻の端正な細密画だったのでもっとシリアスな話かと思ったら、かなりユーモアの効いた作品で楽しく読めた。
いや、確かに変わった作品だとは思うけど(笑)
だって、虫社会で起きた殺虫事件を「虫の生態や論理に従って」解決するなんて話、普通考えないと思う。
推理小説だと思って買ったのに、いきなり虫の生態について詳しい説明が書かれていたらちょっと驚くよ。
(説明が上手いのですごくよく判ったけど(笑))
でも、何故かこれが面白かったんだな~。
ここまで徹底するとむしろ見事、という感じ。
しかも元々の設定からも判るとおり真面目一辺倒の作品ではなく、その中に笑いもちゃんと同居しているから非常に読みやすい。
例えば虫の生態や行動の正確な説明を繰り広げる一方で登場虫そのものは大胆に擬人化されている部分とか、ペリプラ葉古(小吉)
が人間のときの知識・常識・行動パターンでもって虫の事件を解明しようとするとすかさずシロコパ氏から「ここは人間界じゃない」
ってダメ出しが入るところとか。
あと、事件そのものも虫の生態の中で説明、解明していながらも、
それ自体はちゃんと推理小説のセオリーにのっとった書き方がされているのも巧いと思った。
大胆な発想と、繊細な構成が融合した作品という印象。
もちろん虫嫌いの人は苦手だと思う。
全編虫だらけだし、しかものっけからいきなり主人公が「ゴキブリ」なわけだから(笑)
私だって、これがマンガとか映像だったら「勘弁して下さい」ってことになったかも知れないけど、
文字で読む分にはそんなにイヤではなかったな。
「蝶々殺蛾(さつじん)事件」、「哲学虫(てつがくしゃ)の密室」、「昼のセミ」、「吸血の池」、「生けるアカハネの死」、
「ジョロウグモの拘」、「ハチの悲劇」の七編を収録。
この過去の推理作品のタイトルをもじった各編のタイトルはじめ、最後に明かされる意外な真実など細部にわたって計算されているけど、
それがイヤミにならないところがセンスがいいと思う。
また他の作品も読んでみよう。
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コメント
鳥飼否宇さんの作品でオススメは「非在」と「中空」です。
投稿: ZZzz.... | 2007/08/04 16:43
■ZZzz....さん
こんにちは。コメントありがとうございます。
実は鳥飼さんの作品はこれ以来読んでいませんでした^^;
「非在」と「中空」ですね。
Amazonであらすじを読んだところ「非在」のほうが好きそうなので、こちらをチェックしたいと思います。
最近読書スピードがかなり落ちているのでいつになるやら…って感じですが^^;
オススメありがとうございました♪
投稿: tako | 2007/08/06 23:47