小路幸也/猫と妻と暮らす 蘆野原偲郷
亡くなった恩師の一人娘・優美子を娶い、自身も東京の大学で研究者として働く和弥は特別な土地である「蘆野原」の長筋の家系の人間であった。
読む前にどんな話なのかまったく知識がなかったので、冒頭の「家に帰ったら妻が猫になっていた」という展開にはびっくりしたけど、その後のすべてを包み込むように穏やかに流れていく物語がしみじみとよかった。
和弥が「こと」を「為す」様子、特に呪文が印象的。
こういう意味のある、そして決して軽々しくない言葉を、音の響きも考えながら組み合わせてそこにあるにふさわしい「呪」としていくのは、普通の文章を書くよりも難しいんだろうなあ。
「こと」の邪気を祓うだけでなく、その後の存在を寿ぐ意味もあるような言葉の組み合わせが素敵だった。
蕩々と滔々と、炎々と延々と、遠々と縁々と、流れて薙がれて和がれて消えよ
(p56「御禍付(みかづき)」より)
それから、長の家系でありながら土着の土地を出て東京で暮らす和弥や、蘆野郷に何の関わりもない優美子を土地で暮らす人々がすんなりと受け入れるという展開も小路さんらしくていいなあ、と思った。
これは何処かにある「蘆野原」という場所の話というよりも、全ての日本人の心の中にかつてはあったであろう大切なものの物語のような気がする。
大人になった多美や正也(あるいはその子供たち)がふたたび郷を開く、その日の物語も読んでみたい。
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