西條奈加/金春屋ゴメス
内容(「BOOK」データベースより)
近未来の日本に、鎖国状態の「江戸国」が出現。競争率三百倍の難関を潜り抜け、入国を許可された大学二年生の辰次郎。身請け先は、身の丈六尺六寸、目方四十六貫、極悪非道、無慈悲で鳴らした「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守だった!ゴメスに致死率100%の流行病「鬼赤病」の正体を突き止めることを命じられた辰次郎は―。「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作。
舞台は近未来の日本の中にある「江戸」という国。
日本から属国として認められているが、基本的に<鎖国>状態であるためその他の諸外国との交渉はない。
日本との行き来も厳密に規制されているという設定。
一見時代小説のようでありながら、実はSFなんですね。
タイムスリップものではないのに現在と過去を同時に描ける、しかもお互いに干渉しあうことも(タイムスリップものよりは)容易であるという、ちょっと緩めの設定。
しかも表紙のイラストに描かれた迫力のある人物!
これがタイトルロールの「ゴメス」だっていうんだから、どんなにハチャメチャな物語が展開しているんだろう…と思いきや、内容は意外なくらい真面目だったのでちょっとガッカリでした。
まず、物語の中で描かれている「江戸」国がその風習や人物も含めてきちんと(時代小説やドラマ、映画でよく見る)江戸なんですよ。
しかも物語の殆どが「江戸」での話なので、読んでいるうちに単純に「時代小説」を読んでいるような錯覚に陥ってしまうのです。
ベースは実在の(あるいは私たちがよく知っていると思っている)「江戸」でもいいのですが、それとは別にもっとこの物語の中の「江戸」特有の設定があったり、江戸との対比として「日本」の状況がもっと描かれていたほうがよかったかなという気がしました。
それにゴメスも、外見や噂の中ではかなり強烈な人物として描かれているのですが、実際の言動はけっこうマトモなのでちょっと拍子抜け。
人間離れした外見で乱暴者という部分は読み取れるのですが、「大泥棒も泣いて怖がる」というほどの極悪非道ぶりがあったかと言われると…。
むしろ「見かけは怖いけど、実は頭が良くて情に篤い有能なお奉行」というイメージのほうが強い人物のように思いました。
(でも、ラスト近くで窮地に陥った辰次郎たちを愛馬に乗ったゴメスが助けに来るシーンは(トラックか戦車なみの)迫力があってよかったです(笑))
舞台設定もキャラクター設定も話の内容もそれぞれを見ると面白かったのですが、お互いが遠慮しあって小さくまとまってしまったような印象を受けました。
設定を生かしてもっと弾けた話でもよかったのでは。
この作品はシリーズ化されているとのこと。
全体的な世界観や、文章の書き方などは嫌いじゃないので、別の作品も読んでみたいと思います。
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