浅田次郎/お腹召しませ
内容(「BOOK」データベースより)
入婿が藩の公金に手を付けた上、新吉原の女郎を身請けして逐電。お家を保つために御留守居役が出した名案は「腹を切れ」。妻にも娘にも「お腹召しませ」とせっつかれ、あとにひけなくなった又兵衛は(表題作)―二百六十余年の太平で、武士の本義が薄れてきた幕末から維新にかけてを舞台に、名手が描く侍たちの物語。全六篇。
江戸末期を舞台にした時代小説短篇集。
表題作の他、「大手三之御門与力様失踪事件之顛末」、「安藝守様御難事」、「女敵討」、「江戸残念考」、「御鷹狩」の6編を収録。
以前読んだ『五郎治殿御始末』は明治に変わってからの生活や習慣の激変の中でその流れに翻弄されながらも己の矜持を保ち、必死で生きていこうとする「元武士」たちの姿が感動的に描かれていて泣ける作品集だった。
一方この作品はもうちょっと時代が早く、足音は聞こえているのでちょっときな臭いな、と感じつつもまだ制度としての「江戸」の形は残っているので気楽な雰囲気が残っているといった感じ。
本人はすごく困っているんだけど、端から見るとその必死さが可笑しい、といった感じの作品が多かった。
中でも思いがけず大藩の主になってしまった主人公が初めて経験する「斜籠」という謎のしきたりに右往左往する「安藝守様御難事」は、本人の悩みが真剣であればあるだけその悩みよう、慌てようが可笑しかった。
また、そんな彼を笑いながら読んでいる読者もまた徐々に「斜籠」とはなんぞや?という謎に絡め取られていく、といったミステリー的な要素もあり。
ただ、そうやって盛り上がった分、最後の謎解きが今ひとつハッキリしないあいまいな描写で終わってしまったのはちょっと残念。
(まあ、「大人の事情」ってイメージは伝わって来たけど)
肩が凝らずに楽しめて、それでいて読み終わると何か大切なものについて考えさせられる作品集。
物語の冒頭と最後にこの話を書いた人物が出てきて物語の生まれた背景やきっかけ、物語の後日談に触れるという構成も効果的だった。
五郎治殿御始末 (中公文庫)この作品の感想もよかったらどうぞ。
■浅田次郎/五郎治殿御始末
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