三谷幸喜/オンリー・ミー-私だけを
オンリー・ミー―私だけを
三谷 幸喜
内容(「MARC」データベースより)
東京サンシャインボーイズの脚本家として「12人の優しい日本人」などを世に送り出した著者による待望の初エッセイ集。
単行本として1993年に出版され、その後1997年に文庫化された三谷さんの初エッセイ集。
今や『古畑任三郎』や大河ドラマ『新選組!』など数多く(?)
の人気テレビドラマの脚本家として名前も顔も知られるようになってきた三谷さんだけど、
これがまとめられた10年ちょっと前にはまだ演劇界の比重の方が高くてテレビでは初めてのドラマ脚本(『振り返れば奴がいる』)
を手がけたばかりの頃。
私はもともとお芝居がすごく好きで、ちょうどこのエッセイが出るちょっと前(15年くらい前)
が一番いろんな劇団の公演を見に行っていた時期だと思う。
その当時三谷さんが主宰していた「東京サンシャイン・ボーイズ」の公演も、1992年の「なにもそこまで」、 「もはやこれまで」、
1993年の「彦馬がゆく」の都合3本に足を運んだことがある。
「東京サンシャイン・ボーイズ」の舞台を観て一番感じたのは「たくさん人が出てくる芝居だなぁ」ということ。
しかも更に印象的なのは、そのたくさん出てくる登場人物の誰一人として影が薄い、単なる「脇役」的な人がいない、ということ。
これについてはこの本の「第三章 大演劇論『八方美人論-あなたもすぐに座付になれる』」の中で三谷さん自身が
私の場合、劇団には常に十四人の役者がいて、毎回全員が登場する話を考えなくてはなりません。 その中の誰一人としてただの通行人であってはならず、仮に通行人であったとしても、 それは見せ場を持った通行人でなければならないのです。 ただ上手(かみて)から下手(しもて)に通り過ぎるのではなく、 彼には彼なりのドラマがなくてはなりません。
と書いている。
確かに、あの劇団の舞台というのはそういう決意というか配慮の行き届いた舞台だった。
といっても、単に人が出てきてたくさん喋って見せ場がある、けどツマラナイ芝居、というわけではない。
それだけの人数が登場してそれぞれ見せ場を作って、すごい量のセリフを言うのに、観客に内容がちゃんと伝わって、しかも掛け値なしに面白い、
更には上演時間がけっこう短いというところが凄いなあと(今更ながら)思うのだ。
本の中では冗談っぽく書いているけど、これは現在に至るまでの三谷さんのTV、映画、
舞台の作品に於いても同じことに注意を払って作っていらっしゃるんじゃないかなあと思う。
(多少は制限が緩くなっている部分はあるにしても)
そう考えると(1年という長い期間を与えられていたとはいえ)『新選組!』であれだけの数の登場人物たちを誰一人おろそかにせず、
それぞれの人生と個性を描ききった群像劇に仕上げてくれたのは三谷さんだからこそ、と改めて感じた。
劇団はその後1994年に「30年間の充電期間」に入ってしまうので、今考えると本当に「ギリギリ間にあった」という感じ。
それよりも以前から名前と評判は聞いていたのに、何故か「観に行こう」
と思うまでに時間が掛かってしまい結局最後の方の何作品かしか見られなかったことは本当に残念。
でも、今は観たくても観られないと考えれば「それだけでも観ておけてよかった」っていうべきかな。
それにしても最後の頃は当時でも随分人気があったと思うけど、公演している劇場は「シアター・トップス」クラスなのかあ。
お芝居で食べていくのはやっぱり大変なことなのね~^^;
今もその傾向があると思うけど、この「やっとちょっと名前が売れてきました」
な頃の初エッセイ集には三谷さんの懸命に人を笑わせようとする真面目さ、と人が感じることを計算しているしたたかさみたいなもの
(回りくどい(笑))が非常に強く出ていると思う。
キャッチコピーの「1ページで1回笑えます!」ってほどではなかったけど(笑)、あの短い紙面の中で「面白くしよう」
と思って書いたものがちゃんと完結して成功しているのはやはりスゴイと思う。
「あとがき」で『これほど読んで役に立たないエッセイも珍しいかも知れない。』と不安になっていたようだけど、単純に「面白かった」
だけでも充分だよね。
「役に立つ」本を書くより「面白い」本を書く方が100倍は難しいと思うし、しかも世の中には「役に立たない」上に「つまんない」
本なんて山ほどあるもの(笑)
意外だったのは解説を書いている女優の斉藤由貴が書いている文章が思いがけず巧かったこと。
決して美文というのではないけど、独特のテンポとリズム、勢いがあってとても読みやすかった。
喋ったり、演技しているのは今ひとつ好きになれない女優さんなんだけど、もしかしたら著作は気に入るかも?
機会があったら作品を読んでみよう。
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