大島真寿美/ピエタ
親に捨てられた子どもとしてベネツイアの修道院・ピエタで育ったエミーリアは40歳を過ぎた現在も院の運営の仕事をしてピエタで暮らしている。
ピエタの子どもたちはそれぞれの資質に合った教育を受けていたが、特に音楽の才能がある者を集めた"合奏・合唱の娘たち"はピエタの代名詞でもあった。
その"合奏・合唱の娘たち"をかつて指導していた恩師である大作曲家・ヴィバルディの訃報がエミーリアの元に届けられたことをきっかけに、彼女の静かで単調なピエタでの生活が変化していく…。
冒頭の20ページのみ以前アンソロジー『ぼくの歌が君に届きますように』で先に読んでいたんだけど、そこから想像していたのとは全く違う物語だったのがちょっと意外。
この部分からの印象だとエミーリアとアンネッタでのピエタでの生活の回想やヴィバルディとの思い出、その死によってもたらされた変化とその後…みたいな内容になるかと思っていたけど、実際は3人の女たちの友情物語だった。
捨て子として修道院で育ったエミーリア、貴族の娘の教養としてピエタで音楽の指導を受けたヴェロニカ、コルティジャーナ(高級娼婦)のクラウディア。
何らかの形でヴィバルディと縁のあった3人の女性。
生まれも育ちも立場も違う彼女たちの出会いと、その後の静かだけれど確かな交流が描かれている。
全編を通した鍵になるヴィバルディの遺した楽譜の使い方が上手い。
ラスト近くでようやく見つかった楽譜の歌をみんなで歌うシーンが美しかった。
長い時間をかけた交流のあと一人残されたエミーリアが明るく笑うラストもよかった。
ただ、冒頭部分でエミーリアよりも印象的に登場するアンナ・マリーア(アンネッタ)が本編ではほとんど出番がなかったのがちょっと残念。
音楽の天才で、ヴィバルディを神のように慕っていたアンネッタの物語も読んでみたいな。
ちなみに、『ぼくの歌が~』に収録されたパートは長編からその部分を切り取ったのではなく、まずその部分があってそこに加筆修正して長編にしたのがこの作品であるとのこと。
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