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2011年6月の21件の記事

2011/06/30

竹内真/イン・ザ・ルーツ

イン・ザ・ルーツ
イン・ザ・ルーツ

陽気なジャズトランペッターの祖父から形見として託された根付に込められた謎(物語)をそれぞれの方法で紐解いていく三兄弟の物語。

こういう話って、みんなで一斉に謎に取り組むってパターンが多いけど、この作品は三兄弟それぞれ謎を解くアプローチの仕方もその時期もバラバラなのが面白かった。

人生の転機になる時期に根付の謎と向きあうことで、三兄弟それぞれの生き方や成長にそのまま直結していくという構成がよかった。
三人がそれぞれ個性的だし、周囲の人間関係やエピソードなどもすごく丁寧に描かれていたので一つ一つ独立した物語としてもとても面白かった。
その分長い物語になっているけど(2段組412ページ)文章が軽快でなのですごく読みやすかった。
ただ、同年代の男の子が喋ってるシーンが多いせいか、セリフの部分は時々誰が喋ってるのか判らなくなるときがあったかな。

三人がそれぞれ自分なりの解答を見つけた後に死んだはずの祖父からのメッセージが突然届いて真相を語るというラストも感動的。
ちょっと長くて説明的なパートだけど、それを読者に納得させる上手い演出になっていたと思う。
ただ、祖父と三人の孫ばかりが前面に出ていて、間にいる兄弟の両親はちょっと影が薄くてかわいそう…。
特に家庭を顧みずに自分の好きなことばかりして来た奔放な父親と上手く付き合えなかった息子(三兄弟の父親)には最後にもうちょっと言葉を掛けてやって欲しかったな。

でも全編通して明るさ、前向きさを感じさせてくれる物語で読後感もとてもよかった。
初めての作家さんだったけどとても気に入ったのでまた別の作品も読んでみよう。

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2011/06/28

森谷明子/白の祝宴 逸文紫式部日記

白の祝宴 (逸文紫式部日記 )
白の祝宴 (逸文紫式部日記 )

「紫式部日記」執筆に隠された事件と日記の本当の意味。
『千年の黙(しじま)』に続く、藤原香子(紫式部)が探偵役の平安ミステリー第2弾。

前作『千年の黙』は少々手こずった記憶があったので、2段組330ページとちょっと長めのこの作品も無事読み終わるのかと心配したけど、読み始めたらぐんぐんページが進んであっという間に読了。
面白かった~♪
香子や香子の侍女で助手役の阿手木など主要な人物はもとより、脇役たちも皆な印象的。
数が多い登場人物と複雑な構成の交通整理も上手く出来ていて最後まで楽しく読めた。
紫式部、清少納言、和泉式部と同時代の女流作家三人がそろい踏みするのも面白かった。

なにより実在の作品の印象や内容からこれだけの物語をつむぎだす作家の力に敬服する。

『千年の黙』も今読めばもっと違った感想になるかも。
後でもう一回読んでみよう。

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2011/06/26

吉永南央/その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ

その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ
その日まで―紅雲町珈琲屋こよみ

「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの2作目。
先日読んだ1作目(『萩を揺らす雨」)は先入観に惑わされて楽しめなかったけど、今回は作品の雰囲気が判っていたので素直に読めた。

今回はお草さんの店・小蔵屋のそばに新しく出来た和雑貨屋からの妨害工作と、その店も絡んだ悪質な不動産取引で被害を受けた人のためにお草さんが一肌脱ぐ話。
きれいに全てが解決したわけではないし、ほろ苦い結末ではあったけど、丁寧で誠実な話の展開に好感が持てた。
お草さんが新しい人たちと知り合ってゆくきっかけも自然でよかった。

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西崎憲/蕃東国年代記

蕃東国年代記
蕃東国年代記

倭と唐の間に位置する架空の国・蕃東(ばんどん)を舞台にしたファンタジー。

雰囲気は嫌いじゃないんだけど、今ひとつ。
年代記というわりに時代が進んでいる感じがしないし、登場人物も話によって変わっていくので物語に入って行きにくかった。
一話目の「雨竜見物」は面白かったし、この話に出てきた宇内と藍佐の主従の組み合わせもよかったので全編この2人を中心にした話がよかったな。

蕃東で出版されたという体の書籍からの引用がそれぞれの短編の最後に付されているのが面白かった。

「雨竜見物」「霧と煙」「海林にて」「有明中将」「気獣と宝玉」を収録。

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2011/06/25

柳広司/最初の哲学者

最初の哲学者
最初の哲学者

ギリシア神話や古代ギリシアの偉人を題材にした短篇集。

全て10~15ページほどの小編なのでサクサク読める。
短い枚数の中に登場人物の関係性や言動がスッキリまとまっていて判りやすかった。

中でもミノス王の娘アリアドネが主人公の「恋」が面白かった。

わたしには、いきあたりばったりに己の幸運のみを信じて突き進み、自分を少しも疑わず、またけっして振り返ろうとしないあなたの生き方が、ひどく眩しいものに思えてなりませんでした。

これ、アリアドネが自分の国にやってきた青年・テセウスに対して抱く感想なんだけど…褒め言葉ですか?^^;
このあとテセウスはアリアドネの助言で迷宮から無事脱出し2人でテセウスの故郷に向かって船出するんだけど、その後の結末が見事。
そういう考え方もありますか、と感心した。
「王女メデイア」のメデイアは判りやすい残虐さだったけど、アリアドネは屈折していて判りにくい分たちが悪いな。
原作ではどんな話なのか気になる。

それにしても神話の主人公ってみんな王様や王様の家族なのね。
一般市民は物語の主役にはなれないのかしら。
そうかと思えばどこからかやってきた誰とも判らない人物が王様になっていたりするし。
これも貴種流離譚の一種なのかな。

関係ないけど海堂尊氏の『アリアドネの弾丸』のアリアドネは何の比喩なんだろう。

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2011/06/24

今野敏/奏者水滸伝 阿羅漢終結

奏者水滸伝 阿羅漢集結 (講談社文庫)
奏者水滸伝 阿羅漢集結 (講談社文庫)

謎の僧に導かれ、日本各地から集まった天才的な楽器演奏の腕とセンスそして超人的なパワーを持つ4人の若者たち。
東京の小さなライブハウスで始まった4人の演奏は瞬く間にジャズファンの間で話題になり、その流れはジャズに馴染みのなかった人々の間にも広がっていく。
しかし、それだけの人気がありながら大手音楽事務所からの誘いを断り続ける彼らの周囲で不穏な動きが…。

シリーズ1作目。
登場人物紹介の意味もあってかほぼ全編音楽の話しか出てこないので純粋に音楽小説かと思って心配したけど、最後になってアクションシーンが出てきたのでちょっと安心(笑)

まだ何がしたいのか、何が起こっていくのか、誰と敵対するのかなどが曖昧でボンヤリしてる感じ。
この後の作品ではハッキリしてくるのかな。
あと、せっかく楽器や音楽をこれだけ前面に出すなら、闘い方も直接的な暴力とかではなく楽器や音楽を生かしたやり方のが面白かったかも…。
でも、下手すると変な戦隊物みたいになっちゃうかな^^;

それにしても「どんなにすごい音楽なのか」を文章で読むのはツライ。
どんなに丁寧に書いてあっても(いや、書いてあるからこそ)、さっぱりイメージが出来ないことにイライラする。
これって書いてるほうはどうなのかなぁ?

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2011/06/21

Anniversary 50 カッパ・ノベルズ創刊50周年記念作品

Anniversary50 (アニバーサリーごじゅう) (カッパ・ノベルス)
Anniversary50 (アニバーサリーごじゅう) (カッパ・ノベルス)

綾辻行人、有栖川有栖、大沢在昌、島田荘司、田中芳樹、道尾秀介、宮部みゆき、森村誠一、横山秀夫という錚々たるミステリー作家による書きおろしアンソロジー。
それぞれ物語のどこかに「50」というお題を盛り込んだ作品が収録されている。

アンソロジーは収録作品にばらつきがあることが多いけど、これは始めからこの本のために集められた作品ばかりなのでどれもきれいにまとまっていて読み応えがあった。
またお祝いのための作品なので、全体的に明るく柔らかい雰囲気で終わる作品が多いのもよかった。
作品ごとのお題の使い方を読み比べるのも楽しい。
あまりにも自然に物語に配置されているので後から「そういえばどこで出てきたっけ?」と思うような作品も多かった。

私が好きだったのは宮部みゆきの「博打眼」と横山秀夫の「未来の花」。
「博打眼」は江戸怪談。
真面目に働いてきた商家の主人の元にあるやってきた「災い」をその家の娘と神社の狛犬が協力して退治する話。
短い作品だけどいつもの宮部さんの江戸物らしい、人情味あふれる柔らかな作品。
結末も明るく爽やか。
「未来の花」は《臨場》シリーズの倉石が主人公。
癌で入院している倉石の元に捜査一課の検死官がやってきて倉石に捜査の助言を求める話。
ベッドの上で現場の写真を見ただけで真相を言い当てる倉石の安楽椅子探偵っぷりがカッコいい。
最後に検死官に掛ける言葉にも重みがある。
お題の使い方もひねりがあって面白かった。

その他の収録作
綾辻行人「深泥丘奇談-切断」、有栖川有栖「雪と金婚式」、大沢在昌「五十階で待つ」、島田荘司「進々堂世界一周 シェフィールド、イギリス」、田中芳樹「古井戸」、道尾秀介「夏の光」、森村誠一「天の配猫」

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2011/06/20

太田忠司/予告探偵 西郷家の謎

予告探偵―西郷家の謎 (中公文庫)
予告探偵―西郷家の謎 (中公文庫)

『予告探偵』の1冊目。

古くから続く旧家・西郷家で起きる連続殺人の犯人と事件にまつわる真実を、予告探偵 魔神が解き明かす。

こちらは長編。
amazonのレビューに「ラストが云々」というのがたくさんあったので「何が出てくるのかな~?」と期待半分、不安半分で読み進めていたけど終わってみれば「確かにね…」という感想w
途中で何となくそれらしい記述は見え隠れするし、何と言っても私の場合そのあとに来る2作目を先に読んでいるわけだからある程度は予想できたけど、それでも「なんじゃ、そりゃ」って結末だった。
(あ、謎そのものは予告通りちゃんと魔神が解いてくれるので、ご心配なく)

でも私はそれがなくても2作目の短編集のが好きだな。
「解決を予告する」という設定や魔神の高飛車なキャラはスピード感のある短編向きだと思う。
長編だとそれ以外の要素もたくさん入ってきてしまうのでせっかくの設定の効果が薄くなってしまっていた感じがした。

次もあるならぜひまた短編が読んでみたいな。

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2011/06/18

「森と芸術」展@東京都庭園美術館

久々に目黒の庭園美術館まで足を伸ばして開催中の「森と芸術-私たちの中にひそむ森の記憶をたどってみよう-」展を見てきた。

森や木、自然をテーマにした絵画や工芸品などの作品の数々。
緑がいっぱいの穏やかな雰囲気の作品ばかりで、庭園美術館自体の持つこじんまりとした寛ぎのある雰囲気にも合っていてとてもよかった。
特に古い絵本の挿絵を集めた「メルヘンと絵本の森」コーナーが秀逸。
繊細で美しく幻想的な絵に引き込まれて随分長い時間を掛けて見たうえに、全部回ったあともう一回戻って見てきたくらい。
どれも素敵だったけど、中でもカイ・ニールセンの「ヘンゼルとグレーテル」は素晴らしかった。
110618-13ショップに絵葉書があったので思わず購入。 左端が「ヘンゼルとグレーテル」。
2人が森の中のお菓子の家を見つけるシーン。
絡まり合う木の繊細な曲線と奥で輝くお菓子の家が美しい。


他にはアンリ・ルソー「エデンの園のエヴァ」、アンドレ・ボーシャン「楽園」、ヘンリー・ヒューズリの「シェイクスピア名場面版画集」、モーリス・ドニ「聖母月」、ポール・セルジェ「ブルターニュのアンヌ女公への礼賛」、ポール・ゴーギャン「愛の森の水車小屋の水浴」(よく見るゴーギャンの作品とイメージ違う!)あたりがよかった。

今日はお天気が今ひとつだったせいもあってか館内も庭園も人が少なくひっそりとした雰囲気。
おかげでゆったりじっくり見て回ることができて楽しかった。

7月3日(日)まで開催。

幻想の挿絵画家 カイ・ニールセン
幻想の挿絵画家 カイ・ニールセン

カイ・ ニールセンの画集。
ちょっと高いけど欲しいなあ…。



庭園で花の写真を撮ってきたのでまとめてアップ。

110618-01 110618-02 110618-03
    鉄仙
    バラ
    ブルースター
110618-05 110618-07 110618-10
    サルビア・ガラニチカ。青色のサルビア。蜜はやっぱり甘いのかな?
    アジサイ。
    大きくて花がたくさんついていて見事なアジサイだった。
    カシワバアジサイ。
    これもアジサイの仲間らしい。真っ白で房状の花が綺麗。
110618-12 110618-08 110618-09
    ガクアジサイ。花火みたい(^^)
    水分たっぷりの芝生の緑が綺麗だった。
    日本庭園のお茶室。
110618-04 110618-06
    名前不明。花はノースポールに似てるけど、葉っぱが全然違う。
    ドクダミ。ドクダミは名前や臭いは残念だけど、花は可愛いよね。

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太田忠司/予告探偵 木塚家の謎

予告探偵 - 木塚家の謎 (中公文庫)
予告探偵 - 木塚家の謎 (中公文庫)

面白かった!

『◯月◯日◯時に謎を解きに行く』という、犯行予告ならぬ解決予告の手紙を勝手に相手に送りつけ勝手に現場にやってくる探偵・魔神尊(まがみ・たかし)が主人公。
何が起きるかは魔神自身も全く判らないが、何故かその時になると魔神が解くべき謎を含む事件が起きてしまう、という設定が独特で面白いし、どこに行っても尊大でマイペースな魔神自身のキャラも設定に合っていてよかった。

探偵小説では「事件が起きてから探偵が現場に行く」というより「探偵がいるところが現場になる」ことが多いので、多分それのパロディなんだろうな。

ラストの表題作「木塚家の謎」で明かされる魔神の正体にもビックリしたw

表題作他「カタコンベの謎」「母子像1953」「夏至祭2008」「手品師2135」の5編を収録。

この前にももう1冊(『予告探偵 西郷家の謎』)あるらしいので、それも読んでみよう。

予告探偵―西郷家の謎 (中公文庫)
予告探偵―西郷家の謎 (中公文庫)
 

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2011/06/14

吉永南央/萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ

萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)
萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)

数えで76歳になる草(そう)が主人公。
若い頃離婚しその後一人息子も幼い頃に亡くしたため家族はなく、生まれ故郷で趣味のコーヒー豆と和食器を売る店 小蔵屋を切り盛りしている。
来店した客にサービスとして無料のコーヒーを振舞うため人の出入の多い店内で、ふと耳にした噂話が気にかかり夜中にその現場を訪ねてみると…。

本の裏表紙のあらすじや帯コピーでは「一人暮らしのおばあちゃんが街の中の小さな事件を解決するコージーミステリー」といったことが書いてあるし、表紙のイラストもそんな雰囲気の絵柄なのでてっきり「笑えて泣けるハートウォーミングな軽めのミステリー」かと思って読み出したら、かなり想像と違う内容、展開なのでビックリ&ガッカリしてしまった。

内容自体は一人で生きる草を通して家族の繋がりや老人介護、生きがいなどの社会問題も交えて語られるしっかりした作りで、文章も読みやすいしきちんとまとまっていると思う。
ただ、扱っている内容のせいか全体的にシリアスで私が読みたかった(というか「読めると思っていた」)内容とは方向性がずれていたので何となく納得いかないまま読み終わってしまったという感じ。

例えて言えばチーズケーキだと思って注文したら、おはぎが出てきた、みたいなイメージ。
おはぎが美味しくなかったわけじゃないけど、既に頭はチーズケーキ脳wになっていたので「こんなはずじゃなかった!」としか思えなかったという…。
最初からおはぎだと思って食べてれば満足出来たかもしれないのになーと思うと、敢えてこういう形で売ろうとした出版社の戦略に対して不信感を覚える。
それにそういうのって読者だけでなく作家さんに対しても失礼なんじゃないのかなあ。

紅雲町ものがたり

ちなみに文庫化される前は左の画像のような感じの落ち着いたイメージの装丁だった模様。
こっちのほうが内容に合ってて素敵だと思うけどな。

表題作他「紅雲町のお草」「クワバラ、クワバラ」「0と1の間」「悪い男」の5編を収録。
この中では「クワバラ、クワバラ」が一番面白かった。

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有栖川有栖/長い廊下がある家

長い廊下がある家
長い廊下がある家

火村准教授+作家アリスコンビの短編集。

相変わらずの安定感で安心して読めた。
有栖川さんは事件の前の導入部が上手い。
事件から遠いところから始まって丁寧に情景を切り取りつつ、少しずつ核心に近づいていく描写が「何がはじまるのかな」という期待と緊張を適度に高めてくれる。
火村とアリスのセリフの応酬も面白いし、結末が明快でスッキリしてるのも好き。

表題作他「雪と金婚式」「天空の眼」「ロジカル・デスゲーム」の4編を収録。

「天空の眼」は珍しくアリスが一人で謎を解く話。
「ロジカル・デスゲーム」は逆に火村が一人で苦境に陥る話。
今回もいろんなバリエーションの話があって楽しかった。

ちなみに「ロジカル・デスゲーム」に出てくる確率の話は解説されてもよく判らなかった…。
ホントに数学的才能がないよなあ(ーー;)

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2011/06/12

中村弦/天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語
天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

依頼主の望む以上のものを理解し、建物として具現化する才能を持つ建築家・笠井泉二。
彼の残した作品と彼自身、そしてそれに関わる人々を描いた連作短編集。
第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

「冬の陽」「鹿鳴館の絵」「ラビリンス逍遥」「製図室の夜」「天界の都」「忘れ川」の6編を収録。

建物が出てくる話ってイメージするのが難しいのであまり得意じゃないんだけど、これはすごく面白かった。
というのは建物が物語の重要な要素であることは確かだけど、それ以上にそれに関わる人間の描写が精緻で丁寧でかつ愛情に溢れていたから。
建物(家)というのはただ器としてそこにあるのではなく、中にいる人の想いを表現するものでもあるんだな。
依頼主にしても建築家にしても思ったとおりにそれができる人は限られているのだろうけど。
これはその、限られた人たちの物語。

全て同じ「笠井泉二」という人物について語られている内容でありながら、短編それぞれが別の角度(笠井本人が出てきたり、出てこなかったり。時間もかなり飛んでる)から描かれているのも効果的。
何が起きたのか、何が語られるのか先の展開が読めない構成でどんどん引きこまれたし、それでいて文章や会話文がスムーズでとても読みやすかった。

笠井の級友であり、長じても彼の理解者であり続ける矢向丈明の存在も重要。
恵まれた家庭に生まれ、自らも笠井と同じように建築を学びながらも笠井の才能に惹かれ、素直に尊敬する丈明。
異能の天才を静かに温かく見守り、信じ続ける彼の存在があるからこそ、読者は笠井に反感を持たず理解することができたのではないかと思う。

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2011/06/11

映画:プリンセス トヨトミ

万城目学の同名小説の映画化作品。

原作がすごく面白かったので期待して観に行ったんだけど、期待が大きすぎてしまったかも…。

展開がすごく速くてテンポがいいので飽きずに見られるんだけど、その分断片的なシーンの連続で物語や人物像の掘り下げ方が足りなかったような気がする。
松平はボンヤリして何考えてるか判らない人だし、鳥居はただの食いしん坊だし、旭はツンケンしてるだけだし。
特に鳥居は「ミラクル鳥居」というセリフが何度も出てくるわりにミラクルな部分がほとんど出てこないので、セリフの意味が生きてるようには思えなかった。
せっかく鳥居役に綾瀬はるかを持ってきたのに、あれじゃあおとなしすぎるでしょう。
もっと暴れさせてもよかったと思う。

あと、原作ではもっと笑えるシーンが多かったような気がするんだけど、映画は思った以上にシリアスな出来上がりだったのでビックリというかガッカリというか。
小さな部分では変な仕掛けがあったりするんだけど、それがうまく伝わって来ない。
何となく笑いで行こうかシリアスで行こうか迷ったまま走りだして中途半端に終ってしまったよ、的な感じがした。
そんな中一番美味しい役回りだったのは、もしかしたら大阪城公園のたこ焼き屋のにいちゃん役で出てきた玉木宏だったかもw
無駄に出番が多くて、しかもストーリーには全く絡まないところがよかった(笑)

そして何より一番失敗だったのは、原作では女だった旭を男にしたこと。
映画のキャスティングを聞いた時から「旭が女性じゃなかったらあの最後の独白シーンはどうなるの?」って心配だったけど、その心配がそのまま出てきてしまった感じ。
(別に岡田くんが悪いわけではなく設定の問題)
だって、原作では旭のあの独白があるからこそ、大阪国を支えているのは男じゃなくて実は女なんだってことがわかるわけでしょう。
それがスッパリなくなってるから「なんだか男どもが勝手なこと言ってるよ」という感想になってしまうし、その存在意義に納得も出来ないわけで。
あのシーンは短いけどこの物語にとってかなり重要だったはず。
それを設定の変更でなくしてしまうのであれば、同じくらいの説得力を持った設定を新たに組み込まなければ物語は完結しないんじゃないのかな。
少なくとも私はあれでは納得できなかった。
こんな細々したオリジナルグッズを作っている暇があるならその辺をもっとどうにかしろ、と言いたい。

あと、誰もいなくなった大坂、午後4時だっていうのに電気点きすぎですw

そんなにつまらなかったわけではないのに感想を書いてみたらいいことがちっとも出てこないな…^^;
え~と、真田役の中井貴一さんがよかったです。
落ち着いていて誠実そうで。
特に倒れた松平と会った後、府庁に戻ってきて見せた笑顔は素晴らしかった。
あと茶子役の沢木ルカちゃんの意志の強そうな目が印象的。

ところで、作品のタイトル、原作は中丸付きで「プリンセス・トヨトミ」なのに、映画は間がスペース(「プリンセス トヨトミ」)なのはなぜ?

映画「プリンセス トヨトミ」公式サイト

(仮)映画オリジナル・サウンドトラック「PRINCESS TOYOTOMI」
(仮)映画オリジナル・サウンドトラック「PRINCESS TOYOTOMI」
プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

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2011/06/09

中村弦/ロスト・トレイン

ロスト・トレイン 
ロスト・トレイン   

「誰も知らないまぼろしの廃線跡を最初から最後までたどると奇跡が起こる」
謎の言葉を残してベテランの鉄道ファン 平間が姿を消した。
親子ほども年が違うが平間と親しく付き合っていた牧村は同じく彼と親交のあった菜月とともに平間の行方を探し始める。 わずかなヒントを手がかりに「まぼろしの廃線跡」にたどり着いた2人が見たものは…。

途中までミステリーだったのに、最後に急にファンタジーになったので驚いた。
私が鉄道ファンじゃないからかもしれないけど、2人が平間の行き先を探すまでのミステリーパートのが好きだったな。
ファンタジーの部分は展開が急すぎて頭がついていかず「へー」と思ってる間に終わってしまった感じ。
ただ、神秘的な緑深い森の中で起こる奇跡は映像で見たら面白いかも。

 

文章は癖がなくて読みやすかった。
展開もスピーディーかつ先が読めなくて面白いんだけど、ちょっと人物の描写が薄かったような気がする。
それぞれの登場人物が持つ感情があまり前面に出てこないので、その人がなぜそれを選択したのか(しなければならなかったのか)がよくわからない。
だから「きれいな話だな」とは思うけど、感動はできなかった。

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2011/06/07

今野敏/陰陽 祓師・鬼龍光一

陰陽 - 祓師・鬼龍光一 (中公文庫)
陰陽 - 祓師・鬼龍光一 (中公文庫)

シリーズ1作目。
先日読んだ2作目(『憑物』)と基本的には同じような構成で大きな違いはない。
強いて言えば起きる犯罪の種類がちょっと変わったくらい。

これも2作目同様展開が早いし変なミスリードがないので読みやすい。
富野と鬼龍、孝景との関係ももったいぶったところがなくサクサク先に進んでいくのでストレスなく読んでいける。
ただ、読みやすい分、2作とも事件がちょっと単純すぎるので、もう少し複雑な事件が読みたいな。
毎回このパターンじゃさすがに飽きるでしょ^^;

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2011/06/06

領家高子/怪談 お露牡丹

怪談お露牡丹
怪談お露牡丹

根岸の古刹・建徳寺の住職芳堂に襖絵を依頼され、その準備のために寺に寄宿している若き絵師 丈岑(じょうしん)。
満開の牡丹が咲き誇る庭で画帳を開いていた丈岑は、ばあやのきよを伴った美しい町娘 露と出会う。
若く美しい娘でありながら根岸の里で人目を偲んで暮らす露には他人には言えない秘密があった…。

タイトルに「怪談」とあるけれど怖い話ではない。
美しく切なく静かな物語。
特に最初の3編は妖艶で、それでいて穏やかな世界が美しい文章で描かれていて素晴らしかった。

それに比べると最後の2編は少し俗っぽいイメージ。
でも、その「俗」を見据えながら、それでも尚、建徳寺の「聖」を守り抜こうと自分らしい方法で静かに立ち向かう丈岑の姿が清々しかった。

「於露牡丹」「二度童」「拈華微笑」「邯鄲師」「気韻生動」の5編を収録。

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2011/06/05

今野敏/憑物 祓師・鬼龍光一

憑物 - 祓師・鬼龍光一 (中公文庫)
憑物 - 祓師・鬼龍光一 (中公文庫)

連続大量殺人事件の裏側には呪術でそれを操る亡者がいた。
警視庁少年課の刑事・富野は祓師・鬼龍と孝景の協力を得て、犯人を追い詰めていく…という話。
警察小説+伝奇小説という感じかな。
今野さんってこんな小説も書いてたんだ。

亡者を祓う力を持つ「鬼道衆」の鬼龍と「奥州勢」の孝景、そして(実は祓師の血を引いている)富野の仲が悪いようでそうでもない力関係が面白かった。
また富野が鬼龍たちの力を認め、必要としながらも、それに全面的に依存するのではなくむしろ「警察としてそれでいいのか」と思い悩むあたりが今野さんらしい心理描写で興味深い。

展開もスピード感があって読みやすかった。

ちなみにこれはシリーズ物の2作目。
1作目も一緒に予約したんだけどこちらのほうが先に来たので順番が逆になったけど、どちらも読み切りなので特に問題はなかった。
1作目(『陰陽』)も今日借りられたので読むのが楽しみ♪

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2011/06/04

有川浩/三匹のおっさん

三匹のおっさん
三匹のおっさん

長年勤めた会社を定年退職した清一と、同級生の幼なじみ茂雄と則夫。
今も飲み友達の3人はふとした思いつきで地域の私設自警団『三匹のおっさん』を結成する。
武闘派2人+頭脳派1人のおっさんたちが巻き起こす6つの活躍を収録。

面白かった~♪
おっさんたちの行動力、判断力、正義感とそれに見合った攻撃力のバランスが素晴らしい。
やってることはかなり大胆でむちゃくちゃなんだけど、考え方が地についていて空回りしていないので読んでいて安心出来る。

他の登場人物もみんな個性的で楽しかった。
物語がセリフだけで進んでいく部分も多いんだけど、誰がどのセリフを喋っているのかすぐに判るので全くストレスなく読み進められた。
こういう部分も有川さんの巧さだなあ、と改めて感心。

表紙や章トビラなどに使われている須藤真澄さんのイラストも内容と合っていてよかった。
特に物語の最後のページに載ってる小さなイラストがすごく可愛くて好きだったな。

「三匹」の活躍がもっと読みたい。続編希望。

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2011/06/03

早見和真/スリーピング★ブッダ

スリーピング★ブッダ
スリーピング★ブッダ

古くから続く寺の次男として生まれた広也と、音楽でプロになる夢が敗れた隆春。
環境も性格も考え方も違う2人が同じ宗派の僧侶として自分の理想を追求する姿を描いた青春小説。

タイトルとカバーイラストのイメージからもっと軽くて笑える内容かと思ったのに、読み始めたらかなり骨太でどっしりした物語なので驚いた。
しかも、修行僧あたりで終わるのかと思いきや、その先まで行ってそしてこんな結末とは…。
修行に行った寺でのいじめを描写した前半はともかく、お互いの理想を求める広也と隆春の考えがすれ違っていく後半はかなり重かった。

でも文章が上手いし、スムーズなんだけど先が読めない展開で読みやすく面白かった。
キッパリと白黒つく結末ではないけど、いろいろ考えさせられた。
宗教って難しい…。

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2011/06/02

愛川晶/芝浜謎噺 神田紅梅亭寄席物帳

芝浜謎噺 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)
芝浜謎噺 (神田紅梅亭寄席物帳) (創元推理文庫)

シリーズの2作目。
1作目と3作目は地元の図書館にあるのに何故かこれだけなくて読めなかったのが、本屋に行ったら新刊文庫の平台に並んでいたので早速購入。
920円と文庫にしてはちょっと高かったけど仕方ない。

今回も落語の内容や薀蓄がストーリーの中にうまく収まっていて面白かった。
表題作は謎がたくさんありすぎて少し複雑すぎた感じだけど、そのあとに来る「試酒試(ためしざけだめし)」は内容もオチも決まっていてとてもよかった。

表題作他「野ざらし死体遺棄事件」「試酒試」の3編を収録。

購入した本屋で単行本の平台も見ていたら、新作『三題噺 示現流幽霊』が並んでいた。
こちらも楽しみ。
今度は図書館に入るといいなあ。

三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)
三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)
 

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