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2012/12/26

大崎梢/クローバー・レイン

クローバー・レイン (一般書)

大手出版社に勤める主人公が自分が気に入った作品を本の形にするために奔走する話。

…と書くと、熱血お仕事小説みたいな感じだけどそれだけではない。
確かにそういう側面もあるけれど、そうやって真摯に本造りに向き合う主人公を中心に、本とそれを取り巻く人々を丁寧に描いて深く静かな余韻を残す素敵な作品だった。

正直、時々登場人物の心情や人間関係の行方が分からなくて「?」となってしまう部分もあったけど(特に彰彦と良嗣と尚樹の関係)、それ以上に自分の気持ちを理解してもらおうと努力する主人公とその言動を認めて手を差し伸べる周囲の人々の反応が丁寧に積み重ねられて行く部分が印象的で気持よく読み進められた。

いつもの大崎さんの作品よりもトーンがちょっと低くて、ちょっとだけ遠くから物語を見つめているような印象。
それが作中に出てくる本の印象と相まって作品に柔らかな深みを与えていたと思う。

エンディングも見事。私の心にも温かい雨が降るような読後感だった。

もしもあの原稿を初めて読んだのが編集長だったら、どうしていただろう。
(中略)
案外、社内の誰にも言わず、他社の編集者に原稿を渡していたかもしれない。
そして書店に並んだ本を眺め、そっと手を伸ばすのだ。ひどく、らしい気がした。 (p30)

一冊はいつかきっと百冊になる。千冊にも一万冊にもなる。本は特殊な商品です。数年後の誰かのために、その人を感動させるために、今、種を蒔いたり水をかけたりする。そんなことがほんとうにありえる世界だと、これは他社の営業マンに教えられました。(p201)

分け隔てなく平等で無難な愛なんかじゃ、人は動きません。相手の本気が伝わったときだけ、顔を上げ耳を傾けてくれる。視線を向けてくれる。ここぞと言うときの『ここ』くらい、我が儘で無謀でなきゃ嘘ですって。その分、引き替えに背負うものもちゃんとありますし。(p258)

主人公の彰彦よりも営業の王子のセリフのが印象に残るものが多かったな。

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