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2011年4月の3件の記事

2011/04/21

樋口有介/船宿たき川捕物暦

  船宿たき川捕物暦
    船宿たき川捕物暦  

著者にとって初めての時代小説とのことだけど、文章が素晴らしく読みやすかった。
特に会話文。
登場人物の性格や立場を的確に捉えた言葉遣いと話しぶり、そしてスムーズでテンポのいい会話の応酬で気持ちよく読み進められた。
また、登場人物たちの人となりや言動、江戸の風習や季節の風物を丁寧に描いた地の文章もよかった。
普通、地の文は過去形で書かれることが多いと思うけど、この作品ではほぼ全て現在形で書かれていたのが印象的。
ただ時制が違うだけなのに、読んだときの印象が随分違って感じられた。
(何となく人物とその周りの風景に少しだけ距離が出来るようなそんな感じ。脚本のト書きみたいだからかな?)
これは他の作品でも同じような書き方なのかな?
それともこの時代小説のためのもの?
いずれにしても、この作品には合った書きかただったと思う。

主人公の倩一郎をはじめとして登場人物も個性豊かで楽しい。
特に倩一郎は長身の美形で冷静沈着、頭も回るし弁も立つ、しかも剣をとっては江戸で一番強いという弱みなしのヒーロー像。
それでいて嫌味じゃなく書いてあるのが上手いなあと思う。

物語は登場人物が多く、筋書きも複雑。
しかも本筋とは関係のないあれこれも横からどんどん沸いてくるので話が膨らむ、膨らむ。
その膨らんだ複雑な話を巧い文章できちんと誘導してくれているので道に迷ってしまうことはなかったけど、それぞれの説明の分量が多いので全体的にちょっと長いかな~という気はした。

最後の落としどころは白黒つけずにグレーなまま終わっているのがちょっと微妙。
相手が大きすぎるというのはあるけど、あれだけの大仕掛けだったんだからもうちょっとスッキリする終わり方でもよかったのでは。
ただ、この敵役の人物は歴史的にはこの後ほどなく殺される運命なので、そのあたりも含めて続編(   『初めての梅』)へつながっていくのかも?

あ、そうそう。
作中に「岡っ引き」の語源「漢字の蚯蚓(ミミズ)の右側(丘引)から来てる」「地面の下で人にわからないところで動いている『目、見えず』(ミミズ)に引っ掛けて別名『目明し』と呼んだ」という説が出てくるけどホントなのかなあ?
創作だとしてもなかなか面白い。

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2011/04/17

映画:SP The Motion Picture 革命篇

せっかくだからと思って後編も観てきたわけだけど、残念ながら今ひとつだった。

前編から準備の状況を描写し続けた「革命」自体、こうなるのかなという予想の範囲を出なかったのがまず1つ目。
宣伝用のCMスポットで何度も流れた場面、あれだけで全部説明できてしまう範囲内で終わっていて、ビックリするような意外な展開がなかったのが何より残念だった。

それから、尾形が革命を起こした理由が「大義」と説明されるけど、あの展開では単純な「私怨」でしかないように思えてしまうというのが2つ目。
あれだけ「大義」「大義」って言っていたのに、自分の父親に対して行った浅田の罪を認めさせることしか目的がなかった、そこから先のビジョンがなかったというのはすごく違和感を感じた。

あと、あの革命に井上のチーム以外のSPが多く関わっていたというのも納得できない。
だって彼らは尾形に説得されたわけだから、この計画の後に何もないことはわかっていたわけでしょ。
なのにあそこまで多くのSPが、あそこまで深く加担することに同意したとは思えない。
それともみんな井上のように尾形が最初からそういう目的で呼び集めていたってことなのかな。
さらには(いくら井上のチームの活躍で制圧出来たとはいえ)あんな問題を引き起こし深く関わったSPという組織をそのまま使い続けるとも思えないし。

だいたい、あんな大人数で計画して実行してるのに全然どこからも話が漏れないなんてことあり得るのかな?

アクションシーンもほとんど全部建物の中だったので痛そうなだけで、迫力は今ひとつだったしなー。
(あれだけ殴られても顔が腫れない井上くん…w)

唯一よかったのは笹本と山本の掛け合い。
なんかホッとした(^^)

あの内容なら、2本合わせて1本にまとめてもよかったんじゃないのかなあ。
(特にあの若手官僚連中の鼻持ちならないグダグダ話は無駄だったような気がする)

にもかかわらず、エンディング直前思わせぶりなやりとりの後「Final episode」と出てきたのにはガックリ来てしまった…。
何なのそのやり方…(ーー;)

ということで、多分、最低あと1回はどこかで「SP」が放送されるはず。
せめて映画じゃないことを祈る。

SP 野望篇 DVD特別版
SP 野望篇 DVD特別版
SP
SP

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2011/04/01

‘11年04月の読了本

  • 小路幸也『ピースメーカー』(ポプラ社)
    運動部と文化部が対立する中学校で起こるトラブルをどちらにも属さない放送部の男子2人が解決していく物語。明るくて元気がよくてさっぱりしていて楽しかった。主人公の2人が変に大人っぽくなくていい。それにしても先生が面倒くさすぎる学校だなw
  • 松井今朝子『吉原十二月』(幻冬舎)
    月ごと、季節ごとの吉原の行事や風習、しきたりを2人の性格の全く違う売れっ子花魁を主人公にして描いた連作短編集。相変わらず丁寧な文章で読みやすかったけど、何故かなかなかページが進まず。2人の花魁と語り手(郭の主人)の距離がちょっと近すぎる感じがした。
  • 柳広司『ジョーカー・ゲーム』(角川書店)
    面白かった!「007」には全然興味がないけど、こういうスパイ小説は好きだなあ。信じられるのは自分だけの頭脳+心理戦。派手さはないけど、緊張感のある文章に引き込まれて一気読みだった。早速続編『ダブル・ジョーカー』も予約。楽しみ♪
  • 樋口有介『船宿たき川捕物暦』(筑摩書房)
    文章、特に会話文がすごく読みやすいし、主人公を始めとした登場人物の設定も個性的かつ丁寧で面白かった。内容も複雑な事件をスムーズに誘導していたと思うけど、ちょっと長すぎかなという気もした。でも初の時代小説でここまで書けるのは凄い。続編にも期待。
  • 三上延『ビブリア古書堂の事件手帳』(メディアワークス文庫)
    北鎌倉の古書店を舞台にしたミステリー。謎もその中で扱われる古書も本格的、なのに読みやすくて面白かった。古書店の美人店主・栞子をはじめ登場人物もキャラがはっきりしていて好印象。ただ、最後の話の展開にはちょっとモヤモヤが残った。
  • 北森鴻『香菜里屋を知っていますか』(講談社文庫)
    香菜里屋シリーズ最後の作品集。常連の幾人か、そしてマスター工藤の旅立ち。その後、他のシリーズの主役たちを集めて工藤の過去を語らせる見事な幕切れ。あまりにも見事すぎて泣けた。この魅力的な人たちの物語をもう読めないかと思うと、本当に悲しい。
  • 樋口有介『初めての梅ー船宿たき川捕物暦』(筑摩書房)
    シリーズ2作目。前作同様スムーズな文章で読みやすかったけど、内容は話の筋がいくつもあって複雑だし、登場人物も多すぎて今ひとつピリッとしなかった。長編ではなく、それぞれ短編にして最後にまとめる形式のほうがよかったのでは。
  • 柳広司『ダブル・ジョーカー』(角川書店)
    『ジョーカー・ゲーム』の続編。前作同様、役目に徹したスパイたちのストイックな仕事ぶりが魅力的。特に表題作はオチが想像つくのに、その通りに終わってくれるのが小気味いいという鉄壁な構成。また続きが読みたいなあ。

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