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2012/10/06

梶村啓二/野いばら

野いばら

酒造メーカーのバイオ部門で海外の種苗会社の買収交渉を担当する縣(あがた)は、出張の途中で立ち寄ったイギリスの片田舎で150年前に書かれた手記を受け取る。
そこには幕末の混乱期に江戸に赴任した英国の海軍将校と日本人女性の出会いと別れの物語が書かれていた-。

文章が美しい。
特に幕末を舞台にしたエヴァンスと由紀の儚く静かな物語に引き込まれた。
滅びの予感をはらみ、緊張の度合いを増していく幕末の混乱の中で運命的に出会った有能な英国将校と美しく聡明な日本人女性。
お互いに相容れない「役目」を持ち、「破滅に向かうしかない」と理解していながらも断ち切ることが出来ない想いが見事に描かれていた。

その一方で懸を主人公にした現代のパートと幕末パートとの関連性が今ひとつ曖昧で、その融合があまり上手く行っていないのが残念。
縣がイギリスの片田舎で庭の管理をしながら静かな生活を送るパトリシアと偶然出会い、その庭を作ったエヴァンスが書いた手記を渡されるという導入部の設定は印象的だけど、それがただ「縣に手記を渡す」以上の働きしかしていないのが物足りない。
パトリシアは何故手記を見ず知らずの異国人である縣に渡したのか、それによって何が知りたかったのかをもっと明確に書いて欲しかった。

空港でのエピソードも悪くはないしラストもそつなく終わってはいるんだけど、静かだけれど強烈な印象を残した幕末パートに比べると味気なかった。
なんだか現代のパートは全体的に空虚な感じがしてしまう。
150年前の話なのに人間や自然の細かい描写まで丁寧に描かれ気持ちが伝わってきた幕末パートのリアリティに比べて、現代のパートはふわふわしていて掴みどころがない。

いっそ別々の物語として書くか、現代パートはないほうが良かったのでは…とまで思ってしまう。
非常によく出来た作品だと思うだけに、とても残念。

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