小杉健治/質屋藤十郎隠御用
身分を隠し浅草で質屋・万屋を営む藤十郎を主人公にした時代小説。
万屋に持ち込まれた訳ありの女物の煙草入れをめぐる騒動と、貧乏長屋に住む職人たちがお互いを犠牲にして助けあう姿が描かれている。
話自体は面白かった。
特に長屋の人々が貧しいながらも誇りを持ち、受けた恩を返すために命を張って生きていく姿、お互いを気遣い相手の幸せのために自分の望みは我慢しようとする様子が生き生きと描かれ読み応えがあった。
ただ、もう一方で進行していくある大名家のお家騒動に端を発する事件のほうは今ひとつピンとこなかった。
最近、この手の時代小説で侍と町人が一緒に出てくる話はたいてい町人パートのほうに軍配が挙がる感じ。
町人メインだと丁寧で気持ちがするっと入っていく気持ちよさがあるけど、侍メインの話はすぐ斬り合いになっちゃって血なまぐさいばっかりで気持ちが見えないことが多いんだよねえ。
更に、主人公の藤十郎の人となりについての描写が少なく、どんな人物なのか読者にさえもよく判らないまま話が進んでいくので、共感したり思い入れを持ったり出来なかったのが残念。
肝も据わってるし、腕も立つらしいので全然危なげないのはいいんだけど、隙がなさすぎだし何考えてるのか判らないから応援し甲斐がない。
最後に藤十郎が活躍して解決しても盛り上がれなかった。
もっと人間っぽい表現が欲しかったなあ。
設定としては面白いと思うのにそれが生かされていないように感じた。
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