小路幸也/ラプソディ・イン・ラブ
夏のある日、古びた小さな家に集まった5人の役者たち。
かれらは全員が役者であると同時に、家族でもあった。
死期が近い名優の最後の映画のために、バラバラになった家族の、最初で最後の同居生活が始まる。
各章ごとにそれぞれの登場人物の視点で語られる構成が効果的。
それぞれのシーンのセリフや動き、心理状態を表現するだけでなく、視点である人物が相手をどう見ているかも同時に表現されていて彼らの関係性が判りやすかった。
真実とも虚構ともつかないセリフも、自然や食事で表現される季節の描写も美しく柔らかい言葉で綴られていてとても読みやすい。
役者としてカメラの前にいるときの張り詰めた空気と、カメラを離れて家族として接するときの穏やかな弛緩が絶妙に配置されて気持ちよくページを繰ることができた。
あとから考えると、家族全員が揃ってその世代で名前が上がるほど演技が上手い役者だったり、しかもそれをお互いが認め合える穏やかな関係だったり、普通では考えられない劇的な過去を持っていたり…とちょっと出来すぎではと思える部分もある。
でも、だからこそただひたすら彼らが作り出す大人の家族の最後の物語に没頭することが出来た。
予告なく始まるオープニングから、静かな悲しみと祈りそして明るく穏やかな未来を感じさせるエンディングまで「小路組」の仕事を堪能でき心地よい余韻の残る作品。
大満足。
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コメント
こんばんは
小路幸也さんって、初めて聞く作家です。
ReaderStoreに「東京バンドワゴン」という本があったので、ダウンロードしてみました。シリーズになっているようで、今のところ三冊あります。
投稿: 涼 | 2011/03/04 22:18
■涼さん
こんにちは。
私も初・小路さんは『東京バンドワゴン』シリーズでした。
これがすっごい面白くて、それ以降一番好きな作家さんです。
昭和のホームドラマ(『寺内貫太郎一家』とか)をイメージさせる、温かくて笑えてホロッとさせる作品です。
他の作品も(ちょっときれいにまとまりすぎる感じはするけど)同様の雰囲気で安心して読める作品ばかりです。
オススメです。
Twitterもやってらっしゃいますよ。( @shojiyukiya )
投稿: tako | 2011/03/04 22:36