山本一力/草笛の音次郎
草笛の音次郎
山本 一力
内容(「BOOK」データベースより)
三度笠、縞の合羽に柳の葛篭、百両の大金を懐に―。今戸の貸元、恵比須の芳三郎の名代として成田、佐原へ旅する音次郎。 待ち受ける試練と、 器量ある大人たちが、世の中に疎い未熟者を磨き上げる。仁義もろくにきれなかった若者が、 旅を重ねて一人前の男へと成長してゆく姿をさわやかに描いた股旅ものの新境地。
あまりこういう任侠、股旅ものって読む機会がないので他の作品はよく判らないけど、多分普通は「旅慣れた渡世人が各地を巡って歩く。
その先々で遭遇する丁々発止の物語」であることが多いと思う。
でもこの作品は「初めて江戸を離れた青年がその旅によって成長する」物語。
いわゆる「ロードノベル」とか「青春小説」って要素を持った物語だった。
そのせいか、絶対的な悪役一味を除いては、登場人物はみな主人公の未熟ながらも真っ直ぐな人となりに感銘を受けて、
彼の成長を手助けする「善き人」として描かれている。
前の宿場で起こった事件のあと、そこで見聞きしたもの、出会った人、託されたものが次の事件の切っ掛けや重要な鍵になっているあたりとか、
ちょっと「ロールプレイングゲーム」に近い要素もあったり?(これも私は詳しくないので全く見当違いの意見かも^^;)
でもその伏線が上手く効いていて、物語を読みやすくする推進力になっているのは確か。
「のろ」「回り兄弟」「すいべら」「助け出方」「すべりどめ」と一つ一つの物語はそれぞれ完結しながらも、次の、
そしてその後の物語の出発点となり、最終話「まるい海」のラストで最初の出発点となった今戸へ戻ってくる、という構成が非常に読みやすく、
最初から最後まで面白く読むことが出来た。
主人公の音次郎は小さい頃父親を亡くし、母の手一つで育てられ、10歳から母の勤め先である瓦版の刷り元で修行を始める。
ひとかどの職人となった21の年に同僚から誘われた博打が切っ掛けで刷り元を馘になり、
その後今戸の貸し元恵比寿の芳三郎の元で下働きを始める。
母の面倒をみるため深川から今戸まで通いで修行を続けた音次郎が芳三郎の名代として初めての旅に出たのは27歳のとき…という設定。
成田までの旅の途中で出会う人々がこの音次郎の素直さ、頭(勘)の良さ、誠実さ、度胸、他者への思い遣りなどに感銘し、
彼をいっぱしの渡世人として成長させるための様々な知恵や教えを授けていく。
その行動や言葉を受けて音次郎もまた真っ直ぐに大きな男への道を歩んでいく…という迷いのないスッキリした構成は好感が持てた。
でも、ちょっと音次郎の設定って年のわりには素直すぎるというか世間知らず過ぎる…って感じに思えるんだけど。
今だって26~7歳って言ったら、そこそこ人生経験を積んで「若者」からは少し「ちゃんとした大人」になろうとしている時期でしょう。
だとしたら250年前の江戸の27歳っていったら今よりもずっと大人だった(老成していた)と思うんだけど。
しかも音次郎は10歳の年から他人の元で修行をしていたし、しかも貸元のところでも5年くらいは修行しているわけでしょう。
それで(いくら江戸から遠出したことがないとは言っても)あそこまで世間知らずだったり、
言葉さえも最初は渡世人言葉も使えないって設定はちょっと極端じゃないのかなあ、って印象を持った。
といっても、それもまた音次郎の特徴として魅力的に描かれていたので「ヨシ」としておこう。
しかも爽やかなだけでなく「うなぎを食べると女っ気なしではいられなくなる」という設定もあったりするところが笑えた(笑)
ところで読んでいて思ったんだけど「~おりやす」とか「そうでさ」とか「ござんす」とかの渡世人言葉っていうのは、 方言か何かなのかな?
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