樋口有介/船宿たき川捕物暦
著者にとって初めての時代小説とのことだけど、文章が素晴らしく読みやすかった。
特に会話文。
登場人物の性格や立場を的確に捉えた言葉遣いと話しぶり、そしてスムーズでテンポのいい会話の応酬で気持ちよく読み進められた。
また、登場人物たちの人となりや言動、江戸の風習や季節の風物を丁寧に描いた地の文章もよかった。
普通、地の文は過去形で書かれることが多いと思うけど、この作品ではほぼ全て現在形で書かれていたのが印象的。
ただ時制が違うだけなのに、読んだときの印象が随分違って感じられた。
(何となく人物とその周りの風景に少しだけ距離が出来るようなそんな感じ。脚本のト書きみたいだからかな?)
これは他の作品でも同じような書き方なのかな?
それともこの時代小説のためのもの?
いずれにしても、この作品には合った書きかただったと思う。
主人公の倩一郎をはじめとして登場人物も個性豊かで楽しい。
特に倩一郎は長身の美形で冷静沈着、頭も回るし弁も立つ、しかも剣をとっては江戸で一番強いという弱みなしのヒーロー像。
それでいて嫌味じゃなく書いてあるのが上手いなあと思う。
物語は登場人物が多く、筋書きも複雑。
しかも本筋とは関係のないあれこれも横からどんどん沸いてくるので話が膨らむ、膨らむ。
その膨らんだ複雑な話を巧い文章できちんと誘導してくれているので道に迷ってしまうことはなかったけど、それぞれの説明の分量が多いので全体的にちょっと長いかな~という気はした。
最後の落としどころは白黒つけずにグレーなまま終わっているのがちょっと微妙。
相手が大きすぎるというのはあるけど、あれだけの大仕掛けだったんだからもうちょっとスッキリする終わり方でもよかったのでは。
ただ、この敵役の人物は歴史的にはこの後ほどなく殺される運命なので、そのあたりも含めて続編(
『初めての梅』)へつながっていくのかも?
あ、そうそう。
作中に「岡っ引き」の語源「漢字の蚯蚓(ミミズ)の右側(丘引)から来てる」「地面の下で人にわからないところで動いている『目、見えず』(ミミズ)に引っ掛けて別名『目明し』と呼んだ」という説が出てくるけどホントなのかなあ?
創作だとしてもなかなか面白い。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント