富樫倫太郎/鬼が泣く 中山伊織仕置伺帳
泣く子も黙る火付盗賊改の頭を勤める中山伊織を主人公にした連作時代小説。
三千石の旗本でありながら、礼儀にも言葉遣いにも頓着せず、ただ与えられた任務である「火付盗賊改方」の役をまっとうすることだけに心血を注ぐ。
べらんめえ口調、盗賊や狼藉者に対する容赦無い態度、弱き者正しき者自分が信じるものに対する掛け値なしの優しさ-。
こうやって書くと、伊織のキャラはなかなかカッコよくて魅力的。
でもそこに「火盗改」という役職が付いてしまうと(申し訳ないと思いつつも)どうしても過去の偉大な作品と比べてしまう。
なぜ似たようなキャラにしちゃうのかな。
火盗改の頭の任を拝命したあと、家の仏壇を叩き壊し「今日からわしは慈悲の心を捨てて鬼になる」と宣言した-というエピソードは印象的だけど、それが作品全体にうまくリンクしていなかったように思う。
それから、登場人物の使い方もちょっとぎこちない感じ。
伊織はさすがに主人公だけあってそれなりに動いてるけど、配下の同心が殆ど出てこないのがちょっと不自然。
その分、十手持ちの九兵衞の活躍が目立つけど、全体的に広がりが足りない感じがした。
面白そうな設定の登場人物も多いのでもっとそれぞれ活躍させて欲しかった。
逆に物語の本筋には絡まないけど、何故か伊織に名前を覚えられて何かというと絡まれて冷や汗をかいている町方同心の長谷川がいい味を出していて好きだったな。
それから、作品の中でいくつか似たような設定のものがあったのも残念。
よかったのは伊織の妻の姉が登場する「悋気講の夜」。
全体がきれいにまとまっていて面白かった。
多分シリーズ化されるみたいなので、他の同心たちの今後の働きを期待したい。
<収録作品>
鬼になった男 / 鬼が泣く / 密告者(いぬ) / 昔の女 / ろくでなし / 赤目の岩蔵 / 悋気講の夜 / 雷神党一件
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