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2011年8月の15件の記事

2011/08/31

柳広司/ロマンス

ロマンス
ロマンス

昭和初期。
ロシア人を祖母に持つ美貌の子爵・朝倉清彬は突然上野のカフェー<聚楽>に呼び出される。
そこで彼が見たのは唯一の親友で伯爵家の跡取りである多岐川嘉人と、見知らぬ男の死体だった。
既に駆けつけていた警官を適当に煙にまいて嘉人を解放させることに成功したが、翌日特高の刑事が清彬の自宅を訪れ協力を要請してきた。

どんな感想を書けばいいのか困る。
文章はすごく読みやすいし、登場人物の設定もよかった。
でも、何が主題なのかがハッキリしない(というか敢えてずらして書いてあるように思える)のがどうにももどかしい。

年代が近いので『ジョーカー・ゲーム』や『ダブルジョーカー』みたいな展開になっていくのかしら?と期待していたけど、残念ながらそれはナシ。
最初から最後までかなり淡々と物語が進んでそのまま終わってしまう、という展開だった。

最初に死体が出てくるので「殺人事件を解決するミステリー」なのかと思ったけど、どうやら清彬には事件を解決しよう、犯人を探そうという積極的な意欲はさっぱりなさそうなことが早々に感じられたのでその可能性は捨てて読んでいたため、謎解きについての不満はなかった。
でも、ラブストーリーならもうちょっと感情的であってもよかったかも、とは思う。

登場人物では朝倉家の家令である喬木老人が好き。
朝倉家三代に渡って仕える身でありながら、いろいろ訳ありの騒動の末に朝倉家の当主となった清彬にも忠実に愛情を持って仕える姿がよかった。

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2011/08/28

井上祐美子/朱唇

朱唇
朱唇

中国の妓女(遊女)を主人公にした短篇集。
中国を舞台にした作品は相変わらず名前が覚えにくいなあ、と思いつつも短編だし登場人物も少ないので比較的スラスラ読めた。
遊女という身の上ながらただ運命に流される哀しい話だけでなく、勝気で頭もいい女たちが男を手玉に取る明るい話も多く楽しかった。

<収録作品>
朱唇 / 背心 / 牙娘 / 王面 / 歩歩金蓮 / 断腸 / 名手

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舞台:キャラメルボックス『降りそそぐ百万粒の雨さえも』

久しぶりのキャラメルボックス。
前回が'09年の『容疑者X~』だったので2年ぶり。
前回同様、今回も直前になって急に思い立っての観劇。

『降りそそぐ百万粒の雨さえも』30秒CM

今回の演目は'96年初演('01年再演)の『風を継ぐ者』の続編とのこと。
『風を~』は初演時に「見た」記憶はあるものの、なにしろ15年も前なのでストーリーなど詳しい内容は定かではなく…^^;
でも、特にそれが判らなくても問題はなかった。(そりゃそうですね)

で、感想は…残念ながら今ひとつ入って行けず…。
物語自体はキャラメルらしいし、泣けちゃうシーンもたくさんあったんだけど、なんかこう「もっと来るだろう」「こんなものじゃないだろう」と期待して待っていたけどそこまで行かずに終わってしまった…という感じで。

『容疑者X~』のときも同じような感想を書いているので、これはもうキャラメル側ではなくやっぱり私の問題なんだろうなあ…orz
思うに、昔のMAX感動したときのイメージだけが残っていてそこまで行かないと「面白かった」と思えなくなっているのではないかと。
ちなみに私にとってのMAX感動は「カレッジ・オブ・ザ・ウインド」の初演。
この作品は呼吸困難になるかと思うくらい泣けました^^;
これは'92年(19年前!)の作品らしい。
ということは、もしかしたら私が年を取ったため感受性が鈍くなっただけなのかも…(;_:)

ただ、昭島が新選組を裏切る際のきっかけというか根拠がどうも希薄だったような気がしてならない。
近藤が投降するときに変名を使ったことを「卑怯」と感じるのは理解できるにしても、だからといって確証もないまま「竜馬を殺した犯人は土方だ」と敵方に知らせるというのは納得できない。
しかも付き合いが浅い他の隊士たちだけでなく、幼なじみの迅助にまで嘘をついてそういうことをするって全然昭島のイメージじゃないんだけど。(そのほうがよっぽど卑怯なのでは)
少なくとも、断片的でもいいから迷っている昭島にそう確信(ミスリード)させるだけの情報を与えるべきだったんじゃないかと思う。
でないと、昭島は思い込みだけで行動するただのおバカさんになってしまうような気がする。
昭島が自分の感情を殺してもどうしても裏切らなければならない、のっぴきならない状況を作ってやって欲しかった。

最後に役者さんの感想をちょっとだけ。
一番よかったのは、三鷹役の阿部丈二さん(どこかで聞いたことがある名前…笑)
もともと自由に動けるおいしい役なのだろうと思うけど、そこを生かしてのびのびと楽しそうに演じているので見ているこちらも気持ちよかった。
一番笑わせていただきました(^^)
あと、沖田役の畑中さんもよかったな。
性格設定としてはあんなに「新選組だけ」じゃなくてもう少し達観していて周囲にも気を配れる総司くんのが好きだけど、あの時点でのどうしようもない沖田の焦燥感をよく表現していたと思う。
シーンとしては敵に囲まれて絶体絶命の危機に陥った迅助の傍に現れて、闘いの手助けをする場面が好き。(生き霊状態だったけど^^;)
更に、カーテンコールでのご挨拶がグダグダだったのが妙に可愛かった。(役とのギャップが…w)
あと、沖田の姉のミツ役の坂口さんがいい感じで年を取っていたのが印象的だった。
知っている役者さんが少なくなっている中、昔から活躍している坂口さんが舞台をキリッと引き締めてくれているのを見るのは嬉しい。
これからも頑張って欲しい。

初演のことってあまり覚えてないと思っていたけど、見ているうちに迅助が今井さんで沖田が菅野さん、土方は上川さんが演じたことを思い出した。
土方はちょっと違うけど、迅助と沖田は初演の2人の雰囲気を上手く受け継いだ演技をしていたと思う。
そういえば初演組は3人とも劇団にはいないのね…。
上川さんの活躍は存じ上げているけど、その他のお2人はどこで何をされているのかな。

ちなみに来年5月の『容疑者X~』の再演に川原さんの出演が決まったことのこと!
絶対観る!

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2011/08/24

大島真寿美/ピエタ

ピエタ
ピエタ

親に捨てられた子どもとしてベネツイアの修道院・ピエタで育ったエミーリアは40歳を過ぎた現在も院の運営の仕事をしてピエタで暮らしている。
ピエタの子どもたちはそれぞれの資質に合った教育を受けていたが、特に音楽の才能がある者を集めた"合奏・合唱の娘たち"はピエタの代名詞でもあった。
その"合奏・合唱の娘たち"をかつて指導していた恩師である大作曲家・ヴィバルディの訃報がエミーリアの元に届けられたことをきっかけに、彼女の静かで単調なピエタでの生活が変化していく…。

冒頭の20ページのみ以前アンソロジー『ぼくの歌が君に届きますように』で先に読んでいたんだけど、そこから想像していたのとは全く違う物語だったのがちょっと意外。
この部分からの印象だとエミーリアとアンネッタでのピエタでの生活の回想やヴィバルディとの思い出、その死によってもたらされた変化とその後…みたいな内容になるかと思っていたけど、実際は3人の女たちの友情物語だった。

捨て子として修道院で育ったエミーリア、貴族の娘の教養としてピエタで音楽の指導を受けたヴェロニカ、コルティジャーナ(高級娼婦)のクラウディア。
何らかの形でヴィバルディと縁のあった3人の女性。
生まれも育ちも立場も違う彼女たちの出会いと、その後の静かだけれど確かな交流が描かれている。

全編を通した鍵になるヴィバルディの遺した楽譜の使い方が上手い。
ラスト近くでようやく見つかった楽譜の歌をみんなで歌うシーンが美しかった。
長い時間をかけた交流のあと一人残されたエミーリアが明るく笑うラストもよかった。

ただ、冒頭部分でエミーリアよりも印象的に登場するアンナ・マリーア(アンネッタ)が本編ではほとんど出番がなかったのがちょっと残念。
音楽の天才で、ヴィバルディを神のように慕っていたアンネッタの物語も読んでみたいな。

ちなみに、『ぼくの歌が~』に収録されたパートは長編からその部分を切り取ったのではなく、まずその部分があってそこに加筆修正して長編にしたのがこの作品であるとのこと。

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2011/08/21

宇江佐真理/室の梅 おろく医者覚え帖

室の梅 おろく医者覚え帖 (講談社文庫)
室の梅 おろく医者覚え帖 (講談社文庫)

奉行所から依頼されて死体を検視する「おろく医者」の正晢と、一回り年下で産婆として働くお杏夫婦が江戸の下町で起こる事件の謎を解く短編時代ミステリー。

死んだ人間相手の正哲と、生まれてくる人間相手のお杏の組み合わせが面白い。
事件だけでなく正晢とお杏の仕事ぶりも丁寧に描かれているので説得力があった。
岡っ引きの風松や正晢の両親ら脇役も生き生きしていて面白かった。

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2011/08/18

川端康成/眠れる美女

眠れる美女 (新潮文庫)
眠れる美女 (新潮文庫)

睡眠薬で深く眠らされた美しい少女と添い寝出来るという怪しい宿の客となった老年の男の物語。

随分前に買ったままだったのを引っ張り出して来てようやく読了。

表題作は女性側の設定に比べて主人公の男性が妙に軽薄で通俗的なのが印象的。
「自分はまだこういう場所に来るような年寄りではない」としきりに弁解するんだけど、すればするほど説得力がなくなるのが可笑しい。

2本目の短編「片腕」は再読。
この作品は好き。
「私は一緒に行けないけど代わりに片腕を貸してあげましょう」と言って片腕を外す女とそれを持って帰って一晩一緒に過ごす男、という設定が秀逸。
そんな尋常ではないやり取りをする男女なのに2人の人となりや関係については一切触れずに唐突に始まり、唐突に終わるところもいい。
ただ、最後の男の行動の変化は意味はよく判らなかった。
「夢から覚めた」ってことなのかな?

でも、男の方は自分が好きな女といろいろ関係を持っているのに、好きな女には上品さや純潔を求めているのがなんだかなー、な感じ。
むしろ「片腕を貸しましょう」なんて言っちゃう女のほうがいろんな意味で「危ない」と思うけどな。

全体的に対象物を描写する文章がとても丁寧で柔らかいのが印象的だった。

<収録作品>
眠れる美女 / 片腕 / 散りぬるを

解説:三島由紀夫

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2011/08/15

奥山景布子/源平六花撰

源平六花撰
源平六花撰

「俊寛」「義経千本桜」「熊谷陣屋」など、歌舞伎や能の舞台で有名な源氏、平家の物語をモチーフにした短篇集。

なんとなく聞き覚えがある話が多かったし短編で登場人物も少ないのでいつも以上に読みやすく共感出来る作品ばかりだった。
どの作品からも登場人物への愛情が感じられる。
特に鎌倉を逃れた静御前が京に戻る途中行き倒れたところを救ってくれた寺の僧侶に身の上を語る「二人静」がよかった。

<収録作>
常緑樹(ときわぎ) / 啼く声に / 平家蟹異聞 / 二人静 / 冥(くら)きより / 遅れ子

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2011/08/14

宮木あや子/太陽の庭

太陽の庭
太陽の庭

東京都内に広大な敷地の屋敷を有しながら地図には載らない永代院。
そこには代々由継の名を襲名する家長と彼の傍に侍る数多の美女たちやその美しい子どもたちが戸籍も持たずに暮らしていた。
日本の政治・経済を動かす選ばれた人物だけが面会を許され、こぞって繋がりを持とうとする一族の真の姿とは…?

最初の3話は永代院の子どもたちを主人公に屋敷での日常の暮らしぶりや人間関係を描いた夢か現か判らないファンタジー色の濃い内容。
一転その後の2話はゴシップ誌の若手女性記者が偶然見つけた永代院の秘密を記事にしようとして…といういきなり現実的な展開。
内容にあまりに落差があるのでビックリした。

私は前半の雰囲気の内容が好きだな。
後半は前半とのギャップ自体は面白いけど、書いてある内容が今ひとつありきたりで展開が読めちゃう感じでちょっと興ざめだった。
過去から続いたある「制度」が崩れたり「秘密」が暴かれたりするという話にしてももう少し情緒がある書き方にして欲しかった。
ただ、それを破壊するのはそれを真から望んでいる者ではなく、その本質が何かは判らないけれどただ何となく声がする方向に流されてしまった群衆であったという結末は現実にも十分あり得る話だと思う。

『雨の塔』に出てきた例の隔離された女子大も重要な要素の一つとして登場。

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奥山景布子/時平の桜、菅公の梅

時平の桜、菅公の梅
時平の桜、菅公の梅

名門藤原本家の嫡男として生まれ幼い頃から栄達を約束された時平と、己の学才のみを武器に立身し48歳にして初めて大きな役についた道真。
生まれも育ちも考え方も違う2人の交流と、その後の断絶を描いた作品。

物語が終始時平目線で進むので、時平がそのとき何を感じ、何を考えたか、どう変化していったかはとてもよく判ったけど道真側はそれにどう呼応したのか、時平の考え方や行動をどう感じていたのかは曖昧なまま終わってしまった感じ。

主役の2人よりも脇役に魅力的な人物が多かった。
まず、時平の妹で宇多天皇の後宮に入った温子(よしこ)。
名門の姫として生まれ養われた高い教養と美貌だけでなく、人の心を思いやる優しさと自分に与えられた運命に立ち向かっていく勁さを持った女性。
藤原氏が政を独占することを嫌う宇多天皇に侮辱的な振る舞いをされても、己の矜持を崩さず他の側室が生んだ春宮を養育し自分自身と藤原の地位を守りぬく覚悟が美しかった。
それと、時平と竜田川の畔で偶然出会い、以後親友とも呼べる交流を続けていくことになる紀貫之。
身分違いをものともせず遠慮のない態度で接するが自分の立身のために時平の力を使おうとはせず常に飄々と生き、やがてその歌の実力は天皇も知るところとなり取り立てられていく。
貫之は登場シーンはあまり多くないけど、時平が迷った時に現れてその後の展開の重要なキーワードとなる言葉を残していくという美味しい役回り。
以下、本文から引用。

そうやって、何事も自分でせぬと気が済まぬようでは、人を活かすことはできますまい。言の葉も、一つ一つで表せることは限られております。集めて、活かすのも能。時平さまがご自身で多くの文書を捌けずとも、捌く能のある者を上手く用いればよいではありませぬか。幾つもの言の葉で、やっと歌が一首でき、無数の歌で、世界ができるように。(p221)

己で力を尽くすべきだ。それも一つの道理でしょう。されど、皆が皆、力があるわけではない。たとえ力があったとて、皆が皆、力に応じただけ報われるとは限らない。哀しいかな、それが世というものでございます。さような世に、力なき者、幸運(さいわい)なき者のために、常に祈ってくださる方がある。帝とはそういうお方なのだと。日々の暮らしには、さような希みが必要なのだと、某は思うように、なりました。(p284)

そのほか、時平が少年時代から外回りの牛車の傍で時平の姿を見守り続ける牛曳きの松王丸もよかった。

こんなふうに時平はその周囲に配置された人物が多く彼らの存在を通しても時平がどんな人物であったかを知ることができるけれど、道真にはそうやって私的に交流する人物がただの一人も出てこないというのも道真が何を考えていたのか判らない原因であると思う。
タイトルに2人の名前を入れるなら2人のバランスをもう少し均衡にしたほうがよかったんじゃないかな。

才能に恵まれながら主流ではない家柄に生まれたために不遇をかこった青年時代、それでも己を信じ努力を怠らずに精進した末に高い位にたどり着いた壮年時代、一転思いもよらぬ嫌疑で流人同然に遠く大宰府に送られた晩年。
高邁な理想と厳しい人柄ゆえに馴染む者も少ない孤独な環境の中で道真が何を考え何を思ったのかをもっと読んでみたかった。

この時代の他の作品同様登場人物が多いし関係が複雑な上名前が似ているので覚えるのが大変だったけど、それ以外の部分はスムーズな文章で読みやすかった。

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2011/08/10

栗原裕一郎/<盗作>の文学史

盗作の文学史
盗作の文学史

文学史上でマスコミに取り上げられ話題となった「盗作」事件について、その報道された記事を収集し事件の内容を分析、検証した本。

約500ページ、厚さ4cmあまりという分厚さにまず引く^^;
さらに内容も各メディアの記事などかなり膨大な量の引用なので途中で読むのが面倒になってしまい、かなりの部分飛ばし読みしてしまった。

読者としては「いや、これは盗作でしょう」と思うような表現でもそれを「盗作」を断罪することはかなり難しいらしい。
同時に表現者としてそういう部分から完全に自由になることも難しいんだなーということは感じた。

「オマージュ」とか「リスペクト」とか「インスパイア」とかいろんな言葉はあるけど、そうして影響を受けた対象をいかに換骨奪胎して自分の作品とするかというのが表現するひとの一番大変なところなのかもしれないなあ。

過去に報道された資料だけを使ってあるので「今どうなっているのか」「実際に本人(著者)はどう思っていたのか」などの記述がないのが残念。

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2011/08/09

紫野貴李/前夜の航跡

前夜の航跡
前夜の航跡

昭和初期の海軍を舞台にした幽霊譚。

先日読んだアンソロジー『FantasySeller』に収録されていた作品(「哭く戦艦」)が面白かったので読んでみた。

「哭く戦艦」に出てきた3人(独眼竜の支倉、隻腕の芹川、仏師の亮佑)がいつもセットで幽霊話を解決する話なのかと思ったらそうでもないのね。
しかも芹川が主人公なのかと思っていたらこっちも違ってた^^;
そうか、亮佑が主人公だったのか。
でも亮佑もいいけど他の2人(特に独眼竜)のキャラがよかったので、3人セットの話ももっと読みたかったな。

海軍の慣習や秩序、訓練の様子などが細かく書かれすぎていてそこを読むのにすごく時間が掛かった。
もうちょっとサラっと流して欲しかった。
幽霊話の方は面白かった。
特に木彫りの猫が活躍する「霊猫」が好き。

<収録作品>
左手の霊示 / 霊猫 / 冬薔薇 / 海の天女 / 哭く戦艦

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2011/08/05

宮木あや子/セレモニー黒真珠

セレモニー黒真珠 (ダ・ヴィンチブックス) 
セレモニー黒真珠 (ダ・ヴィンチブックス)

地域密着の小さな葬儀社「セレモニー黒真珠」を舞台にした短編集。

軽快でユーモアのある文章でクスッと笑わせながら、家族や恋人との関係、死に立ち会うことの意味がきちんと描かれている。
どの話も登場人物の心に寄り添った暖かい結末で読後感もよかった。
実年齢よりかなり老けて(落ち着いて)見えるが仕切りが完璧で挙措が美しい主任の笹島、性根が腐った感じに見えるが線が細く喪服が素晴らしく似合うメガネ男子の木島、まだ21歳なのに元ヤンの両親に押し付けられた借金を自分の身体で完済した過去を持つ妹尾という主要登場人物3人も個性的で面白い。

宮木さんの作品って硬質で生真面目なイメージがあったのでユーモアたっぷりのこの作品はちょっと意外だったけどすごく楽しめた。
今まで読んだ中で一番好き。

<収録作品>
セレモニー黒真珠 / 木崎の秘密 / 主なき葬儀 / セレモニー白真珠 / あたしのおにいちゃん / はじめてのお葬式

イラストはワカマツカオリさん。
表紙だけでなく各章の扉にもイラスト入りの贅沢さ。
ワカマツさんの表紙の本は最近よく目にするけど、この本は今まで見た中で一番素敵だった。

ワカマツカオリ公式サイト「GRAFFITIBUNNY」

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2011/08/04

奥山景布子/恋衣-とはずがたり

恋衣―とはずがたり 
恋衣―とはずがたり

「とはずがたり」の主人公・二条が手放したとされる娘・露子が母の残した日記を読むとした設定が巧い。
「とはずがたり」そのものはあまり共感できる内容ではなかったけど、二条とは全く違う人生を送る露子の目を通すことで理解しやすい内容になっていた。

「とはずがたり」って全く知らなかったけど、かなり過激な内容なのね。
以下、Amazonの内容紹介から引用。 

鎌倉時代の宮廷内の愛欲を描いた異彩な古典後深草院の異常な寵愛をうけた作者は14歳にして男女の道を体験。以来複数の男性との愛欲遍歴を中心に、宮廷内男女の異様な関係をなまなましく綴る個性的な手記

この紹介文の書き方がなんか、いやらしい^^;
この当時の女性の結婚適齢期や寿命を考えると14歳の初体験ってそう早くもないんじゃないかな。
それにこういう関係が特殊だったのかどうかも私には判らない。
でも、それを(幾分か脚色は加えているにしても)自分の体験として、しかもかなり赤裸々な文章で手記に残すというのは非常に珍しいことだったのだろうと思う。

確たる後ろ盾もないままその美貌ゆえに数多の男たちに望まれ流されてゆく二条の愚かさ、苦しみ、哀しみが胸に迫る。
そしてその愚かで哀しい女を母に持った露子が様々な葛藤の果てに母の生き方を受け入れ、自身も過去に憎んだ夫の愛人の娘を養女に迎える構成が見事だった。

文章が自然で柔らかく、とても読みやすかった。
元の作品をまったく知らないので訳文としてどうなのかはわからないけれど、「とはずがたり」という物語の流れやテーマはきれいにまとまっていたと思う。
そのうち、直訳の本も読んでみよう。

でも、いくら自分が年をとっても母親のこんな日記は読みたくないな…(ーー;)

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2011/08/02

門井慶喜/この世にひとつの本

この世にひとつの本 
この世にひとつの本

残念ながら今ひとつ。

物語も人物もアウトラインが曖昧なまま走りだしてそのまま最後まで行ってしまった感じ。
ラスト近くまで何が起きてて何が問題なのかよく判らなかったし、人物への感情移入も出来なかった。
文章は読みにくくはないんだけど、ちょっと回りくどい。

読み終わってからもう一度全体を思い返してみれば「ああ、なるほどね」って思えるし、面白いキャラもいたけど、読んでいる間にそう感じられるような説明が欲しかったな。
例えば、東大卒のエリートであるにもかかわらず史上最速の窓際族(←この設定は面白いw)になった柴が、ぼんやりとしたお坊ちゃんにしか見えない三郎を最初から異様に高く買っていたのは何故なんだろう。
結果的に柴の目に狂いはないことは判るわけだけど、物語の中に柴がそう思うきっかけについて何も触れられていないのでなんだか釈然としないまま話が進んでいくんだよねえ。
ここでちょっとだけでも過去のエピソードが語られていれば、柴と三郎についての印象は全然変わったと思う。
逆に社長のエロ描写は必要だったのかどうか疑問。
真面目なのかギャグなのか判らないし、それが社長の人物理解の手助けになっていたとも思えなかった。

そして何よりタイトルと内容がほとんどリンクしていないというのが不満。
確かに「この世にひとつの本」という設定の本が出てくるのは確かだけど、それがこの話にとって一番重要なアイテムかというと特にそういうわけではない。
重要なキーワードは他にあると思うけどな。
なのに何故このタイトルにしたんだろうか。
ただでさえ本好きなら気になるタイトルだし、しかも著者が過去に『お探しの本は』という図書館を舞台にした作品をものしていると知っている読者なら「今度はどんな本の話だろう」と期待するのは判っていたはず。
それなのにあの本にこのタイトルを付けるのはちょっとずるいと思う。

それと、謎解きの重要なポイントになるある物質の扱いがちょっと軽々しいのも気になった。
発行日から考えると不幸な偶然も影響して世の中のそれに対する視線が厳しくなっていることもあるとは思うけど、もう少し慎重に繊細に扱ってほしかった。

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2011/08/01

愛川晶/三題噺 示現流幽霊~神田紅梅亭寄席物帳~

三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ) 
三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳 (ミステリー・リーグ)

神田紅梅亭シリーズ4作目。

相変わらず話の展開や謎と落語の絡め方がスムーズで安心して読める。
特に表題作がよかった。
中で語られる落語は著者のオリジナルでこの5月に実際に高座にかけられたとのこと。
聞いてみたかったなあ。

ただ、最後の「鍋屋敷の怪」の仕掛けはあまりいい印象が持てなかった。
読み終わって全体を見ればいい話だと思えるし、信頼関係があるからこそ出来ることなんだろうけど、ああいう趣向は好きじゃない。
その後の「特別編(過去)」はとてもよかった。
特にラストは泣ける。

それと、話の進行役である亮子のリアクションがどうもいつも大げさで読んでいるとちょっと引いてしまう…。
まあ、そういう役目なんだろうけどね。

<収録作品>
多賀谷 / 三題噺 示現流幽霊 / 鍋屋敷の怪 / 特別編(過去)

あとがきによると、当初この作品で完結のつもりでいたけど、3.11の震災を受けて「ここで終わってはいけない」と思い直し、今後もシリーズを続けることにしたとのこと。
次がいつになるかはまだ判らないけど、楽しみに待ちたい。

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