中島要/しのぶ梅
着物の染み抜き、洗いや染めなど普通はそれぞれ専門の職人がやる仕事を一人でこなし、しかも見事な腕前を持つ「着物の始末屋」余一を描いた短篇集。
着物の始末と一緒に持ち込まれる人間関係のもつれを、無愛想でまともに人と関わろうとしない余一がするりとほどいていく様子がよかった。
短編4編の登場人物がそれぞれ少しずつリンクしている構成。綾太郎とお玉が結婚したあとの話とか、お糸の恋の行方とか今後が気になる話も多かったので続きが読みたいな。
余一がどんな方法で着物を蘇らせるのかという技術的なことは書かれていなかったのがちょっと残念。
「きものは着るからきものなんだ。着なきゃただの布きれじゃねえか。金に飽かせて何枚もきものを誂えた挙句、ろくすっぽ袖も通さねぇもんの染みを落として何になる。そんなもんより、洗い張りや染め直しをして着続けられたきもののほうが、はるかに値打ちがあるってもんだ」(p53より)
「ただしまっておいたって、女もきものも値打ちが下がる一方だ。せっかくこの世に生まれたからには、陽の目を見せてやらねぇと。ちょっとくらい傷がついても、どうってこたぁありやせん。いくらでも姿を変え、形を変え、生き直せるもんなんでさ」(p68より)
<収録作品>
めぐり咲き / 散り松葉 / しのぶ梅 / 誰が袖
4作の中では表題作の「しのぶ梅」が全体の構成、話の展開、結末すべてバランスよくまとまっていてとてもよかった。
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