« 2012年9月 | トップページ | 2012年11月 »

2012年10月の11件の記事

2012/10/31

西澤保彦/モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵

モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵 (実業之日本社文庫)

腕貫探偵シリーズの最新刊。
文庫書き下ろし。

面白かったっ!
最初のうちは登場人物がどんどん出てきてどんどん死んで(殺されて)いくので誰が誰やら…とちょっと戸惑ったけど、それが落ち着いてからの展開はハチャメチャですごく楽しめたw
まさかそんな結末とは!

読む前は「produced by腕貫探偵」って何?と思ったけど、読み終わったあとでもう一度タイトルを見たらなるほど全てはここに書いてあったのね、と気づいてニヤニヤしてしまった。
そういう意味だったのね。なるほど。

それにしても西澤さんは変なキャラクターを作るのが上手い。
今回は早藤教頭がすごく気持ち悪くて印象的。
他にも困ったキャラが目白押しで「気持ち悪い!」「うわ、ウザっ!」と思いながら読んだ。

まあ、正直ミステリーとしては「なんじゃそりゃ」な感じなので、展開を楽しめる人向きかと。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/29

太田忠司/金木犀の徴 探偵・藤森涼子の事件簿

金木犀の徴 探偵・藤森涼子の事件簿

女性ばかりの探偵事務所の所長を務める藤森涼子を主人公にしたミステリー。

長く続くシリーズものを急に最新刊から読んだけど短編のせいもあってか、複雑な背景はなく人物紹介も簡潔で物語にすんなり入って行けた。
派手さはないけど面白かった。

涼子自身も探偵事務所のメンバーもそれぞれ個性的で面白い。
他の作品は分からないけど、今作では殺人事件のような大きな犯罪には関わらずいかにも探偵事務所らしい浮気調査とか捜索人とかの仕事がメインになっているのもかえって新鮮だった。

太田さんの文章はすごくスッキリしていて読みやすい。
でもその分、登場人物が困ったり迷ったりしていても読んでいる方にはそれが上手く伝わってこなくて、すごくスムーズに仕事をしているように思えるときがある。
読みやすいのでこちらとしてはありがたいけど、作家さんサイドとしてはどうなのかな。

<収録作品>
石楠花(しゃくなげ)の詞(ことば) / 金木犀(きんもくせい)の徴(しるし) / 夾竹桃(きょうちくとう)の焔(ほのお)

全編花の名前になっているところも女性が主人公の物語らしくて素敵。
ただ、表題作の「金木犀」の使い方はちょっとあんまりではないかと…(T_T)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/28

東野圭吾/禁断の魔術 ガリレオ8

禁断の魔術 ガリレオ8

ガリレオシリーズの最新作。
短編3本と中編が1本の計4本を収録。

相変わらずテンポがよくて読みやすい。
短編は全部何が起こったかを最後に説明するパターンで、中編は何が使われるかは分かった上でそれをどうするかが焦点になるバターン。
私はこのシリーズに関しては前者のが好きだな。
後者も悪くはないけど、どうしても結末までのパターンが似た感じになってしまう気がするので。

というか、湯川が対象に思い入れがありすぎる話があまり好きじゃないのかも…。
私にとっては湯川はあくまでも偏屈な物理バカでいて欲しいのかもしれない。
もちろんその奥には普通の人間以上に相手を思いやる気持ちを持っていてもいいんだけど、それを物語の中にそのまま反映してほしくないというか、そんな感じ。
まあ、確かにあんなセリフを湯川に言わせちゃうことを思いつくことが凄いとは思うんだけどね。

小説では湯川の相棒はあくまでも草薙なのがいい。
なんか、落ち着く。
でもだからといって、内海も決して邪魔にされているわけではなく、きちんと彼女に相応しい立ち位置で活躍しているのが好ましい。

<収録作品>
透視す(みとおす) / 曲球る(まがる) / 念波る(おくる) / 猛射つ(うつ)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/26

七河 迦南/アルバトロスは羽ばたかない

アルバトロスは羽ばたかない

海沿いの小さな町にある児童養護施設「七海学園」を舞台にしたミステリー。

冒頭に提示される大きな謎をその後に展開される小さな4つの謎をヒントにして解いていく構成。
緻密な展開、そして巧みな伏線とミスリードで最後は「なるほど、そういうことだったのか」という驚きが待っている。

ただ、(物語のテーマのせいもあるけど)あまりにも緻密すぎて閉塞感が強く、途中で息苦しくなる部分もあった。

それと、登場人物が多すぎ。
書き分けは丁寧で巧みだと思うけど、やっぱりこの人数を覚えるのは大変。
もちろん重要な役割を持っているのはその中の一部だけど、登場した段階ではそうかどうかは判らないので物語との関わりや役割を考えながら覚えていくのが大変だった。

それから最後はちょっと独白に頼りすぎでは。

この作品では児童養護施設について丁寧に書き込まれている。
私自身はこういった施設について知識がないにも関わらず勝手な想像であまりいいイメージを持っていなかったけれど、ここに登場する施設では非常にきめ細やかな温かい対応がされていてちょっと意外に思った。
多くの子どもたちを預かり精神的にも肉体的にも健康であることを保持していくことを職業にするのは大変なことだろうと思う。
実の親や身近な大人による子どもへの虐待が多く報道される昨今、こういった施設の重要性は高まってくると思う。
「自分に関係ないから」と無視するのではなく、子どもを育てるための一つの方法として社会全体できちんと評価し、見守っていかなくてはいけないと感じた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/23

岡崎琢磨/珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を

珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

京都の街なかの隠れ家のような場所にひっそりと佇む喫茶店「タレーラン」を舞台にしたミステリー。

前半は軽めの日常の謎系ミステリーだったのに、後半は一転してシリアス展開。
伏線が分かりやすいので先読み出来ちゃう部分もあったけど、丁寧な心理描写付きで何度もひっくり返って行くラストは好感が持てた。
軽いタッチで登場人物の人となりを紹介したあとシリアスに入って行く構成はうまいと思ったし、文章もテンポが良くて読みやすかった。

でも、何故かずーっと違和感があって入り込めなかった。
一番気になったのは登場人物の年齢設定。
主人公(視点)の青年・アオヤマが22歳、ヒロインである「タレーラン」のバリスタ・美星は23歳って設定なんだけど、物語の内容から言っても人物像から言ってもこの年齢は若すぎるような気がしてならない。
あと3~5歳くらいプラスしてもいい、というかしたほうが設定としてしっくりくるような気がするんだけど。
他にも登場人物の言動や設定がストーリーに合っていないと感じるところがポツポツ出てきて、そのたびに物語から気持ちが離れてしまう瞬間があった。
たとえば途中で同じ表現(具体的には「んぐぁ、と喉の奥で変な音がなる」という部分)が何度も出てくるのはしつこいなあと思ったし、だいたいいくらそんなつもりではなく自分の連絡先を置いてきたとはいえ、初めて入った店で自分が飲んだコーヒー代を払わないまま1週間も放っておくのは非常識でしょ。
ただ、逆に言うと、そういった違和感を感じながらでも面白いと思わせられる力はあった。

どちらかというと後半のシリアスパートのほうがスムーズな感じがしたのでもしかしたら本来はそういう作風の人なのかな。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/19

萩耿介/炎帝 花山

炎帝 花山

第六十五代天皇・花山の生涯を描いた作品。

冷泉天皇の第一皇子として生まれ17歳で帝の位に就いたものの対立する藤原氏の謀によって若き身で出家し僧形となった花山の生き様が息苦しいほど丁寧に描かれている。
行動も考え方も極端でまったく共感は出来ないけど、「自分」を見つけるために苦しみ彷徨い続けた苛烈な生き方が胸に迫る。

自分にも人にも過激な花山が、「物狂い」と呼ばれ恐れられ嘲笑された父帝にだけは終生優しかったのが印象的。
特に冷泉の屋敷が火事になったときに自分の身も顧みず必死で父を探す姿、その後無事で見つかった父の隣で焼けた屋敷を見ながら一緒に笑っていたシーンがよかった。

花山の苦しみや悩みは命を賭さなくてはならないほど重く、深いものであったけれど、それはやはり「持っている者」ゆえの悩みだったような気もする。
「すべて捨てた」とか言いながら結局誰かに食べさせて貰ってるからダメなんじゃないの?
自分で働かなくちゃ食べられなくなったらそんなこと考える暇はなくなると思うんだけどな。
まあ、でもそう生まれついてしまったことが花山の宿命であったということなのかも。

花山と対比する存在として出てくる厳久が、いいヤツなんだか悪いヤツなんだかよく判らなくて気持ち悪いところも巧い。
厳久は花山と対立していた(というか朝廷を思い通りに操ろうとしていた)藤原兼家の意を受けた形で迷っている花山にさり気なく近づき、出家の意志を固めるように唆し遂には帝位を捨てさせる役割を果たす存在。
栄達のために「言葉」の力で権力者に近づきながら、それを利用しつくすことも出来ず、また自分が導いた花山がその圧倒的な行動力によって自分が成し得ない高みに昇りつめていくのを悔しさとあこがれをもって見つめ続けている厳久が、最後は文字通りすべてを捨てて一人で仏の元に旅立って行く姿が印象的だった。

同時代の(のちの)紫式部と花山が出会い、言葉を交わす場面があるもの面白かった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/15

佐藤賢一/女信長

女信長

タイトルどおり「信長は実は女だった」という話。

信長の戦いの史実や事跡はそのままにそれを成した本人の性別を入れ替え、その周囲の人間関係、思惑をそれに合わせて構成してあるので、知ってる話と知らない話が交互に出てきて面白かった。

浅井長政をめぐるくだりとかなかなか興味深かったw

ただ、主人公の信長(御長/おちょう)はかなり強烈で印象的ではあるけど、魅力的かと言われたらちょっと困るかな。
男であることを望まれ、それを受け入れて生き、男以上の結果を出していったという果敢さは素晴らしいけど、自分以外はすべて愚か者だとして人を人とも思わない振る舞いはある程度までは魅力になる場合もあるけどそれを超えると嫌悪感しか持てなくなる。
特に最後のほうはヒステリー気質のDVオバサンになってたし…(汗)
(光秀に対する仕打ちはヒドすぎ)

主題が性(ジェンダー)的な意味を含むから仕方ないんだろうけど、それにしてもちょっと「男」と「女」を意識しすぎという感じもあった。

最後、本能寺から秀吉支配の期間は飛ばして一気に家康が大御所になってる時代になって思い出話で終わっている構成は好き。

この年末にこの作品を原作としたドラマが放映される予定。
フジテレビ「女信長」
主演の信長/御長は天海祐希。
天海さんのことだからきっとカッコいい信長と、ヤーな感じの御長を演じきってくれることでしょう。楽しみ♪
ただ、信長の正室・お濃が小雪というのがちょっと納得出来ないんだなあ。
この作品でのお濃はちょっと天然で可愛げがあって、でもバカじゃないって設定だから。
むしろお市を演じる長澤まさみがお濃のほうがいいし、信長の初恋の相手で愛人である浅井長政に姉の形代として嫁ぐことになるそっくりの妹に小雪のほうがあっているような気がするんだけど。
でも、合ってないといったら羽柴秀吉役の伊勢谷友介には負けるかw
全然「サル」じゃないじゃんっ!
そのあたりも含めて楽しみである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/10

井川香四郎/男ッ晴れ 樽屋三四郎言上帳

男ッ晴れ―樽屋三四郎言上帳 (文春文庫)

父親の跡をついで江戸に3人しかいない「町年寄」の役に就いた三四郎が、悪徳商人や権力に立ち向かい江戸の庶民の幸せを守る話。
連作時代小説。

町年寄とは家康に仕えた3人の武士が家康の江戸入りの際に町を束ねる役目を与えられ町人になったのを由来とし、代々受け継がれる役職。
町人ながら将軍に謁見できて、帯刀も許されている「特権町人」である。
その町年寄の名跡を父親の急死によってついだばかりの23歳の若者が主人公。
設定は面白いし短編だから読みやすいんだけど、イマイチ物語に入って行けなかった。

主人公の三四郎はともかく、それ以外の登場人物の役割や関係が今ひとつ明確じゃない感じ。
特に町年寄としての樽屋(三四郎の家)に代々伝わる「百眼」はもっと効果的な使い方があると思うんだけどな。

個人的な好みとしては、主人公がいくら無鉄砲で型破りなことをしても、表面的には渋い顔をしてお小言を言うけど心の奥では何があってもきちんと信頼して味方になってくれる存在が欲しいところ。
樽屋の番頭の吉兵衛がそういう存在だったらもっと安心して読めたんだけど。

あと、パッと見は明るそうな話なのに、読んでいくと何となく全体が暗い雰囲気なのが気になった。
起きる事件や登場人物の関わり方が剣呑すぎるんだよね。
もうちょっと軽めで最後は笑って終われるような話がよかったな。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/06

梶村啓二/野いばら

野いばら

酒造メーカーのバイオ部門で海外の種苗会社の買収交渉を担当する縣(あがた)は、出張の途中で立ち寄ったイギリスの片田舎で150年前に書かれた手記を受け取る。
そこには幕末の混乱期に江戸に赴任した英国の海軍将校と日本人女性の出会いと別れの物語が書かれていた-。

文章が美しい。
特に幕末を舞台にしたエヴァンスと由紀の儚く静かな物語に引き込まれた。
滅びの予感をはらみ、緊張の度合いを増していく幕末の混乱の中で運命的に出会った有能な英国将校と美しく聡明な日本人女性。
お互いに相容れない「役目」を持ち、「破滅に向かうしかない」と理解していながらも断ち切ることが出来ない想いが見事に描かれていた。

その一方で懸を主人公にした現代のパートと幕末パートとの関連性が今ひとつ曖昧で、その融合があまり上手く行っていないのが残念。
縣がイギリスの片田舎で庭の管理をしながら静かな生活を送るパトリシアと偶然出会い、その庭を作ったエヴァンスが書いた手記を渡されるという導入部の設定は印象的だけど、それがただ「縣に手記を渡す」以上の働きしかしていないのが物足りない。
パトリシアは何故手記を見ず知らずの異国人である縣に渡したのか、それによって何が知りたかったのかをもっと明確に書いて欲しかった。

空港でのエピソードも悪くはないしラストもそつなく終わってはいるんだけど、静かだけれど強烈な印象を残した幕末パートに比べると味気なかった。
なんだか現代のパートは全体的に空虚な感じがしてしまう。
150年前の話なのに人間や自然の細かい描写まで丁寧に描かれ気持ちが伝わってきた幕末パートのリアリティに比べて、現代のパートはふわふわしていて掴みどころがない。

いっそ別々の物語として書くか、現代パートはないほうが良かったのでは…とまで思ってしまう。
非常によく出来た作品だと思うだけに、とても残念。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/04

池永陽/占い屋重四郎 江戸手控え

占い屋重四郎江戸手控え

無くし物の行方や人の未来を見ることができる「天眼通」での占いで糊口を凌ぐ浪人・重四郎を主人公にした時代小説。

短編集なので読みやすいかと思ったのになかなかベージが進まずに4日も掛かってしまった。
重四郎のキャラクターや物語の導入部はわりと軽快で明るい感じなのでこのまま「のほほん」とした人情話になっていくのかなと思いきや、話が進むにつれてだんだん暗く、重く、剣呑な雰囲気になって行くので読みにくかった。
それでも物語の雰囲気が一貫していればいいんだけど、どうもいろんな部分がアンバランスだった感じ。

しかも、最初の2編以外は主人公の重四郎と剣友の左内以外の名前のついた登場人物は殆ど死んで(殺されて)しまうとかどうなのよ、と。
途中の経過はともかく、ラストくらいもう少し温かみや救いのある物語であって欲しかった。
後味が悪すぎる。
続編があるみたいだけど、もういいや。

<収録作品>
天眼通の悩み / 可愛い居候 / 老剣客の恋 / 夜鷹の宝物 / 一文字斬り / 汚れた十手 / 闇の三兄弟

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012/10/01

天野頌子/警視庁幽霊係 少女漫画家が猫を飼う理由

少女漫画家が猫を飼う理由 警視庁幽霊係 (祥伝社文庫)

事件、事故で死んだ人間の幽霊が見えるという体質を買われて警視庁の特殊捜査室で幽霊の取り調べを担当する刑事・柏木が主人公のミステリー。

まあまあかな。
話(事件)自体は面白いし謎解きも結末もちゃんとしてるんだけど、柏木の小心者アピール部分は読むのが面倒くさかった。
そんなに胃が悪いなら都度薬屋を探さずに、胃薬持って歩くくらいの危機管理はしようよ。
いくら刑事だってたまに薬屋に行って薬買いだめるくらいの時間はあるだろ。
(昼間は寝てるみたいだし)

あと、何の前置きもなくいろんな人が次々出てくるからもしやと思ったら、やっぱりシリーズの2作目(じゃなくて3作目らしい(^.^;)だった。
そういうのは裏表紙のあらすじにちゃんと書いておいて欲しい。
そうしたら1冊めから読んだのに。
(というほど難しい設定ではなかったけどねw)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年9月 | トップページ | 2012年11月 »