安住洋子/春告げ坂 小石川診療記
小石川養生所で働く若き医師 淳之祐を主人公にした連作時代小説。
必ずしも満足が行くものではない養生所での医療の現実とそこで起こる事件、そして淳之祐が幼い頃藩命により切腹して果てた父への思いが静かな文章で丁寧に描かれ読み応えがあった。
主人公の淳之祐をはじめ、養生所の看護中間の伊佐次や鉄平、下働きのお梅、お絹、お瑛、岡っ引きの友五郎、淳之祐の養親である高橋医師と妻・佳枝、実姉の那歌、そして訳ありの患者たち…どの登場人物もきちんと存在感があり物語に説得力と奥行きを与えていた。
特に薬種問屋の跡継ぎとして生まれながら父親とそりが合わず家を飛び出し悪所通いをしていたが父親の死をきっかけに心を入れ替え養生所にやってきた伊佐次の存在が大きい。
自ら修羅場をくぐり抜けてきた経験から腕に自信があり判断も冷静という設定は人物として魅力的なだけでなく、伊佐次がいることで養生所内外での揉め事の解決を淳之祐一人に負わせることを上手く回避し物語に安定と落ち着きを与えていたと思う。
父親の死の真相を知った淳之祐が迷いの中から今の自分を見つめなおし、導き出した前向きな回答で終わる結末も清々しい。
主要な登場人物がみな好人物すぎたり、もう少しこの話は膨らむのかな?と思わせながらそのまま終わってしまった部分も多少あったけれど、全体的には非常に読みやすくきちんとした内容で満足出来た。
村田涼平氏による装画も美しい。
<収録作品>
春の雨 / 桜の風 / 夕虹 / 照葉 / 春告鳥
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