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2012年7月の18件の記事

2012/07/29

吉岡平/火星の土方歳三

火星の土方歳三 (ソノラマ文庫)

五稜郭で戦死したものの「もっと斗いたい!」と願った土方が火星に転生。
いくつもの国や部族の中で窮地に立たされながらも身につけた剣の技で戦いぬき、遂にはジョン・カーター不在のヘリウムで不逞浪士を取り締まる市中警護隊の副長になる話。

再読。やっぱり面白い!

火星にいても土方が思いっきり土方なんで笑えるw
やっぱり戦いがないところでは生きていけないのね。
諸国を放浪する(というか止む無く流されていく)だけでなく、行く先々で仲間を集めて最後には市中警護隊まで作ってしまうところが楽しい。

あと、他の作品だと土方はけっこうストイックに描かれることが多いけど、ここではけっこういろんなところでお姉さんとよろしくやっているのが新鮮だった。
(実際、若い頃から女絡みで奉公先をクビになったりしてたわけだからね(^.^;)

今も元気に戦っているのかなあ。

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2012/07/27

畠中恵/やなりいなり

やなりいなり

「しゃばけ」シリーズの10冊目。

う~ん、なんかもうここまで来ると面白いのかどうかよく分からないな(^.^;
つまらないわけではないけど、意外性というものが殆どなくてどれを読んでも「ふ~ん」としか思えない。
予定調和もいいんだけど、やっぱり「あ、こんな切り口もあったのか!」というのが読みたいな。

私にとってこのシリーズのベストは若旦那が箱根に行くやつ。
(タイトルなんだっけ?)
やっぱり、主役はもうちょっと行動範囲が広くないと辛いのでは。
それが無理でも、部屋の中の描写を毎回同じように書くのはちょっと考えたほうがいいと思う。
取り敢えず妖たちをだしてワサワサ喋らせておけばいい、みたいな作品になってしまうのであればシリーズをおやすみしてもいいのではないかと。

あ、今回の若旦那は自分のことを「私」と呼んでいたのはマル。
やはりそのほうが読みやすい。

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2012/07/25

朝井まかて/ちゃんちゃら

ちゃんちゃら

酒飲みだが腕も気風もいい庭師・辰蔵。
幼い頃たった一人でかっぱらいをしながら生きていたところを
辰蔵に引き取られ今では一人で仕事を任されるようになってきた"ちゃら"。
一心に庭のことだけを考えて仕事に励んでいた辰蔵たちがある日を境にとんでもない厄介事に巻き込まれていく。

残念ながら今ひとつ。
始まりは明るくて元気でいい感じだったのに、その後の展開が剣呑すぎる。

主人公の"ちゃら"も植辰一家の面々や他の登場人物も面白い人はたくさんいるのに、話がどんどん暗く重くなって行くので読んでいて辛かった。
近所の厄介事や、ちょっとした気持ちの行き違い程度のトラブルを「作庭」を通して解決する、くらいの話がよかったな。

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2012/07/24

朝井まかて/すかたん

すかたん

江戸詰めの藩士に嫁いだ饅頭屋の娘・知里は夫の大阪赴任に伴い引っ越すが、間もなく夫は病死してしまう。
婚家には縁を切られ、江戸にも帰れない知里はひょんなことから大阪の青物問屋の大店・河内屋の奥女中として働くことになる。

大阪を舞台にした時代物。
面白かった!

江戸時代の大阪の商家の様子が丁寧に描かれていてとても興味深かった。時代物でもやっぱり江戸を舞台にした作品とはちょっと違う感じ。
江戸っ子の知里が大阪の言葉のイントネーションや意味にいちいち反応する様子が面白かった。

あと、食べ物の描写が上手かったなあ(^^)

知里と河内屋の若旦那との関係はよくある展開ではあるけれど、それを端折らずに丁寧にじっくりと描いてあって好感が持てる。

結末も予想通りだけど、それも含めて気持よく読めるいい作品だった。

「ちゃうちゃう」「まったり」「だんない」「ぼちぼち」…などの各章のタイトルもいい。

「あんたのやることは何でも行き当たりばったりで、次のこと、先のことを考えへん。そやから心がない、言うんだす。行灯の始末は次に火ぃをつける段取りを考えて火皿を綺麗にする、雑巾を縫うときはそれを使う丁稚どんや女子衆らの使い勝手を思うて針を運ぶ、そうやって先々のことを考えて精を出すんが仕事に心を込めるということや。」(p36より)

「仕事いうもんは片付けるもんとちゃいます。どない小さなことでも、取り組んだ物事の質をちょっとでも上げてこそ仕事や。知里は休憩だけは一人前だすな」(p47より)

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2012/07/23

小路幸也/話虫干

話虫干

本に侵入し勝手に物語の内容を変えてしまう「話虫」が漱石の『こゝろ』の中に入り込んだ。
それを退治(干す)して物語本来の姿に戻すために新人図書館員の糸井は物語の中に入って行き…という話。

設定はファンタジーかSFだけど、語り口は相変わらずの小路さんで楽しく読めた。
設定は面白かったし、圖中(となか)と桑島そして糸井の友情物語としてはとても爽やかで楽しかったんだけど、話虫がこの物語をどうしたかったのかという部分はよく判らなかったな。
あと、話虫が物語を書き変える対象として何故『こゝろ』を選んだのかも知りたかった。
そしてイギリスから彼が来た理由は?
あと、何万冊もある本の中で「話虫」に侵入されてる本はどうやって見分けるのかも知りたい。
何か目印があるのかしらん。

ちなみに本文で一番ウケたのは「いつから『こゝろ』はメタ展開になったんですか」ってところ。
笑ったw

ちなみに私は『こゝろ』は未読です…というか、夏目さんの本を読んだ記憶がない^^;
(もちろんタイトルは知ってるけどね)

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2012/07/22

石持浅海/温かな手

温かな手

人間の肌に触れて人間の余剰エネルギーを吸い取ることで生きている生命体であるギンちゃんとムーちゃんが自分の周辺で起こる殺人事件の謎を解く連作短編ミステリー…って、書くと「どんな話だよ」って感じですがw

ギンちゃんとムーちゃんは見た目は人間、しかも標準以上の美男美女という設定。
で、それぞれにエネルギーを吸い取らせれくれるパートナーを見つけて表向きは恋人として同居している。
その恋人の周辺で起きた殺人事件を持ち前の冷静さと発想力、洞察力で見事解決に導く…という凝った設定。

事件と謎解き自体もいつもの石持さんの作品同様論理的で丁寧で楽しめた。
更にはいくらお互いに信頼しあって良好な関係であっても所詮異種族なのでいつまでもこのままで居られるはずがない、という2組のカップルが歩んでいく今後にまでキッチリと言及したラストになっているところが見事。

でも、いくら異種族だって頭では判ってても、見た目が人間(しかも平均以上)で性格もいいし頭もいいし…みたいなのが傍にいたら普通錯覚しちゃいそうな気がするけどね~。
(人間はすぐ自分の都合がいいほうに錯覚するからw)
食事する時は本来の姿に戻る、とかいうなら話は別だけど^^;

<収録作品>
白衣の衣装 / 陰樹の森で / 酬い(むくい) / 大地を歩む / お嬢さんをください事件 / 子豚を連れて / 温かな手

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2012/07/21

安住洋子/春告げ坂 小石川診療記

春告げ坂―小石川診療記

小石川養生所で働く若き医師 淳之祐を主人公にした連作時代小説。

必ずしも満足が行くものではない養生所での医療の現実とそこで起こる事件、そして淳之祐が幼い頃藩命により切腹して果てた父への思いが静かな文章で丁寧に描かれ読み応えがあった。

主人公の淳之祐をはじめ、養生所の看護中間の伊佐次や鉄平、下働きのお梅、お絹、お瑛、岡っ引きの友五郎、淳之祐の養親である高橋医師と妻・佳枝、実姉の那歌、そして訳ありの患者たち…どの登場人物もきちんと存在感があり物語に説得力と奥行きを与えていた。
特に薬種問屋の跡継ぎとして生まれながら父親とそりが合わず家を飛び出し悪所通いをしていたが父親の死をきっかけに心を入れ替え養生所にやってきた伊佐次の存在が大きい。
自ら修羅場をくぐり抜けてきた経験から腕に自信があり判断も冷静という設定は人物として魅力的なだけでなく、伊佐次がいることで養生所内外での揉め事の解決を淳之祐一人に負わせることを上手く回避し物語に安定と落ち着きを与えていたと思う。

父親の死の真相を知った淳之祐が迷いの中から今の自分を見つめなおし、導き出した前向きな回答で終わる結末も清々しい。

主要な登場人物がみな好人物すぎたり、もう少しこの話は膨らむのかな?と思わせながらそのまま終わってしまった部分も多少あったけれど、全体的には非常に読みやすくきちんとした内容で満足出来た。

村田涼平氏による装画も美しい。

<収録作品>
春の雨 / 桜の風 / 夕虹 / 照葉 / 春告鳥

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2012/07/20

浅野里沙子/よろず御探し請負い候

よろず御探し請負い候

家計を助けるために「探し物屋」を営む元服前の少年・文平。
ある日、偶然文平と出会った旗本家の部屋住み 哲哉と岩五郎は自分たちも探し物屋を手伝い始める。
連作短編。

残念ながら今ひとつ。
設定は面白いと思うんだけど、内容がよく把握出来なかった。
一つの話に2つの要素が入っていてそれが絡みあって結末に至る…という構成なんだけど、話が進むに従って人間関係や事情がどんどん複雑になってきて何が起きているのか分からなくなってしまうことが多かった。
あまり複雑にし過ぎないで、それぞれ完結した短い話をいくつか重ねていく形式のほうがわかり易かったんじゃないかな。

3編のうち真ん中の「花篝」は一番まとまっていたし、内容も美しい余韻があってよかった。
特に後半の夭折した美少女と文平の淡く儚い恋の行方、それを見守る家族の様子が心に残った。
(ただこれも前半・後半分けたほうがよかったと思うけど)

登場人物も悪くはないんだけど、感情移入するところまでは行けず。
特に3人の年齢設定がどうしてもしっくりこなかった。
作中では文平が16歳で、哲哉と岩五郎がその10歳くらい上となっているけど、内容を読む感じではいずれももっと若い印象を受ける。
文平が14歳で、他の2人は22、3って感じに見えたけどな。

あと、結末が割と「大人の事情」的な灰色解決になっていたのもちょっと消化不良。
確かに何の権力も持たない若者3人が出来ることは現実としては何もないのかもしれないけど、そこはお話なんだからもうちょっと「勧善懲悪」をハッキリさせた結末があってもよかったような気がする。

<収録作品>
蒔絵の重ね / 花篝 / 綴れ刺せ

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2012/07/19

小川洋子/人質の朗読会

人質の朗読会

海外のツアーに参加した旅行者と添乗員計8人がゲリラに襲撃され人質にとられる。
長期に渡る監禁生活の中で彼らは自分の書いた物語をそれぞれ読み聞かせる朗読会を開いていた…。

人質になった8人と、その朗読会を盗聴器を通じて聞いていた特殊部隊の青年による物語。

面白かった。
なぜその状況で朗読会をしようと思ったのか、そしてそんなにいろいろな場所に書いたものをどうやって朗読したのかなどちょっと不思議な部分は残るものの、一人ひとりの過去の大切な記憶を丁寧に切り取ってそっと差し出された物語は上質で、心が"しん"とする神聖さを持っていて引きこまれた。

人は誰でもこんなふうに人に語る物語になるような過去を持ってるものなんだろうか。
もしあったとして、それがどんなにその人にとって特別なものであっても、口にのぼった途端に色が褪せていってしまうような気がしてならない。
その色や輝きをそこに留める力こそが作家が作家である所以じゃないかと思う。

最初、人質になった8人の国籍が書いてなかったので、どこか他の国の話として書いてあるのかと思っていた。
読んでいけば「多分日本人なんだろうな」という部分は随所に出てくるけどもしかしたら意図的に国名を書かないのかと思っていたのに、最後に「日本」の国名がハッキリ出てきたのがちょっと意外だった。

<収録作品>
杖 / やまびこビスケット / B談話室 / 冬眠中のヤマネ / コンソメスープ名人 /槍投げの青年 / 死んだおばあさん / 花束 / ハキリアリ

どれもそれぞれよかったけど、特に「冬眠中のヤマネ」と「ハキリアリ」が好き。

彼らの朗読は、閉ざされた廃屋での、その場限りの単なる時間潰しなどではない。彼らの想像を超えた遠いどこかにいる、言葉さえ通じない誰かのもとに声を運ぶ、祈りにも似た行為であった。その祈りを確かに受け取った証として、私は私の物語を語ろうと思う。(第九夜「ハキリアリ」p231より)

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2012/07/18

朱川湊人/鏡の偽乙女 薄紅雪花文様

鏡の偽乙女 ─薄紅雪華紋様─

画家になることを反対され家を飛び出した功次郎は、画家志望の雪花と名乗る青年と出会う。
その後、雪華と親しく付き合うようになった功次郎の身の回りでは不思議な現象が次々と起き始める。

連作短編集。
雪花の存在感や「怪異」の知識、それへの対処法が斬新で面白かった。
ただ一つずつ別々の話かと思ったら5つのうち3つが「みれいじゃ」(現世に未練や執着を残したまま死んだ魂が別の生き物の魂を借りて蘇った存在)という妖の話だったのが残念。
3編とも違った角度からのアプローチだったのでそれなりに面白かったけど、もっと他の形の妖怪(?)も見てみたかったなあ。

それに一番の謎である雪花は何者なのかについて触れられてなかったのも不満。
続きがあるってことなのかな。

主人公の功次郎、読み始めたときは何となく線が細くて背も高くない華奢な感じの青年をイメージしていたのに、読んでいくうちに「講道館で身につけた柔道が得意」な「偉丈夫」だということが判明。
でもどうしても最初のイメージが払拭できず、何となく違和感を持ったまま終わってしまった。
こういうタイプの人って画家ではなく、どちらかというと文学に行きそうな気がするな~。
(いや、勝手な思い込みですけどね(^.^;)

<収録作品>
墓場の傘 / 鏡の偽乙女 / 畸談みれいじゃ / 壺中の稲妻 / 夜の夢こそまこと

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2012/07/15

篠田真由美/黄昏に佇む君は

黄昏に佇む君は (ミステリー・リーグ)

建築探偵シリーズ外伝。
京介の恩師である神代教授の若き日の思い出を綴った作品。

面白かった。
年代があちこち飛ぶし人間関係が複雑でちょっとわかりにくいけど、読み始めたら先が気になって一気読みだった。
まだ自分の先が見えず、迷いの中にいる大学生の神代宗くんが魅力的。

その若き宗が短い時間を一緒に過ごし、思いもかけない事件に巻き込まれるきっかけを作り、その正体が後の宗の生き方を決める動機ともなった小森文也と名乗る少年の、孤独な美しさが印象に残った。

本作では宗が神代家に引き取られた真相も明らかにされる。
メインのストーリーの中に時々挿入される、神代家での宗と義父とのやりとりがいい。
そしてラストの宗の養父からの手紙がとても印象的。
最後のページまで泣かなかったのに、本を閉じた途端涙が出た。

決してハッピーエンドではないけれど、心地いい読後感の残る作品だった。

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三上延/ビブリア古書堂の事件手帖<3>~栞子さんと消えない絆~

ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)

今回の栞子はオンとオフの差があまりなかった、というかオフの時の描写が少ないのがよかった。
オフのの部分がかなり前面に出てて「栞子、苦手だ~」と思ってなかなか入り込めなかった前作と比較するとかなり面白く読めた。

栞子の古書店仲間の滝野の存在もよかったな。
ああいう人が出てくると栞子も普通の人なのね、って思えるw
最終話の昴少年もなかなかいいキャラだった。
課題が解ければいいなあ。

それにしても、1冊目の内容を殆ど忘れてる自分にがっかりする。
再読しようかな。

<収録作品>
『王様の耳はロバの耳』(ポプラ社) / ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫) / 「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの」 / 宮沢賢治『春と修羅』 / 『王様の耳はロバの耳』(ポプラ社)

「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの」 は作品名ではなく、その本の内容を説明した言葉。
「こういう本を探して欲しい」という依頼を受けて栞子と五浦が本を探すという内容なので、作品名は伏せられている。
(もちろん、作中では作品名も明かされている)

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2012/07/13

梶よう子/迷子石

迷子石

富山藩のお家騒動とそれに巻き込まれる江戸屋敷の見習い医師の話。

うーん、いまいち。

主人公の孝之助は医師としての技術も知識もあるのに過去の記憶に囚われて自分に自信が持てず人目を避けて暮らしているという設定なんだけど、それが徹底しすぎていてちょっとイライラした。
もちろん、状況の変化によって孝之助自身も少しずつ変わっていくという展開ではあるんだけど、その変化が小さすぎてよく分からない。
現実としては長年そうやってきた生き方を変えるのはなかなか難しいのは理解できるけど、これは物語なんだからそこはある程度デフォルメしてあってもいいんじゃないの?と思うんだけど。
いつまで経ってもウジウジしてるので、主役なんだからもっとしっかりしなよ~!と思いながら読み終わってしまった感じ。

物語の主題が「お家騒動」なんていうシリアスなものではなく、全体がもっと軽い話題だったほうが孝之助の性格が生きたんじゃないかなあ。

脇役の惣吉や絹代、岡部、山谷らのほうが印象に残った。

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2012/07/11

鮎川哲也/不完全犯罪 鬼貫警部全事件Ⅱ

鮎川哲也氏の主要キャラである鬼貫警部を探偵役にした短編作品のアンソロジー。

鮎川作品をまとめてちゃんと読むのは初めてかも。
今回の作品集は全編アリバイ崩し、そして殆どが時刻表トリック。
これはそういうのを集めたのかな。
それとも元々そういう作風?

昭和30年代の作品なのでそれなりに時代がかった描写があったりするけど、それでも凝った設定と丁寧な展開で面白く読めた。
短編であるせいか鬼貫警部の内面に迫った描写は少なめ。
それどころか別の人物が推理を担当する作品もあったり。
鬼貫よりも尾行が得意な丹那刑事が印象的。

ところで、作中で殺人を犯した人物が「ここで捕まったら絞首台送り…云々」といったセリフが複数の作品であったんだけど、この当時は殺人犯人→即死刑だったの?

大都会は朝のしずけさから一変して躍動をはじめようとしていた。ただ屍体の周囲にだけ、大きなナイフで切りとられた巨大なケーキのように、隔絶した別の世界があった。
「早春に死す」p29より

活気のない、町全体がうすいふとんをかけてうたた寝しているような、索寞(さくばく)とした感じを受けた。
「早春に死す」p39より

わななく手の上からころげ落ちた焼き芋が、にぶい音をたててたたみの上を横切り、その一つは死んだ女の顔のわきで起き上がり小法師のようにひょいと止まった。同時に花子の口から、わなにかかったハイエナみたいな悲鳴がもれた。「下り"はつかり"」p160より

<収録作品>
五つの時計 / 早春に死す / 愛に朽ちなん / 見えない機関車 / 不完全犯罪 / 急行出雲 / 下り"はつかり" / 古銭 / わるい風 / 暗い穽(あな) / 死のある風景 / 偽りの墳墓

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2012/07/07

森福都/肉屏風の密室

肉屏風の密室

体は子供、頭脳は大人wの趙希舜(ちょうきしゅん)、一見優男だけど実は拳法の達人の傅伯淵(ふはくえん)、髭面の大男賈由育(かゆいく)の3人が中国各地で横行する不正を糾すため旅をする巡按御史(じゅんあんぎょし)シリーズの2作目。

面白かった(^^)
中国が舞台の作品は、雰囲気は好きなんだけど名前(人名、固有名詞)が覚えにくくて今ひとつ楽しめないことが多い。
でもこれは比較的覚えやすい名前が多くて読みやすかった。

物語もけっこう複雑なんだけど展開が速いし、適度にハラハラさせてくれる部分もあってかなり面白かった。

何よりやっぱり巡按御史一行の3人のバランスが絶妙。
仲が悪いわけじゃないけど、それぞれ大人なのでベッタリしていないところがいい感じ。
今回は元軽業師の女細作・茅燕児(ぼうえんじ)も加わったけど、この子も頭が良くてサッパリした性格なので上手くハマっていた。

<収録作品>
黄鶏城の名跡 / 蓬草塩の塑像 / 肉屏風の密室 / 猩々緋の母斑 / 楽遊原の剛風

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2012/07/05

今野敏・東直己・堂場瞬一/誇り

誇り

三人の作家による警察小説のアンソロジー。

40代から60代のベテラン警察官(一人は退職警官)が主人公。
警察という組織の慣習やしがらみ、面子に縛られながらも自分の信じた正義のために全力を尽くそうとする男達が描かれている。
3編とも50ページほどの作品だけど、起承転結がしっかりしていて読み応えがあった。
地味だけど、読後感がいい作品集。

今野敏「常習犯」
48歳の盗犯捜査係の刑事・萩尾が主人公。
萩尾が過去に何度か検挙したことがある空き巣狙いの常習犯・松崎が強盗殺人の容疑者として逮捕される。
今までの経験から松崎が犯人とは思えない萩尾は…。

東直己「猫バスの先生」
警察を定年退職し、現在は幼稚園の送迎バスの運転手を務めている槙谷。
ある朝、園児を連れてバスを待っていた保護者と思われる若い男とトラブルを起こしそうになる。
なんとか切り抜けたが、以前派出所勤務だったときの苦い経験が蘇り落ち着かない気持ちになった槙谷は園児の家族の身元調査を後輩に依頼するが…。

堂場瞬一「去来」
もうすぐ定年を迎える県警の刑事部長・菅谷。
地元の政治家の汚職事件捜査のため事務所の家宅捜索に踏み込んだものの、室内からは一切の書類が消えていた。
捜査の情報が漏れていたとしか考えられない状況だが、当日の予定を把握していたのは身内しかいない。
信頼出来る部下に調査を指示するが…。

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2012/07/04

麻見和史/ヴェサリウスの柩

ヴェサリウスの柩

東都大学医学部で人体解剖実習中に遺体から不自然なシリコンチューブが発見される。
その中には担当教授・園部あての脅迫文が書かれたメモが入っていた。
その後、園部研究室の周辺で不気味な事件が立て続けに発生する。

長編ミステリー。
人体に仕掛けられた時限装置であるメモを皮切りに事件が起きる、という設定が斬新。

その後明らかにされて行くそれを発動するまでの準備も余りにも迂遠で、だからこそ犯人の執念と憎しみの強さを感じた。
ただ、全体的に人の出入りが多すぎて落ち着かない印象。
怪しい人物を複数配置する必要があったのだろうとは思うけど、もう少し人物を絞り込んで欲しかった。

主人公は研究室の新人助手・千紗都。
学生時代から園部の指導を受けて彼に尊敬以上の気持ちを持っているという設定なんだけど、そのあたりとか過去の背景をもう少し丁寧に描いて欲しかったな。
あと、事務員の梶井のスタンスが曖昧だったのも気になった。

途中、千紗都は事件を調べる過程で犯人に殺されかけるんだけど、それが「私だったらあんなことされたら再起不能」という方法。
読んでいて気分が悪くなりそうだった。
あんなことされてもまだ調査を続けようとする千紗都は凄いな。
てか、さっさと警察呼ばないと。

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2012/07/02

今野敏/天網 TOKAGE2 特殊遊撃捜査隊

天網 TOKAGE2 特殊遊撃捜査隊

TOKAGEシリーズの2作目。

今回の事件はバスジャック。
しかも3台のバスが同時に乗っ取られるという大事件。
犯人は誰なのか、そしてその目的は?という話。

今回もトカゲの上野や涼子をはじめ、特集捜査班のメンバーの活躍が丁寧に描かれていて読みやすく面白かった。
事件の情報や捜査本部の混乱ぶりがスムーズにテンポよく展開されるので自然に目が先に進んでページを捲る手が止まらないといった感じ。
しかも犯人側との直接的なやり取りは殆ど皆無なのに全体が見渡せているような気持ちになれるのが凄い。
新聞記者の湯浅と木島の使い方もうまかった。

上野の成長物語としても機能していて読後感もよかった。

それにしても、木島のノキア携帯、電池持ちがいいなあw

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