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2012年8月の15件の記事

2012/08/31

今野敏/転迷 隠蔽捜査4

転迷―隠蔽捜査〈4〉

面白かった!

今回はえーと、殺人とひき逃げと麻薬と外務省と厚労省と公安あと南米、プラス放火などなど。
次から次へ事件がやってくるし人の出入りも情報が多すぎて、途中で意識が飛びそうになってしまったw
それでもそれだけでっかく広げた風呂敷が最後にはきっちり畳まれて行くのはさすが。

竜崎は相変わらず、正論まっしぐら。あのブレなさが凄い。
で、関わりになった人みんなが竜崎ファンになって終わるのが笑えた。
まあ「理想を追求するのに、何をためらう必要があるのです?」みたいなことを真顔で言えちゃう人には敵わないよねw

これで既刊の作品は全部読み終わってしまったので、次回作までは少し間が開きそうだけどどんな事件が竜崎を待っているのか楽しみ!
でも一度に起きる事件の数はもう増やさないで欲しい(^.^;

ところで、戸高の存在ってちょっと微妙な感じ。
冷遇されてるって感じではないけど、本編に絡むことが少ない気がする。
今回もメインの事件ではなくて、あまり出てこないサブのほうに回されちゃってたし。
もしかしたら著者も「出したはいいけど扱いに困ってる」って感じなのかな(^.^;

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2012/08/30

小路幸也/コーヒーブルース

Coffee blues

恋人の死をきっかけに広告代理店を辞め、自宅を改造して喫茶店「弓島珈琲」を始めた青年・ダイ。
ある日見知らぬ小学生の少女が店を訪ねて来て、行方不明になった姉の行方を探して欲しいとダイに依頼する。

長編ミステリー。

面白かった!
展開がスピーディーで、でも先が見通せないハラハラ感もあってどんどんページが進んだ。
2つの事件が同時進行で進むけど、それらへのアプローチの仕方、情報の見せ方がスムーズで効果的だった。

主人公のダイをはじめとした登場人物もいい。
みんな個性的で印象的、しかもそれぞれの役割がブレないので人数が多いけどちゃんと見分けられる。
相変わらず小路さんは「人」を描くのが上手いなあ。
特に元女子プロレスラーの丹下さんのキャラ設定が最高によかった(^^)

ただ、ストーリー的には後半に出てきた真紀の件が事件とどう関係していたかが今ひとつハッキリしなかったのがちょっと残念。
もうちょっと具体的な説明が欲しかったかな。
そうじゃないと結局なんで解決させることが出来たのかわかりづらいと思う。
あと三栖がどうして黒幕を抑えて事件を止めることが出来たのかも謎。
どんな駆け引きがあったんだろう…。

でも全体的な雰囲気はすごく好きな作品だった。
満足。

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2012/08/29

太田忠司/甘栗と金貨とエルム

甘栗と金貨とエルム (角川文庫)

半月前に事故で父親を失った高校生・甘栗晃は父の職場であった探偵事務所の整理中に小学生の少女・淑子の訪問をうける。
彼女は父親の最後の依頼人だった。
既に依頼料を払ってあると言ってきかない淑子に押し切られて晃は彼女の母親探しを引き受けるが…。

長編ミステリー。

面白かった。

人物や舞台の設定と謎のバランスがちょうどいい。
この間まで普通の高校生だった晃が会ったこともない大人の女性を探す過程が、上手く行き過ぎることなく、でも読んでいてイライラするほど回りくどくなく丁寧に書かれていて納得しながら読めた。

ただ、タイトルの「甘栗」と「エルム」はともかく「金貨」についてはあれだけしか背景がないのはちょっと納得行かなかった。
わざわざタイトルにつけるくらいだから何かもっと深い意味がありそうだったしあるべきだと思うんだけど。
(それともまだあそこでは終わっていないのか?)

表紙のイラストは綺麗で可愛くて作風としてはきらいじゃないけど、小学生のエルムはともかく晃は高校2年生(しかも身長180cm)にはちょっと見えないような気がする…。

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2012/08/28

森福都/ご近所美術館

ご近所美術館 (創元クライム・クラブ)

会社近くのコンビニの2階にある小さな美術館の常連である海老野は、新しく館長になった菫子(とうこ)に一目惚れ。
イケメン、金持ちの強力なライバルの出現にいいところを見せようと美術館に持ち込まれる厄介ごとを菫子の妹でオタクの同人誌マンガ家であるあかねと共に解決して行く。

短編連作ミステリー。

森福さんの作品で中国以外が舞台のものを読むのはこれが初めてだけど、テンポがよくて読みやすく面白かった。
登場人物も多彩。
特に外見も性格も全く違う菫子とあかね姉妹の設定がいい。
探偵役の海老野は決してヒーロータイプではないけどそこがこの作品には合っていたと思う。

ラストも「多分そうなるんだろうなあ」と予想していたところに落ち着いたので意外性はなかったけど、そこまでの過程が丁寧だったので「よかったね(^^)」と思えた。

ただ、基本は日常の謎系なのに、殺人事件が2つ入もっていたのが気になった。
特に1つ目の事件は被害者が直接美術館とは関係ないし過去に起きた事件だとはいえ、事件の質や状況がこの作品の雰囲気には合わなかったように思う。
解決しても後味が悪い事件だった。

それにしても、小さいけれど静かで人もまばらで入館料も安くて(月間フリーパスが3000円)ラウンジで(セルフサービスだけど)無料でコーヒー飲み放題、仕事しててもマンガ読んでてもOKなんて美術館が近くにあったら私も毎日通うな~(笑)
羨ましい。

<収録作品>
ペンシル / ホワイトボード / ペイパー / マーカー / ブックエンド / パレット / スケール

収録作の中では「ブックエンド」が一番好き。
全体的な雰囲気も登場人物も結末も一番まとまっていて面白かった。

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2012/08/25

中山七里/静おばあちゃんにおまかせ

静おばあちゃんにおまかせ

警視庁捜査一課の刑事 葛城が持ち込んでくる事件を、ある事件をきっかけに知り合った法学部の大学生・円と彼女の祖母で元裁判官の静おばあちゃんが解決する安楽椅子探偵モノの連作短編ミステリー。

面白かった。
3人の人物設定がとてもいい。
安心して読めた。

本当は安楽椅子探偵もので殺人事件が出てくるのってあまり好きなじゃないんだけど、探偵役のおばあちゃんを元法曹関係者とすることでその違和感を薄くして上手くまとめてあったと思う。

葛城と現場に行って情報を持ってくる円の態度も大学生の女の子として自然で好感が持てたし、そういった捜査の過程で少しずつ近づいていく2人の気持ちの描き方も自然でとてもよかった。

最後は「なるほど、そう来ますか」という設定でちょっとビックリしたけど、確かにそうであれば納得できる部分もあった(円の両親のこととか)ので上手い結末だと思う。

また、全体的には明るい雰囲気でありながらその中に「正義とは」とか「裁く者と裁かれる者の心理」とか「冤罪について」などの問題提起もされていて考えさせられる部分がたくさんある作品だった。

ただ最後の話は、話自体は面白かったけどこの物語の中で扱うにはちょっと違和感があったかも。
あと、両親がそんな死に方をしたのに円に屈託がなさすぎる(特に警察に対して)というのが、ちょっと気になったな。
それも静おばあちゃんの薫陶だということなのかもしれないけど。

<収録作品>
静おばあちゃんの知恵 / 静おばあちゃんの童心 /静おばあちゃんの不信 / 静おばあちゃんの醜聞 / 静おばあちゃんの秘密

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2012/08/23

中島京子/小さいおうち

小さいおうち

昭和初期、尋常小学校を出てすぐに山形の田舎から東京へ女中奉公に出た少女タキが出会った一組の家族との思い出を綴った物語。
直木賞受賞作。

フワッとした雰囲気の中に時々意地悪な描写が差し込まれるので結末はもっと別な展開になるのではないかと予想しいたけどそうでもなかった。

戦時中だというのにのんびりした思い出を綴るタキに、甥の息子である健史が「そんなに暢気だったはずがない」と批判するシーンが何度も出てくるけど、実際にその局面の中にいても身近にそれを感じる(知る)手段がなければ実感としてはそんなものなのかもしれないな。

タキと「奥様」である時子の印象はすごく強いけど、その2人の生活を支えていた「旦那様」の印象はぼんやりしている。
そんなに登場シーンが少ないわけでもないのにな。
だいたい、この「旦那様」がどうして時子と結婚したのかもちょっと謎。
綺麗な奥さんを傍に置いておきたかったのかなあ。

戦局が厳しくなってから平井家を離れ故郷に帰ったタキと再会した時子が「今何が食べたいか」をあげていくシーンが好きだな。
時代の趨勢の中では眉を顰められ、批判されてしまうような行為だと思うけど、それに流されずあくまでも自分の好きなものを譲らずに明るく振舞い遠くから土産を持って駈けつけてくれたタキをもてなそうとする時子の気丈さが表現されたいいシーンだった。

昔の少女雑誌の挿絵のような色合い、フォントの装丁も可愛い。

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2012/08/21

真保裕一/猫背の虎 動乱始末

猫背の虎 動乱始末

幕末の江戸を大地震が襲った。
一夜にして混乱の巷と化した町の平安を保つため、当番方同心である虎之助は「臨時の臨時」として町方見回りに抜擢される。
手練の岡っ引き松五郎と中間の新八を従えて町を巡る虎之助の元に次々と厄介事が運び込まれる。

長編時代小説。
事件が起きて謎解きもあるけど、推理物というよりも人情物あるいは成長物語の印象が強かった。
「仏」の二つ名を持つ名同心だった父と同じ役目に着いた虎之助が町を歩き、人に出会い、事件を解決することで人として成長していく姿が丁寧に描かれていて読み応えがあった。

ただ、虎ノ助を始めとする男性の登場人物がみな印象的な好人物なのに対して、女性は今ひとつ共感出来る人物がいなかったのが残念。
特に虎之助の家族(母、姉)は最初の方の「怖い」印象が強すぎ。
最後の方に見せた面白さ、可愛らしさをもっと前面に出してくれたら印象が違ったと思うのだけど。

この物語のメインは虎之助が見回り同心になって以降だと思うけど、それよりもその前段、夜半の大地震発生後の混乱する江戸の町の様子がとても印象に残った。
この部分を読むだけで涙が出そうだった。
私なんて大して怖い思いしてないのにこんなに気持ちが揺れてしまうのね…。

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2012/08/19

本格ミステリ作家クラブ・編/珍しい物語のつくり方

珍しい物語のつくり方 本格短編ベスト・セレクション (講談社文庫)

05年に発表されたミステリ短編の中から優秀な作品を集めたアンソロジー。
13本の短編ミステリと1本の評論を収録。
この年の選者は乾くるみ、歌野晶午、円堂都司昭の3氏。

「本格」というのが何なのか相変わらずよく判らないけど、そういうことを考えなくても楽しめる作品ばかりで面白かった。
中でも小市民シリーズの一部として書かれた米澤穂信さんの「シェイク・ハーフ」が楽しかった。
このシリーズ、3作目以降読んでないのでもう一回読んでみようかな。

収録された13作のうち5作は既読。
短編ミステリとかアンソロジーとか好きなので仕方ないね。

巻末に杉江松恋氏による作品解説付き。

<収録作品>
東川篤哉「霧ヶ峰涼の逆襲」 / 黒田研一「コインロッカーから始まる物語」 / 霞流一「杉玉のゆらゆら」 / 柄刀一「太陽殿のイシス(ゴーレムの檻 現代版)」 / 佳多山大地「この世でいちばん珍しい水死人」 / 道尾秀介「流れ星のつくり方」 / 森福都「黄鶏帖の名跡」 / 浅暮三文「J・サーバーを読んでいた男」 / 田中啓文「砕けちる褐色」 / 石持浅海「陰樹の森で」 / 岩井三四二「刀盗人」 / 蒼井上鷹「最後のメッセージ」 / 米澤穂信「シェイク・ハーフ」 / 小森健太朗「『攻殻機動隊』とエラリイ・クイーン-あやつりテーマの交錯-」

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2012/08/15

乾くるみ/カラット探偵事務所の事件簿2

カラット探偵事務所の事件簿 2 (PHP文芸文庫)

1と同様展開が速くて読みやすいミステリー短篇集。

話自体は面白かったけど、1のラストの展開がどうも納得出来ない私にはこの2冊めも「う~ん?」という感じ。
今回も最後の最後に書かれた一文のための物語だったのかも?
だとしたらそれはそれで徹底していてお見事だとは思うけど。

<収録作品>
小麦色の誘惑 / 昇降機の密室 / 車は急に…… / 幻の深海生物 / 山師の風景画 / 一子相伝の味 / つきまとう男

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2012/08/12

波乃歌/ビューリフォー!准教授久藤凪の芸術と事件

ビューリフォー!―准教授久藤凪の芸術と事件 (メディアワークス文庫)

頭脳明晰、眉目秀麗、性格温厚で女子学生を中心に人気がある西洋美術史の准教授・久藤凪。
その本性を知っているのは彼の元でこき使われている貧乏学生の花だけだった。

絵画をモチーフにした日常の謎系短編ミステリー。

まあまあ。
文章は読みやすいし絵画をモチーフにしているのは面白いけど、登場人物の設定はちょっとありきたり。
それでも、それが徹底されているところは好感が持てたし、謎(事件)の種類や結末も作品の雰囲気に合っていてよかった。

それぞれの話のテーマとなる絵画を花が初めて見たときの反応が、見えてるそのまんまの感想なんだけどそれが却って新鮮。
(でも、他の作品はともかくピカソの「泣く女」さえも一回も見たことない大学生っているのかな?)
それに対する久藤の作品解説も的確で解りやすかった。

ただ、花がお金に困ってる理由が何となく弱い感じがした。
だって、ここに書かれている内容だけでは、何のために花がそこまで苦労しながら大学に通っているのか判らないから。
親からの援助を受けられないから奨学金で大学に通う。
それだけだと生活が苦しいからバイトに明け暮れる。
結果、学校の成績が落ちる…ってよくあるパターンだけど、何のためにそこまでして大学生活を選ぶのかという理由付けをもっときちんと書いて欲しかった。
そんなに働いてばっかりいるなら別に大学生じゃなくてもよくないですか?と思ってしまうので。
そんなにキツイ思いをしても大学に行く価値がある花にとっての「何か」が書かれていれば、花にもっと感情移入できたと思う。

<収録作品>
第一話 忘れられた少年(伝ピーテル・ビュリューゲル『イカロスの墜落』より) / 第二話 とんだいいひと(歌川国芳『みかけハこハゐがとんだいゝ人だ』より) / 第三話 恋の処方箋(パブロ・ピカソ『泣く女』より) / 第四話 家族の肖像(ラファエロ・サンティ『子羊と聖家族』より)

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2012/08/10

西條奈加/千年鬼

千年鬼

無垢のまま罪を犯した人間の心の中に芽生える「鬼の芽」。
そのまま放っておけばやがて弾けその人間を「人鬼」に変える鬼の芽を千年に渡って摘み続ける2人の鬼の物語。

面白かった。

千年前のほんの些細な出会いのために自分の身を削り鬼の芽を集め続ける小鬼のひたむきな姿が胸に迫る。

時代を超えて「鬼の芽』を摘む小鬼とその共をする黒鬼の姿を描く7つの物語はどれも切なく物悲しい。
でも、小鬼の活躍で鬼の芽を吐き出すことの出来た人々の瞳は明るくその先の希望を感じさせる。
小鬼はただ過去を見せるだけで、それ以上の手助けは出来ないという制約の中で解決する設定も生きていた。

ラストも印象的。
ただ自分を千年かけて助けてくれた小鬼の気持ちに報いるために、いつ終わるともしれない作業を続ける民の姿が心に響く。

「地獄とは、希望(のぞみ)の絶えた世界です。希望のないまま無為に時間を過ごす。それこそが地獄というものなのです」(p262より)

それにしても「鬼姫さま」はすごかったなあ。
織里姫のSっぷりがすご過ぎです(^^;;
それも興国というM男くんがいればこそ。
なんだかんだ言って、ベストカップルかもw

<収録作品>
三粒の豆 / 鬼姫さま / 忘れの呪文 / 隻腕の鬼 / 小鬼と民 / 千年の罪 / 最後の鬼の芽

小林系さんのイラストも物語の雰囲気にぴったりで素敵だった。

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2012/08/06

大島真寿美/やがて目覚めない朝が来る

やがて目覚めない朝が来る

両親の離婚に伴い、母と一緒に父方の祖母・蕗さんと同居することになった10歳の有加。
かつて大女優だった蕗さんと彼女を取り巻く一風変わった大人たちに囲まれて大人になってゆく有加の姿を描いた物語。

静かで、柔らかくて美しい物語。
内容も良かったけど、特にタイトルが印象的。

物語には現状を否定から入るものと肯定(あるいは許容)から入るものとあると思うけど、この作品は後者。
自分の周りで起きるいろいろなものを拒むことなく、目をそらすことなくただひたすら見つけ続ける有加の眼差し。
感情的な物語よりも、こういう(表面的には)静かな物語のほうが好きだな。

ただ、子どもの頃の有加の記述が詳細で印象的なので、大人になってからの場面がちょっとイメージしずらい部分はあったかも。
それと、すべてのパートが同じ重みで描かれているので、ググッと引き込まれるという感覚は薄かった。

唯一気になったのが、多分フォントの問題だと思うけどクエスチョンマークの膨らみが薄くて、パッと見た時に「!」に見えること。
最後につくのが「?」と「!」ではその言葉が持っている強さも温度も違うから、違和感を覚えることが時々あった。

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2012/08/05

秋山香乃/夕凪 漢方医・有安

漢方医・有安 夕凪 (朝日文庫)

シリーズの4作目。

タイトルは「凪」だけど、物語の方は今まで膠着状態だった関係が少し変化し始めた。
有安の娘のお雪と同心の兵介との関係とか、司郎と兄の左郎太との関係とか。
それによって新たな場所に舞台を移す物語もあって、次回はかなり違った展開が期待できそう。

その変化の中で有安の人情味のこもった患者との関わりが身近な事件を解決していく展開はいつもどおり。
ページ数が少ないのでちょっとあっさりして結末に物足りなさもあったけど、人間関係の難しさを上手く表現していて面白かった。

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2012/08/03

安住洋子/日無坂

日無坂

老舗の薬種問屋の跡取り息子に生まれながら、父親と反りが合わずに悪行を重ねた挙句に借金を作り勘当された利一郎。
十年後、伊佐次と名を変えた利一郎は家を飛び出してから初めて道端で父親の姿を見かける。
翌日、伊佐次にもたらされたのは父親が大川で水死したとの知らせだった。

先日読んだ『春告げ坂』に出てきた伊佐次が養生所に来る前の話。
しっとりとした文章で丁寧に描き出されるすれ違う父と息子の物語が心に沁みる。

頭がよくしっかりものだけれどその分気が強く父や祖母に反発し家を飛び出し賭場で働く兄、口数が少なく大人しいけれど兄の代わりに店を継いだものの商売に身が入らない弟。
父親の死後、まったく違う立場で残された兄と弟がいがみ合うことなくお互いを思いやっていく設定になっているのが上品。

生きているうちは思い至らなかった父親の苦労や自分に対する思いに気持ちを寄せ、父親の死を深く悼む伊佐次の姿が胸をうつ。

ラストは盛り上がりにはちょっと欠けるけれど、残された兄弟がそれぞれの道を歩き始める希望のある結末で読後感もよかった。

この作家さんの作品はこれで2作目だけど、どちらもしっとりと落ち着いたきれいな文章でとてもよかった。
心理描写や性格設定も丁寧でわかりやすく読みやすい。
他の作品も読んでみよう。

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2012/08/02

万城目学/偉大なる、しゅららぼん

偉大なる、しゅららぼん

読み終わるまでに5日かかった。
550ページあるので確かに長い話ではあるんだけど、特に前半部分に苦労した。
つまらないわけじゃないけどどこに行こうとしているのか判らない描写が続くのでちょっと読むのが辛かった。

それに対して「こと」が起きてからの展開は、スピーディでハラハラして楽しめた。

語り手である涼介は正直あまり好きじゃなかったなあ。
あまりピントが合っていないキャラクターなので、なんだか読んでるとイライラして来る感じ。
逆に涼介から「変わってる」「ヤな奴」と思われている淡十郎や清子、棗のほうが感情移入しやすかった。

あとパタ子さんももっと重要な役割なのかと思ったらそうでもなくて、ちょっと肩透かしを食った感じ。

「こと」が起こる原因になったシーン、ちゃんと覚えていたのに、しかもそれが何だったのかもその時点で分かっていたのにそれが及ぼす影響にまで思い至らなかった自分が情けない(;_;)
でもその分ドキドキしながら楽しめたけどね。

終わり方もよかった。
タイトルの「しゅららぼん」の意味もずっと謎だったので、わかって嬉しい。

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