宇月原晴明/安徳天皇漂海記
安徳天皇漂海記
宇月原 晴明
内容(「BOOK」データベースより)
悲劇の壇ノ浦から陰謀渦巻く鎌倉、世界帝国元、滅びゆく南宋の地へ。海を越え、時を越えて紡がれる幻想の一大叙事詩。
タイトルに惹かれて読んで、あまりの難しさに眩暈がしそうになった(笑)『信長~あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』以来の宇月原作品。
壇ノ浦で源氏に敗れ祖母の尼君とともに入水した悲劇の幼帝・安徳帝。
誰の目にも死んだと思われたその高貴な血筋を持つ少年は、琥珀の珠に守られて海を漂い続けていた。
その安徳帝の存在により悲劇に導かれていく人々の姿を描いた物語。
面白かった。
題材が題材だし、ファンタジーというか幻想小説、伝奇小説の趣もあるので、決してとっつき易い作品ではないと思う。
正直私も読み始めてしばらくはなかなかページが進まなくて苦労したし。
でも、全編「暗号で書いてあるのでは?」(笑)と思うほど難解だった『信長~』に比べたら文章も設定も平易に描かれているので、読み進めるうちに登場人物と物語設定、そしてその雰囲気に次第に引き込まれていって少しずつスピードが速くなっていった。
安徳帝を死に追いやった源氏の棟梁として将軍職を継ぐ実朝が安徳帝に出会い、彼の荒ぶる魂を鎮めるためにその命を差し出すまでをかつて実朝の傍近く仕えた老隠者が語る第一部。
琥珀の珠の中から実朝とその若き近習の夢に現れ、ひたすらに自分の兵を求める安徳帝の無邪気さが恐ろしくも哀しい。
更に時代は下り、いましもアジアの覇権を握ろうとするクビライ・カーンの巡遣使としてその老隠者の話を聞いた若きマルコ・ポーロが次に赴いた南宋で、今まさに滅びようとしている帝国の最後を見守る第二部。
クビライ率いるモンゴル軍に祖国を追われ、海上での生活を強いられ、その子どもらしさを表現することを禁じられた少年は夢に現れた同じ年頃の少年と友人になり束の間の楽しい時間を過ごすことになる。
南宋の最後の皇帝・趙昺(ちょうへい、「へい」は日の下に丙)は、その後引き写したようにその友人と似通った運命を辿ることになる…。
全体的な内容は「滅びに至る悲劇の物語」なのだけれど、その読後感は不思議と明るく温かい。
それは、その物語の最後に配された結末が癒しと慈しみに満ちたものであったからだと思う。
独りぼっちでその小さな身体を自分の腕で抱きしめながら遠い海を彷徨い続けた安徳帝の魂が、金色に光る島で生きる神々の末裔の一人として優しく迎え入れられたとき読者は自分も「赦された」と感じるのかもしれない。
浪の彼方にも都のさぶらふぞ
信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス
宇月原 晴明
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