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2009/05/12

今野敏/半夏生

半夏生―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)
半夏生―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京お台場のビルの狭間で、アラブ系と思われる外国人男性が倒れているのが発見された。事件性の疑いはないと考えられたが、男性は原因不明の高熱を発し、間もなく死亡。それを機に、東京湾臨海署の安積班にただならぬ空気が流れはじめる―本庁公安部が動きだしたのだ。海外からウイルスを持ち込んだバイオテロなのか?地域・道路封鎖に奔走する安積たちの不安をよそに、事態はさらに悪化の気配を見せはじめた!大好評長篇警察小説、待望の文庫化。

シリーズものって、最初は気に入って読み始めても4~5冊読むとだんだん飽きてきたり、表現が鼻に付くようになってしまい途中で投げ出してしまうことがけっこうあります。
中にはあと数冊で全部読み終わるってところで挫折する場合もあったり。

そんな中、この安積班シリーズは順調に読み進みあと1冊(『蓬莱』)でコンプリートというところまで来ました。
びっくりするくらいリーダビリティがいいですね。
時々ちょっとしつこい表現でイラッとすることもあるのですが、それ以上に全体の丁寧な展開や緩急のリズム、登場人物の魅力などが勝っていて、どんどん読めてしまいます。

この作品も面白かったです。

お台場で身元不明のアラブ人が原因不明の高熱で行き倒れているのが発見され、サイバーテロ実行犯の疑いが掛かる。
臨海署からの報告を受けて本庁の公安部が動き、やがて内閣によるテロ対策室が設置されるという大事件に発展していく。
発生場所から最も近い所轄の臨海署もその騒ぎに巻き込まれる、という内容。

サイバーテロといういつも取り扱っている事件とは違った見えない相手との闘いに翻弄され、先の見えない捜査への不信感、疲労感、焦燥感。
そんな中でもいつもの自分たちの仕事を地道に積み上げることで見えてくる事実…そういった様々な要素が判りやすく丁寧に描かれています。

今回「巧いな~」と思ったのは須田の使い方。
須田と黒木は最初に該当の外国人と接触したため、感染の恐れがあるとのことで入院、隔離されてしまい実際の捜査には参加できなくなります。
でも、須田は(どういう手を使っているのか)度々病院から安積に連絡を入れて、自分や黒木の様子、病院の対応などの情報を安積に提供します。
この須田の情報によって、安積は混乱している状況の中で真実を掴み取り事件を解決に導く重要な役割を果たすのです。
「普通の捜査員は立ち入れない」場所に須田を配置し「動けないけど動ける」状態にした(しかも不可抗力で)というのがこの作品の勝因ではないかと思います。

また、この病院内で黒木は発病したけど、須田は大丈夫だったのですがその理由にきちんと伏線が張ってあるのもよかったです。
(その理由も須田ちゃんらしくてgood!)

今回のメインはサイバーテロ騒動という非現実的な事件ですが、仕事も家も家族もなくし絶望の淵にあった男が再び生きる希望を見つけるというストーリーを絡めたり、珍しく安積と村雨、安積と桜井が業務連絡以外の会話をして、安積の認識の変化があったり、いつもは同じ署内にいても会話も殆どない他の課同士が協力しあって職務に当たって成果を上げていくといった人間的な展開が自然に挿入されていつもの安積班シリーズらしい人情味溢れる演出も健在でした。

今作が他とちょっと違うなと思ったのは、全編を通して日本のテロ対策への批判とも取れる記述が散見されること。
速水が「この国は、じきに滅びるぞ」なんてせりふもあったりして結構過激です。
まあ、ここに書かれていることが現実だとしたらそれも当たらずとも遠からずって感じでしょうか。
しかも現実には安積も速水も、物分かりのいいキャリアもいないわけだし。

はからずも世界的な病気の流行に右往左往している現在。
これは自然発生的なものだから伝播が緩やかだし、情報もきちんと入ってくるし、政府の対応も(今のところ)功を奏しているようなのでマスコミの報道の割にはみんな落ち着いているかなと思いますが、これが明確な悪意を持った何者かが意図的に仕掛けたものでその原因が長時間特定できず、その間にもどんどん感染は広がり患者、死者が増えていく…なんて状況になったら実害がなくても想像だけでパニックになりそう…。 
この本が出版されたのが2004年、それから少しでも状況が好転していることを祈らずにはいられません。

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