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2007/06/30

剣持鷹士/あきらめのよい相談者

あきらめのよい相談者
あきらめのよい相談者

内容(「BOOK」データベースより)
開業を夢見る若き弁護士の僕は法律事務所に勤めている。人の数だけドラマがある、ましてや弁護士に持ち込むのだから、というわけでもなかろうが、ともすれば理解に苦しむ依頼にぶつかる。こういう場合に重宝なのが友人のコーキで、彼の端倪すべからざる推理力には高校時代から舌を巻くばかり。あきらめがいいんだか悪いんだか判然としない客のことも、飲みながら話すうちに…!第一回創元推理短編賞受賞。

「弁護士が主役」というとTVドラマだったら、難事件に遭遇してその調査を進めるうちに自分の身にも危険が及ぶけど、仲間の協力によりそれを退け最後には法廷シーンでクールに弁舌をふるい、悪を断罪する…というイメージ。
(こうやって概略だけを書いていて気付いたけど、このパターンって殆ど「大岡裁き」の世界だね(笑)やっぱり日本人はこういうの好きなのね。確かに「勧善懲悪」というのは非常に判りやすいし、見終わってカタルシスが得られるテーマではあると思う)

でも、この作品はそういうTVで見慣れた「正義の味方」の代名詞のような弁護士の話ではない。
主役である九州・福岡在住の若きイソ弁(居候弁護士)剣持鷹士くんは、弁護士として独り立ちこそしていないものの仕事ぶりもよく周囲から信頼されている。
その彼の法廷での活躍振りを描く…ということはなく、この作品の中で彼はただひたすら「相談者」の話を聞いて、困ったりイライラしたり悩んだり落ち込んだりしているのだ。
その「相談者」たちの困った、あるいは不思議な話や行動を昔からの友人で現在司法試験に向け勉強中(ということになっている)コーキに話して解決へのヒントを貰う、という設定。

この短篇集の一番の特徴は主役弁護士が相手をするのは「原告」ではなく「相談者」だ、ということかも。

確かに弁護士事務所に持ち込まれる相談全てが裁判沙汰になるわけはない、というよりも裁判に持ち込まれる(持ち込める)案件のほうが割合で行ったら圧倒的に少ないんだろうね。
ただ一般市民として考えると、困って困ってどうしようもなくなったときに一縷の望みを託して訪ねていくのが弁護士事務所、ってイメージがある。
「ここだったら自分の言い分を判ってくれる人がいる」「自分の悩みを何とかしてくれる人がいるはずだ」と藁にもすがる思いで、決死の覚悟(大袈裟?)でそのドアを開けるのであろうに、そこで剣持くんのように「それはちょっと法的には責任は問えませんね」みたいなセリフをサラッと言われたらやっぱりちょっとショックだと思う。
(言ってる本人はいくら気を遣っていたとしても)
確かにプロの目からしたらそんな質問は日常茶飯事でいちいちそんな相談に時間を割いていられない、また法的にもそれが正しい結論なのかもしれないけど、一般ピープルとしては「生活(人生かも)かかってんだよ!」なことも多いと思う。
そのあたりがかなり詳細に、それこそ弁護士に対して失望感を持ってしまうくらいに丁寧に描写されているのが非常に印象的だった。
その両者の温度差をどうやって埋めるか、そして相手を納得させるかというのもまた弁護士という職業の、表には現れないけど非常に重要な仕事なんだろうな。
著者は大学法学部出身で自身も現役の弁護士らしいので、この作品に描かれる相談者とのやり取りも自分の経験から来るものなんだろうと思う。
普段はメディアでは弁護士という仕事のあまりにも華やかというか攻撃的な部分ばかりを拡大表示して見せつけられているので、普通に考えれば当然あるであろう、こういう地味な部分の描写が却って新鮮だった。
それから、ガッツリ博多弁丸出しで描かれる鷹士、コーキ、広瀬の気の置けない友人同士の会話も勢いがあって楽しかった。

ただ、ミステリーの部分は成立要素も含めてちょっと強引な部分があって、あまり感心しなかったけど。

表題作のほか「規則正しいエレベーター」「詳し過ぎる陳述書」「あきらめの悪い相談者」の4編を収録。

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