大崎梢/晩夏に捧ぐ〈成風堂書店事件メモ(出張編)〉
内容(「BOOK」データベースより)
以前成風堂にいて、今は故里に帰り、地元の老舗書店に勤める元同僚の美保から、杏子のもとに一通の手紙が届いた。勤務先の宇都木書店、通称「まるう堂」に幽霊が出るようになり、店が存亡の危機に立たされている、ついては名探偵のアルバイト店員を連れて助けに来い、というのだ。杏子は気が進まぬながら、多絵を伴って信州の高原へと赴く。そこで待ちかまえていたのは、四半世紀ほど前に弟子の手で殺されたという老大作家の死に纏わる謎であった…!「本の雑誌」二〇〇六年上半期ベストテンの堂々第二位に輝いた「配達あかずきん」で今もっとも注目を集める著者、初の長編推理小説。
シリーズ1作目の『配達あかずきん』と一緒に図書館に予約しておいたら、こちらの方が早く手元に回ってきてしまった。
ということで、シリーズ2作目からの読み始め。
東京近郊の駅ビル内の書店「成風堂」の店員・杏子とアルバイト店員・多絵のコンビが本屋さんで起こる謎を解く話…ということで楽しみにして読んだんだけど…う~ん…残念ながら「イマイチ」な感じ。
まず「"老舗の本屋に幽霊が出たから"それを解決するために、休みを使って長野まで行く」という設定がなんだか腑に落ちない。
まあ、ここを否定してしまうと話が始まらないんだろうけど(笑)、でも普通に考えて「幽霊が出た」から「それを解決して欲しい」って人に頼むかな?
(そういうことを職業にしている人に頼むというなら判るけど)
しかも、その頼んできた相手はその幽霊を"本当に"幽霊だと思ってる、そして更にはその幽霊の正体まで判ってる、またその町に住む多くの人がそのことをそのまま受け入れてる(誰も疑ったり、否定したりしない)って…かなり無理があると思うんだけど。
こんな話、普通だったら聞いた時点で"勘違い"や"気のせい"だと思うし、それにプラスして関係者の周囲で他の小さな事件が起こっているとしたら人為的なものを疑う方が自然でしょう。
だから話のきっかけとして出てくるというなら理解できるけど、あくまで「本物の幽霊」の存在を前提に話を進めていることがずっと最後まで気に掛かった。
なので私はずっと「町の人(少なくともその本屋の人々)には自分たちからは言えないけど他人の手で明らかにしてもらいたい事実があるので、敢えて幽霊騒ぎにかこつけて彼女たちを呼びだした」という設定を考えていたくらい(笑)
そのくらい「幽霊が出たから何とかして」って(何も事情を知らない)人に頼むなんてのは無理のある設定のように思う。
また、こうやって呼び出された杏子と多絵が、30年近く前にその町で起こった人気作家の殺人事件とその犯人とされ逮捕されたけど自分からは何も語らずにそのまま獄中で死んだ彼の弟子について調べる、というストーリーなんだけど…幽霊騒ぎを収めるのに、なんで今更昔の事件を、それも全くの部外者がいきなり調査するのか、という説得力も希薄。
文章はすごくまとまっていて読みやすいし、探偵役の2人をはじめとして登場人物の造形はしっかりしているのでその勢いで読めてしまうんだけど、あまりにも曖昧なまま話を引っ張りすぎるので途中ちょっとイラつく部分もあり。
ただ、この物語の最後に明かされる、今回の事件(幽霊騒ぎを含む)の発端となる過去の殺人事件にからむ謎はとても面白かった。
すごく複雑で深みのある興味深い設定なのに、それが内容に殆ど活かされていなかったのが残念でならない。
この設定があるなら、もっと違ったアプローチでもっと面白い作品が書けたんじゃないのかなあ…。
物語の冒頭に出てくる威風堂の店頭でのちょっとした謎解き(本編とは殆ど関係のない)はすごく簡潔で明解で面白かったし、物語の中に出てきた本屋さんの仕事についてのちょっとしたこぼれ話や(愛情溢れる)こだわりはなかなか楽しかった。
この感じから行くとこの作者さんはこうした血生臭い殺人事件より、自分の周囲で起こる勘違いや小さな感情のもつれなどを扱う、いわゆる「コージーミステリー」のが得意なんじゃないのかな。
1作目は短篇集らしいので、そんな感じの物語が集まっているとしたらこの作品よりも私は好きかも。
期待して待ってみよう。
最後に、物語の展開とは全く関係ないんだけどすごく気になったことが一つ。
長野滞在3日目、
七時に叩き起こされた杏子たちは美保いわく「超スペシャルなゲストさま」に会うことになった。~略~急かされた杏子は化粧もそこそこに、九時前には町はずれのブナ林にたどりついた。
というような状況で宿泊先(美保の家)を出てきて、そのあとこのゲストも含め3人の関係者に次々と会って話を聞いた後…そのまま温泉に一泊しに行ってしまうのだ。
…いつの間に泊まりの準備をしたの?^^;
話の流れとしてはもともと温泉の予約はしてあったらしいので朝出る前に「念のため」って準備だけしてきたとも考えられるけど、その日に必ず行けるとは決まっていなくて「やっぱり行こう」となったのは3人目の話を聞いたあとなんだよね。
だからすごく唐突な印象が残った。
セリフ一つでいいから何らかのフォローがあったら判りやすかったなあ。
(細かいこと気にしすぎ?^^;)
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配達あかずきん
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