鯨統一郎/浦島太郎の真相
渋谷にある日本酒バー〈森へ抜ける道〉の常連で私立探偵の工藤が抱える難事件を、美人お嬢様大学院生でメルヘンの研究をしている桜川東子(はるこ)が日本のおとぎ話をヒントにして解明していくミステリー短篇集。
以前読んだ『九つの殺人メルヘン』の続編。
物語の前半でバーのマスター・島と工藤、もう一人の常連・山内の3人(名付けて「ヤクドシトリオ」)の無駄知識(トリビア)合戦が展開され、その後工藤の抱える事件が披露されそれを東子がおとぎ話をヒントに隠された犯人の「心のアリバイ」を解いていく…という前作と殆ど同じ趣向。
違っているのは『九つの~』では謎解きに使われるのは外国のおとぎ話(童話)だったのが、今回は日本のおとぎ話(民話)に変わったのと、東子が大学生から大学院生になったこと、工藤が警察を辞めて私立探偵になったこと…くらいかな?
相変わらず前半のトリビア合戦が圧巻。
といっても私の場合、殆ど判るものがなかったけど^^;
(これは年代的なものよりも、小さい頃の私がどれだけ「何も考えていなかったか」「記憶力がなかったか」によると思う…)
その中でちょっとついて行けたのはTV関連(アニメとドラマとお笑い芸人)の話題の部分。
「そういえばそんなのあったなあ」という部分が多くて楽しめた。
でも、たとえ判らなくてもこれだけいろんな固有名詞が次々と繰り出されていくと、読んでいるだけで判ったような気になってしまうのが不思議。
おとぎ話の新解釈の部分は「なるほど」とは思うけど、爆発的に意外性があって「鱗がボロボロ落ちました」というのはなかったかなあ。
ただ「カチカチ山」の真相はかなり納得した。
そうなんだよね、あそこに出てくるウサギはやたらに凶暴なので「なんとなく違和感あるなあ」と感じてはいた。
ただその前に「でも元々はタヌキが悪い」という前提があって「だから仕返しされるのは仕方ない」納得しちゃってた。
また、(多分)「ウサギ」=「善良な第三者」という図式を勝手に作って、だからそんなにひどい登場人物(人じゃないけど)のはずがないと思いこんでいた部分もあるかも。
(あとは、最初のタヌキは自分でおばあさんを叩き殺す(!)けど、ウサギはけっこう頭を使った方法でタヌキを懲らしめるので結果はかなり凶暴だけど手口で誤魔化されていたのかも)
でもその考え方より、この解釈のように「死んで(殺されて)しまったおばあさんの後釜につくことを目論んだ別のタヌキがウサギに化けて最初のタヌキを追い出した」と考えたほうがスムーズな感じがするな。なるほど。
ただ、そうなると気になるのは「誰がこの話を考えたのか」ってこと。
誰か見ていた人がいたんだろうか…。
表題作の他「桃太郎の真相」「カチカチ山の真相」「さるかに合戦の真相」「一寸法師の真相」「舌切り雀の真相」「こぶとり爺さんの真相」「花咲か爺の真相」の8編を収録。
九つの殺人メルヘン (光文社文庫)

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