中村弦/天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語
依頼主の望む以上のものを理解し、建物として具現化する才能を持つ建築家・笠井泉二。
彼の残した作品と彼自身、そしてそれに関わる人々を描いた連作短編集。
第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
「冬の陽」「鹿鳴館の絵」「ラビリンス逍遥」「製図室の夜」「天界の都」「忘れ川」の6編を収録。
建物が出てくる話ってイメージするのが難しいのであまり得意じゃないんだけど、これはすごく面白かった。
というのは建物が物語の重要な要素であることは確かだけど、それ以上にそれに関わる人間の描写が精緻で丁寧でかつ愛情に溢れていたから。
建物(家)というのはただ器としてそこにあるのではなく、中にいる人の想いを表現するものでもあるんだな。
依頼主にしても建築家にしても思ったとおりにそれができる人は限られているのだろうけど。
これはその、限られた人たちの物語。
全て同じ「笠井泉二」という人物について語られている内容でありながら、短編それぞれが別の角度(笠井本人が出てきたり、出てこなかったり。時間もかなり飛んでる)から描かれているのも効果的。
何が起きたのか、何が語られるのか先の展開が読めない構成でどんどん引きこまれたし、それでいて文章や会話文がスムーズでとても読みやすかった。
笠井の級友であり、長じても彼の理解者であり続ける矢向丈明の存在も重要。
恵まれた家庭に生まれ、自らも笠井と同じように建築を学びながらも笠井の才能に惹かれ、素直に尊敬する丈明。
異能の天才を静かに温かく見守り、信じ続ける彼の存在があるからこそ、読者は笠井に反感を持たず理解することができたのではないかと思う。
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