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2012/07/19

小川洋子/人質の朗読会

人質の朗読会

海外のツアーに参加した旅行者と添乗員計8人がゲリラに襲撃され人質にとられる。
長期に渡る監禁生活の中で彼らは自分の書いた物語をそれぞれ読み聞かせる朗読会を開いていた…。

人質になった8人と、その朗読会を盗聴器を通じて聞いていた特殊部隊の青年による物語。

面白かった。
なぜその状況で朗読会をしようと思ったのか、そしてそんなにいろいろな場所に書いたものをどうやって朗読したのかなどちょっと不思議な部分は残るものの、一人ひとりの過去の大切な記憶を丁寧に切り取ってそっと差し出された物語は上質で、心が"しん"とする神聖さを持っていて引きこまれた。

人は誰でもこんなふうに人に語る物語になるような過去を持ってるものなんだろうか。
もしあったとして、それがどんなにその人にとって特別なものであっても、口にのぼった途端に色が褪せていってしまうような気がしてならない。
その色や輝きをそこに留める力こそが作家が作家である所以じゃないかと思う。

最初、人質になった8人の国籍が書いてなかったので、どこか他の国の話として書いてあるのかと思っていた。
読んでいけば「多分日本人なんだろうな」という部分は随所に出てくるけどもしかしたら意図的に国名を書かないのかと思っていたのに、最後に「日本」の国名がハッキリ出てきたのがちょっと意外だった。

<収録作品>
杖 / やまびこビスケット / B談話室 / 冬眠中のヤマネ / コンソメスープ名人 /槍投げの青年 / 死んだおばあさん / 花束 / ハキリアリ

どれもそれぞれよかったけど、特に「冬眠中のヤマネ」と「ハキリアリ」が好き。

彼らの朗読は、閉ざされた廃屋での、その場限りの単なる時間潰しなどではない。彼らの想像を超えた遠いどこかにいる、言葉さえ通じない誰かのもとに声を運ぶ、祈りにも似た行為であった。その祈りを確かに受け取った証として、私は私の物語を語ろうと思う。(第九夜「ハキリアリ」p231より)

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