藤本ひとみ/幕末銃姫伝 京の風 会津の花
江戸末期、会津藩の上士の娘として生まれた八重は女ながら砲術を学ぶ変わり者だった。
戊辰戦争の会津・若松城籠城時には自ら銃を取って戦ったという山本八重の12歳から24歳までの前半生を描いた小説。
…なんだけど、八重のことより彼女に多大な影響を与えた17歳年上の兄・覚馬のことのほうがメインだったような印象。
確かにあの時代の実在の人物、しかも歴史の中に名前を刻まれているような人物の話を書こうと思ったら史実の描写は必要不可欠だとは思うけど、覚馬が会津にいるときはともかく、容保の警護のために京に上ってからは会津に残された八重とはまったく別の物語になっているのが残念だった。
また、八重自身の描写にしても一人で砲術の練習をしているか家族と一緒の場面が殆どで、周囲の人々とどのような関係だったのかが判らない。
この時代に銃器や大砲の使い方を学ぼうとする女性が異端だと思われただろうというのは想像に難くないし、それによって八重が悩み、苦しむシーンもあるんだけど、それらがすべて八重の内面的な問題だけになっていて直接的に周囲がどういう反応をしたのかが描かれていないので今ひとつ感情移入がしにくかった。
あと、エピソードのの結果を深追いせずすぐに次のシーンに行ってしまうため「あのあとどうなったの?!」と気になる場面も多かった。
それに、八重の周りには兄の覚馬を始め、大蔵、平馬、尚之介など有能で度量が広く八重のことも認めてくれる男たちはたくさん出てくるのに、同性の友人、知人が一人も出てこないところが不自然な気がした。
八重自身のエピソードももっぱら幼馴染の大蔵との秘めた想いみたいなところに集約されていたけど、もっと彼女らしさが感じられる話を読みたかったな。
終盤の若松城籠城以後はようやく八重が八重らしく動き出して面白かった。
特に藩主容保から声を掛けられるシーンは感動的だった。
ただ、ここもいろんな情報が飛び交いすぎて情景を想像しながら読むのはちょっと大変。
描かれていたのは八重を中心にした銃撃戦の様子だったけど、私は八重と一緒に籠城し戦った女たちの話をもっと読んでみたかったな。
ちなみに主人公の八重は来年の大河ドラマ『八重の桜』のヒロインでもある。
ドラマではどんな女性として描かれるのかな。
配役を見る限りでは会津での人間関係がかなり濃密に描かれるようなので興味深い。
またこの作品では籠城戦が終わったところまでしか描かれていないけど、八重の人生にはこの先も大きな転機や事件がたくさんあったらしいのでそれも楽しみ。
『誰もが生まれ落ちた瞬間から、死に向かって歩いているのだ。その道程が人生であり、行き着くところは死に決まっていた。納得できる歩き方をするなら、それが充分に生きたということなのだ。』(p313より)
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