浅田次郎/一刀斎夢録(上・下)
一刀斎夢録 上 ![]() | 一刀斎夢録 下 ![]() |
天皇の崩御と乃木大将の自決により永遠に続くかと思われた明治という時代が終わりを告げた。
明治天皇の大喪と乃木将軍の葬儀のあと、近衛師団には八日間の休暇が与えられた。
休暇を剣術三昧に過ごそうと剣友である榊がいる警視庁の道場へ向かった若き近衛中尉・梶原は、ライバル榊が師と仰ぐ老人の存在を知る。
現在は女学生相手の下宿屋を営むその老人こそ幕末、明治を生き抜いた新撰組助勤 斎藤一であった。
その後梶原は一升瓶を下げて夜毎斎藤翁を訪ね、未だ武人としての風格を失わない翁の語る当時の話に引き込まれてゆく。
斎藤翁と痛飲しつつ過ごした八日間の休暇の後、梶原の剣はどう変わったのか-。
『壬生義士伝』『輪違屋糸里』に続く、新選組三部作の最後の作品。
『輪違屋~』が今ひとつ趣味に合わなかったので、これはどうだろう…とちょっと不安なまま読み始めたんだけど内容の殆どが斎藤の独白と回想で構成されていて非常に読みやすく面白い作品だった。
新選組の辿った道が、その中でも特異な存在であったであろう斎藤を通して語られると別の顔が見えてくる。
語り手の性格によるのもなのか、ぎりぎりの状況が語られているにもかかわらず割とサラサラと流れるように進むので「このまま行っちゃうのかな?」と思ったら最後の最後で掴まってしまった。
涙で字が読めないくらいの号泣。
この展開は「ずるい」と思う。
この小説の主役は斎藤一だけど、斎藤翁の語る物語の主役は五稜郭で副長・土方がその遺品を託して日野の佐藤家まで落ち延びさせた少年・市村鉄之助。
私も市村の名前は知っていたけど、どんな少年でその後どう生きたか(あるいは死んだか)なんて考えたこともなかった。
それを新選組一の変わり者 斎藤一と絡ませて物語にする、そしてそれを斎藤自身が語るという構成が素晴らしかった。
(ちなみに市村少年を拾ったときに斎藤は『壬生義士伝』の主人公である吉村貫一郎と一緒だった、という設定になっている。
そのため、それに絡んで吉村についての記述も少し出てくる。)
死を渇望しながらそれも叶えられず、幕末、明治、大正を生き抜いた斎藤の人生。
あまりにも自分とかけ離れていて感想を持つことも難しい。
また、今の法律や常識に照らしあわせて考えればおよそ信じられない行為をしてきた「極悪人」とカテゴライズされてしまう人物なのであろうと思う。
でも自分が生きている今に続くどこかに実際にそう生きることを望まれ、実際にそうして生き抜いた人間がいたということは忘れてはいけないんだと思う。
南北戦争についての考察(実はあの戦争は西郷と大久保の仕組んだ壮大なる軍事演習だった←ネタバレなので伏せておきます)もなかなか面白かった。
私はこの時代の作品ってあまり読んでいないのでよくわからないけど、これってよくある考え方なのかな?
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