津原泰水/ルピナス探偵団の当惑
内容(「BOOK」データベースより)
「そうだ、検視の結果なんだけど」と姉(警察官)は言い、「いい。聞きたくない。いま食べてるし」と私(女高生)はかえすのだが、「じゃあ聞かないで。勝手に喋るから」そうして事件に巻き込まれ(押しつけられ)てゆく私たち。どうして殺人を犯した直後に被害者の残したピザなんかを食べていったのだろうか、どうして血文字のダイイング・メッセージ(らしい)はわざわざ鏡文字になっていたのか、そしてどうして死体から腕だけを無理して盗んだのか―。才人津原泰水が本格ミステリーの粋を凝らした傑作。
惜しい。
この本には同じ登場人物が出てくる短篇が3つ(「第一話:冷えたピザはいかが」「第二話:ようこそ雪の館へ」「第三話:大女優の右手」)収録されている。
最初の「冷えたピザ~」はすごく面白くて『これはもしかして今年のベストかも!』と思ったくらいなんだけど、その後「ようこそ~」「大女優の~」と読み進むにつれて第一話のワクワク感がだんだん薄れてしまい読み終わったときにはちょっと残念な気分になってしまった。
いや、面白かったんだけどね。
作品としては星4つ(3つ半かな)くらいいくでしょう。読みやすいし。
でも最初の面白さがあまりに強烈だったので、後半パワーダウンしたという印象は否めない。
第一話の何がそんなに面白かったかというと、ミステリーとそうじゃない部分(例えばラブコメディとかホームドラマとか)が当たり前に並立して存在しているところ。
主人公の彩子が学校の校庭で片想いの相手・祀島くんに一ヶ月掛かって書いたラブレターを渡そうとしているところに不二子がいきなり車を乗り付けて「事件が起きたから早く来て」って無理矢理連れて行こうとする導入部がまずすごい。
で、そのまま事件に巻き込まれていくのかと思いきや、祀島くんとの話や学校での生活、不二子との日常的(?)な会話もまた同じように描かれている。
それに対して第二話、第三話は物語全体が事件の謎解きメインになってしまっていたし、特に第一話で思考力も言動もかなり乱暴だった不二子の反応が普通の刑事っぽくなってしまっていたのが残念だった。
それから第一話では祀島くんがあまり前面に出てないのもよかったな。
「謎解き」の部分でかなり重要な鍵を握っていることは事実なんだけど、あまり事件自体には興味がなくて別の部分を見ていたら図らずも核心に近づいてしまったという感じが彼の物事に動じないマイペースなキャラクターに合っていた。
それに比べると後の2作では自分から積極的に事件に関わりすぎという印象が強くて、それが第一話で感じた祀島くんのイメージとはちょっと違うかな、と。
うん、第一話は登場人物の言動や考え方がバラバラでそれを制止する役割も正しい方向に物語を先導する役割も誰も担っていないにも関わらず、物語が破綻せずにミステリーとしてもコメディとしても成立している、という微妙なバランスがよかったんだなと思う。
で、それに比べると第二話、第三話は普通のミステリーになってしまっていたよということ。
そんな中、会話文の軽妙さは3作品共通。
テンポ、ツッコミ方、はぐらかし方、言葉の選び方、笑いのセンス…読んでいてすごく気持ちよかった。
文庫版の帯情報によると今年の秋にシリーズの新刊(「ルピナス探偵団の憂愁」)が出るらしい。
つまらなかったわけではないので、次回作もチェックしておこう!
不二子の暴走が復活してますように!(笑)
<関連サイト>
■aquapolis :作家の公式サイト
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