門井慶喜/この世にひとつの本
残念ながら今ひとつ。
物語も人物もアウトラインが曖昧なまま走りだしてそのまま最後まで行ってしまった感じ。
ラスト近くまで何が起きてて何が問題なのかよく判らなかったし、人物への感情移入も出来なかった。
文章は読みにくくはないんだけど、ちょっと回りくどい。
読み終わってからもう一度全体を思い返してみれば「ああ、なるほどね」って思えるし、面白いキャラもいたけど、読んでいる間にそう感じられるような説明が欲しかったな。
例えば、東大卒のエリートであるにもかかわらず史上最速の窓際族(←この設定は面白いw)になった柴が、ぼんやりとしたお坊ちゃんにしか見えない三郎を最初から異様に高く買っていたのは何故なんだろう。
結果的に柴の目に狂いはないことは判るわけだけど、物語の中に柴がそう思うきっかけについて何も触れられていないのでなんだか釈然としないまま話が進んでいくんだよねえ。
ここでちょっとだけでも過去のエピソードが語られていれば、柴と三郎についての印象は全然変わったと思う。
逆に社長のエロ描写は必要だったのかどうか疑問。
真面目なのかギャグなのか判らないし、それが社長の人物理解の手助けになっていたとも思えなかった。
そして何よりタイトルと内容がほとんどリンクしていないというのが不満。
確かに「この世にひとつの本」という設定の本が出てくるのは確かだけど、それがこの話にとって一番重要なアイテムかというと特にそういうわけではない。
重要なキーワードは他にあると思うけどな。
なのに何故このタイトルにしたんだろうか。
ただでさえ本好きなら気になるタイトルだし、しかも著者が過去に『お探しの本は』という図書館を舞台にした作品をものしていると知っている読者なら「今度はどんな本の話だろう」と期待するのは判っていたはず。
それなのにあの本にこのタイトルを付けるのはちょっとずるいと思う。
それと、謎解きの重要なポイントになるある物質の扱いがちょっと軽々しいのも気になった。
発行日から考えると不幸な偶然も影響して世の中のそれに対する視線が厳しくなっていることもあるとは思うけど、もう少し慎重に繊細に扱ってほしかった。
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