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2013年1月の15件の記事

2013/01/31

三谷幸喜/清須会議

清須会議

本能寺で信長が明智光秀の謀反によって非業の死を遂げた。
その直後、織田家の次の当主を誰にするかを決めるための会議が清須城にて行われることになる。
あくまでも織田家の家臣として主家を盛り立てていこうとする柴田勝家と、取り立ててくれた信長に恩義は感じるもののこの機に乗じて更に高い位置を目指そうとする羽柴秀吉の5日間の攻防を描いた物語。

もっと読みやすいかと思ったら、そうでもなかった。
もちろん普通の歴史小説に比べたら全然とっつきやすいけど、もっとツルツル読めてガハガハ笑えるのかと思っていたので。
ちょっとハードル上げ過ぎかしら^^;
合戦ではなく頭脳戦の話なので、イマイチ盛り上がりに欠けるのは仕方ないのかな。

ただ、当時の言葉ではなく「現代語訳」で描かれる人物の心理を中心にした描写は非常に分かりやすかった。
あの局面でどんな人物がどんな思惑でどんな動きをしていたのかを理解するにはいいテキストだったと思う。

この作品はもしかしたら映画を見てから読んだ方がよかったかも。
実際にその当時の格好をした役者によって、あの文章がセリフとなり動きや表情がつくとまた別のものが見えてくるような気がする。
映画は今年の秋公開らしいので見終わったらまた読みなおしてみよう。

登場人物ではメインの人たちよりも、事務方として会議運営を粛々と進める前田玄以がけっこう好きだったな。
あと「きゅーきゅー」も(ちょっとしか出てこないけど)なんか好き(笑)

映画「清須会議」公式サイト

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2013/01/29

池永陽/珈琲屋の人々

珈琲屋の人々

生家のある商店街の土地を買い取るために悪どいことを繰り返していた地上げ屋の男を殺してしまった過去を持つ行介。
8年の刑期を終え出所した後、地元に戻り父親の跡を継いでマスターを務める「珈琲屋」での客と行介との交流を描く連作短編集。

う~ん、なんていうか「昭和」な雰囲気の作品だった。
よく言えばノスタルジック、悪く言えば古臭い。
だいたい主人公の行介の話し方とか、考え方からしておっさん臭すぎる。
同級生だという冬子も島木も含め30代後半には見えないなあ。
せいぜい50代前半って感じ。
あと「心を忘れた少女」に出てきた女子高生もなんとなく今時の女子高生って感じではなかったし。
かと思うと「すきま風」に出てきたじいさんたちはまるで中学生みたいだし。
なんとなく設定の焦点が合っていない感じがして、読んでいて居心地が悪かった。

それに、登場人物がほとんどみんな自分勝手すぎる。
なんでみんな自分の都合だけで行介に戦いを挑みに来るの?
そして何故行介はそれを受けるのかも謎。
最後の話では「あんたは柔道でインターハイに行ったんだから俺は道具を使う」って匕首を出してくるってあり得ないでしょ(^^;
しかも、そうは言いつつも最後は収まるところに収まってまるく終わるのかと思いきや、あんな結末…。
まあ、確かに「人生は続く」というエンディングではあったけども、納得は出来なかった。

<収録作品>
初恋 / シャツのぬくもり / 心を忘れた少女 / すきま風 / 九年目のけじめ / 手切金 / 再恋

イラストレーター中川学さんによる表紙イラストは味わいがあって素敵。

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2013/01/28

万城目学、門井慶喜/ぼくらの近代建築デラックス!

ぼくらの近代建築デラックス!

2人の人気作家が大阪、京都、神戸、横浜、東京の近代建築を訪ね歩いてその魅力を語り合うという企画本。

楽しかった♪
私自身はそんなに建築に興味があるわけではないけど、語り手のお二人がすごく熱心で楽しそうなので一緒に散歩している気分で楽しめた。

なんといっても門井さんの博覧強記っぷりに驚く。
目の前の建築物の成り立ちから設計した人物、当時の歴史やトリビア的なエピソードまで次々に披露される知識の幅広いこと!
そして万城目さんはそれを受けて素直に反応しているところがバランスよくて好印象。

そんな万城目さんも京都の回では毒舌が光っていた。 
特に締めの「すべてが負け、ただ京都という町だけが勝つ」というセリフが印象的。
いろいろ複雑な想いがあるようで(笑)

「建物を見に行こう」と思って出かけることはあまりなかったけど、こうして見ると素敵な、面白い建築物ってたくさんあるのね。
今回出てきた中で印象に残ったのは
大阪:市立中央公会堂、綿業会館
京都:進々堂(内部の写真も見たかった)、さらさ西陣
神戸:兵庫県公館、大丸神戸店(回廊の写真が素敵だった♪)
横浜:共立学園本校舎、開港記念会館、県立歴史博物館
東京:築地本願寺、旧前田公爵邸
あたり。
関西まで足を運ぶのはなかなか大変だけど、せめて東京、横浜にあるものだけでも見に行ってみよう。

それぞれの建物のカラー写真、地図、索引付き。
あとがきではガイドブックの紹介も。

それから日比谷公園を紹介した回に「明治神宮の森は人工」って書いてあって驚いた。
あの、広大で鬱蒼とした森が自然ではなく人の手で設計され、植林された結果だなんてすごいなあ。
「百年後に自然の森に見えるように設計した」らしい。
成功してます!
ここも最近行っていないので、暖かくなったら散歩に行ってみよう。

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2013/01/25

原宏一/佳代のキッチン

佳代のキッチン

15年前に中学生だった自分と5歳下の弟を置いて失踪した両親を探すためにワゴン車で調理屋をしながら全国を旅する佳代を主人公にした連作短編集。

話としては面白かった。
移動調理屋(材料はお客の持ち込みで、それを希望に合わせて調理する)という佳代の設定も斬新で興味深い。
何より佳代の作る料理の美味しそうなこと!
スシテンとか魚介めしとか食べてみたい!
また、両親を探しに行く先々での佳代と土地の人々とのやりとりも温かく気持ちよく読めた。

ただ、その佳代の旅の目的である「両親探し」についてはどうも納得が出来ない。
いくら自分たちの理想を追いかけるためとはいえ、中学生と小学生の子どもを残していきなりいなくなりそのまま帰ってこない親なんてあり得ない。
しかもそのあたりを美談風に結論付けてるところが不快だった。
2人に出会い話を聞いた人たちも2人の話に納得せずに「間違ってる」って言ってやって欲しかった。
「まず子どもを迎えに行け」と。
だいたい、こういう場合って旅に出るにしたって子どもを連れて行くでしょ。
もちろんそれだって子どもには負担だろうけど、何も聞かされずに置いていかれてしまうよりずっとマシ。
なのに何故一緒に連れて行かずに置いていかれてしまったのかについて触れてられていなかったのも不満。
何故佳代の両親をこの設定にしたのかが理解できないなあ。
佳代が移動調理屋をやるきっかけや目的はもっと他のことでもよかったと思う。
せめて両親は既に死んでいてその足跡を辿るとか、どこかにいるお世話になった人に会いに行くとかいう展開のほうがよかったな。

あと、現実的に考えたら佳代の仕事だってかなり怪しいよね。
だって車で寝泊まりしてるってことは住所不定ってことでしょ。
その状態で飲食店経営の許可って降りるの?
調理するなら保健所の許可も必要だろうけど、移動するたびにそれを取っていたとも思えないし、税金もどう処理しているか不思議。
だいたい、車に一人で寝泊まりしてる女が道端であんな不思議な商売を始めて、土地の人がすんなり受け入れるとも思えないし。

この間読んだ『ヤッさん』同様、これも基本設定はファンタジーということなのかな。
でも基本的な部分は「あり得ない」なのに、その中の物語はリアリティがある、どっしりした話に思えてしまうのが不思議。
現実にはいないけど、でもこんな人がいたらいいよねって感じの話。
ある意味、物語として正しい形なのかも。
他の作品も読んでみよう。

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2013/01/24

e-NOVELS編/黄昏ホテル

黄昏ホテル

「黄昏ホテル」と通称される、うらぶれたホテルを共通の舞台にした20人の作家による短編アンソロジー。

タイトルのイメージからもっと幻想的な作品集かと思ったけど特に書き方の指定はないようでいろんなジャンルの小説が入っていた。
出来上がりもピンきりという感じ。

面白かったのは近藤史恵、田中哲弥、加納朋子、我孫子武丸、皆川博子各氏の作品。
特に加納さんの「セイムタイム・ネクストイヤー」の叙情性と、皆川さんの「陽はまた昇る」の神秘的な感じがとてもよかった。
この2つが「黄昏ホテル」と聞いて私がイメージする物語に一番近かったのだと思う。

それにしてもホテルで拳銃を撃つという描写が多かったのは何故かしら。

<収録作品>
篠田真由美:暗い日曜日 / 早見裕司:アズ・タイム・ゴーズ・バイ / 朝暮三文:インヴィテイション / 森奈津子:カンヅメ / 近藤史恵:夜の誘惑 / 小森健太朗:黄昏色の幻影 / 笠井潔:神輿と黄金のパイン / 田中哲弥:タイヤキ / 久美沙織:HOME AND AWAY / 雅孝司:一つだけのイアリング / 二階堂黎人:素人カースケの赤毛連盟 / 野崎六助:鏡の中へ / 加納朋子:セイムタイム・ネクストイヤー / 太田忠司:名前を変える魔法 / 黒田研二:あなたがほしい / 山田正紀:トワイライト・ジャズ・バンド / 牧野修:悪い客 / 我孫子武丸:オールド・ボーイ / 田中啓文:ふたつのホテル / 皆川博子:陽はまた昇る

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2013/01/20

新春浅草歌舞伎@浅草公会堂

1月19日 土曜日、浅草に新春浅草歌舞伎を見に行ってきた。

開演は午後3時からだったけど、友人が会社の福利厚生を通してランチクーポン付きのチケットを取ってくれたので、11時に待ち合わせしてランチとちょっとだけ周辺をぶらぶらしてから会場に向かうことに。

ランチは20店くらいのお店から選択できるシステム。
同行の友人の希望で洋食屋の「ヨシカミ」さんへ。
行列が出来るほどの人気店と聞いていたけど、実際11時半ちょっと前にお店についた時には既に10人以上の人が並んでいた。(開店は11時45分)
カウンターが15席くらいと、テーブルが4つくらいのこじんまりしたお店が開店と同時に満員。
ホールから上がってくる注文を7~8人の厨房スタッフが手際よく次々に仕上げていく姿が印象的だった。
ランチクーポンは出てくる料理が決まっていて、私達がいただいたのはサラダとコンスープ、ナポリタンさらにお店の名物料理でもあるビーフシチュー。
先にナポリタンが出てきたので「やっぱりクーポンだとこのくらいなのかな」とちょっと残念に思っていたら後からビーフシチューも出てきたのでビックリ。
浅草・ヨシカミのビーフシチューシチューはお肉が柔らかくて美味しかった~♪
ナポリタンもちょっと甘目の懐かしい味だった(^^)
多分シチューは通常よりも小さいサイズだと思うけど、ナポリタンもあるので量はかなりたっぷり目。
充分頂いた後、食後にはコーヒーまでついて大満足だった。
オムライスも美味しそうだったので、今度また食べに来たいな。

食事が終わったのがちょうど1時。
開演まで2時間あるので、この時間を利用して東京スカイツリー下の「ソラマチ」まで行ってみることに。
この日はお天気がよくて風もなく暖かい休日で浅草も歩くのが大変なくらい多くの観光客が出ていたけど、ソラマチも同じくらいの賑わいだった。
今までいろんな場所からスカイツリーは見てきたけど、こんなに近くまで来たのは初めて。
スカイツリー真っ青な空を背景にスックと立つスカイツリーが綺麗だった。
展望台に昇るには予約券が必要で、私達が行った1時半の時点では当日の3時半の予約券が販売中。
晴れ渡って雲も風もなくてちょうどいい天気だったけど、この後の予定があるため残念ながら今回は下から眺めるだけで、あとは「ソラマチ」の散策に。
飲食店や雑貨屋さん、洋服店など多くのお店が入っていてどこも賑わっていた。
特に飲食店は(時間的なものもあるかもしれないけど)行列ができているところが多かったな。
ニュースで「スカイツリーが出来ても、地元の商店街には人が来ていない」というのを読んだけど、すぐ足元にこれだけのお店が入っていたらなかなかその先には出て行かないのも無理はないかも。
ただ、お店の中身がスカイツリーや下町として特徴的なものもある反面、ちょっと大きな街ならどこにでもありそうなお店も多かったのも事実。
どこにでもあるお店を入れるならもう少し地元との共存を考えるべきだったのでは。
でも個人的には水族館とプラネタリウムが気になるな~。
次に行く時には寄ってみたい。

2時過ぎにスカイツリーを後にして再度浅草に。
浅草公会堂に向かい、3時からの午後の部を鑑賞。
演目は「毛谷村」「口上」「勧進帳」。

「毛谷村」は仇討ち話の一場面。
全体の設定は結構シリアスみたいだけど、この場面はコミカルで楽しかった。
お園が主人公の六助に身の上を打ち明けるあたりの三味線の使い方が特徴的で面白かった。
この演目での海老蔵は杣斧右衛門という役。
事前にちらっとだけ見ていったあらすじではあまり記憶になかった名前なので「誰だっけ?」と思ったら、最後のほうに「母親を殺された」と六助に助けを求めに来る木こりだった。
ぶっとい眉毛を付けて顔を真っ黒にした田舎者スタイルで登場する海老蔵に笑いが起きていた。
弥三松役の子が可愛かった(^^)

次は浅草歌舞伎は14年ぶりの登場となる海老蔵の「口上」。
市川家代々の新春の年中行事である「睨み」を披露してくれた。
(これを見ると今年1年無病息災でいられるとかw)

最後の「勧進帳」は力強く、迫力があった。
緊迫感のある前半と、一転リラックスした後半の緩急がいい。
武蔵坊弁慶役の海老蔵は睨みとか見えとかの型はカッコいいなあと思うけど、どうも声の出し方があまり好きじゃなかった。
「口上」のときもちょっと早口で聞き取りづらいなあと思ったけど、弁慶のセリフも(そんなに早く喋ってないのに)声がこもって綺麗に響いて来ない感じ。
滑舌の問題なのかしら?

それにしても歌舞伎は面白いけど、更に楽しむにはやっぱり予習が必須だなと思った(^^;
今回も見る前にネットでチラッとあらすじだけ読んでいったけど、全体的な時代背景とか人間関係とかがもう少し分かればもっと楽しめただろうな。

今年は歌舞伎座も出来上がることだし、あと何回か歌舞伎を見に行きたいな。
(ちとお高いし、チケット取るの大変そうだけど(^^;)

浅草公会堂にて 1月27日(日)まで
浅草新春歌舞伎

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2013/01/19

初野晴/空想オルガン

空想オルガン

ハルチカシリーズの3作目、らしい。

シリーズ物の3作目だと知ったのは借りてきてから。
「最初から読んだほうがいいかな?」と迷いつつ読んでみたけど途中から読んだせいなのかどうかイマイチ物語に馴染めないうちに終わってしまった感じ。

表現とか登場人物の言動とか会話の内容とか、時々意味が判らない、納得出来ない部分があった。

例えば1話目の「ジャバウォックの鑑札」。
ハルタが迷っていた犬を連れてくるのはともかく、それをチカに絡んでいたライターの渡邊との交換条件とする意味がよく判らない。
それって条件として成立する?
あと、犬の飼い主として名乗りを挙げた人物(実は偽物)が、何故あのタイミングで名乗りを挙げたのかも謎。
話の展開によれば先に犬を見つけていた(しかも保護したハルタも目を話した隙に)ってことなんだから、そんな面倒くさい小細工している暇があったらサッサとその場から連れ出せばいい話じゃないの?

「空想オルガン」の主人公が家族と絶縁するためのお金って何?
あの出来事によって自分に対する家族に絶望したというのは理解できるけど、そこから縁を切るために大金が必要だったという展開がよく判らない。
手術費用を返したってこと?
あと、この話の主人公が「渡邊」だったってこと?

こんな感じで小さい疑問が重なったまま話が進むので、それに気を取られて物語に入り込めずに終わってしまった感じ。
あと、唐突に会話文だけがポンと出てきて誰のセリフか判らないこともけっこうあった。

チカやハルタなど清水南高の生徒たちなど人物設定ははみんな個性的でよかったので、物語が楽しめなかったのは残念。
最初から読めばちがうのかな。
今度は1冊目を読んでみよう。

ところで、音楽がテーマの話なのに、そして3話ともコンクール当日の話なのに生徒たちの演奏の様子は描かれないのね。
やっぱり音を文章で表現するのは難しいってことなのかな。

<収録作品>
序奏 / ジャバウォックの鑑札 / ヴァナキュラー・モダニズム / 十の秘密 / 空想オルガン

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2013/01/17

志水辰夫/待ち伏せ街道―蓬莱屋帳外控

待ち伏せ街道―蓬莱屋帳外控

通し飛脚「蓬莱屋」シリーズ3作目。

同じ設定で3作目ともなると内容がパターン化してしまうのではないかと心配したけれど、今回は敢えてそこを外してきたという印象の3本。

蓬莱屋の鶴吉が身体だけは大きいがやる気がなく言い訳ばかりの半端者・長八を連れて信濃まで仏像を届ける仕事を描いた「なまくら道中」。
仏像の奪取を図る敵対する寺の刺客たちを避けながら山道を走るうちに飛脚としてのイロハも身に付いておらず鶴吉の足手まといにしかならなかった長八にも少しずつ変化が見え始める展開。
「このままちょっと感動的な感じで終わるのかな」と思いきや…もう一捻りあるラストが笑えた。

「峠ななたび」は浪人の身で蓬莱屋の大名家相手の仕事を助ける澤田吟二郎が主人公。
藤倉家の使いとして江戸からの文を持って国元の三郷の城下までやってきた澤田はひょんなことから目付の永渕勘七と知り合い、一緒に三郷から駆け落ちした城の奥女中の行方を追うことになる。
この話は、そもそもなんで澤田はここまで他の家中の騒動に積極的に首を突っ込んでいるのかがよく判らなかった。
なので、内容自体は面白かったけど今ひとつ入り込めずに終わってしまった感じ。
勘七との会話も含みが多すぎて、意味がよく判らないことがときどきあった。

最後は、急死した某藩の留守居役の奥方が屋敷を抜けだして国元に帰るのを蓬莱屋の仙造が手助けする「山抜けおんな道」。
今回の3篇の中ではこれが一番面白かった。
物ではなく人を運ぶといういつもと違う展開に最初はあまりいい印象を持てなかったけど、話が進むにつれて仙造と旅をともにするおたかの性格がどんどん変わっていく(地が出てくる)のが面白かった。
最初はしっとりとした武家の奥様だったのが、徐々に自分の生きる算段は自分で出来る女性だということが現れ、最後には自分を殺すために近づいてきた男を騙し手玉にとるようになる。(実はもともとそういう女性だったという設定)
そして遂には自分の手で追手を葬り去ることに成功する。
仙造の力を頼みながらもただ流れに任せるだけでなく、自分の力と知恵で道を切り拓いてゆくおたかの力強さに引きつけられた。
それまでの窮地もこれからの苦労もものともしないような明るいラストも印象的だった。

足も速ければ、腕も立つことももちろんだが、それだけではだめなのだ。なによりも危険を嗅ぎ分け、どんなときも自分を抑え、いざこざを避けられる意志と、分別を持ち合わせている人物でないとだめなのである。/ 通し飛脚に求められたものは、それまでの飛脚とはまったくちがう新しい人間なのだった。(p127)

<収録作品>
なまくら道中 / 峠ななたび / 山抜けおんな道

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2013/01/13

原宏一/ヤッさん

ヤッさん (双葉文庫)

都会の恩恵を受けて生きられることに感謝はするが、決して媚びないを人生哲学としてホームレスを続けるヤッさん。
彼は味覚と知識と信頼で築地の仲買と一流の飲食店を取り持つことで毎日の食事を確保していた。
そんなヤッさんに拾われた駆け出しホームレスのタカオは、ヤッさんの弟子になりその生き方を学ぶようになる。
そんな2人が行く先々で起こるトラブルを解決していく話。

面白かった♪

読む前はナンセンスコメディーみたいな笑える話なのかと思ったら、そうではなかった。
実際は築地の移転問題や、環境問題、飲食店の経営問題など現実に起こっている堅めな話題が大半。
でも、そういった問題の背景を丁寧にわかりやすく説明してあるのと、主人公のヤッさんの設定にぶれがないせいで全編面白く読めた。
物語が進むにつれてヤッさんの過去が少しずつ明らかになっていく設定もよかった。

登場人物の言動で「設定とちょっと合ってないのでは…?」と思う箇所も時々あった。
例えば漁師町育ちのタカオがエビの食べ方も知らないとか、北海道から出てきたばかりのミサキが都会の人混みをすり抜ける技術がタカオより高かった部分とか。
あと、シノケン師匠がホームレスになった経緯というのも改めて考えるとなんとなく納得しにくいし、いくら食事は問題ないしその他のことは都会の恩恵を受けて生きられると言っても本当に無一文で生きていけるのかという疑問も。
(最終話の入院費の件も話が出来すぎだろ、と思う)
何より基本にある「ホームレスが築地や一流飲食店に出入りする」って設定自体に無理がある。

ただ、これは物語であって現実ではない。
そういう現実とのギャップに目をつぶって「都会のファンタジー」として考えればとても面白く楽しめる物語だった。
ラストはちょっと「ありきたり」だけど、大団円で読後感もよかった。満足♪

<収録作品>
ホームレスのグルメ帳 / ラブミー蕎麦 / 籠城レストラン / 築地の乱 / 松の木コテージ / ターレの行方

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2013/01/12

鯨統一郎/幕末時そば伝

幕末時そば伝 (実業之日本社文庫)

倒幕には粗忽長屋の住人が深く関わっていた?!
タイトルの「時そば」を始め 「粗忽長屋」「千早振る」「長屋の花見」など有名な落語と江戸幕府終焉までのプロセスを結びつけた構成。

バカバカしいけどサクサク読めて楽しかった。
粗忽長屋の住人たちの咬み合わない会話が笑えた。

粗忽長屋の住人も充分粗忽だけど、それ以上に幕府の隠密たちが輪をかけて粗忽すぎるw
あんな適当な打ち合わせで国の大事をやり取りしようとしてるんじゃ、そりゃあ幕府が倒れるのも当然かと。

落語って生で聞いたことは一度もないけど、ここに出てくるくらいの有名な噺ならけっこう知っていたのが自分でも意外。
全編は無理だけど「さわり」や「オチ」はどこかで聞くか読むかしたことがあるらしい。
今年は生で実際に聞く機会も持ちたいな。

<収録作品>
異譚・粗忽長屋 / 異譚・千早振る / 異譚・湯屋番 / 異譚・長屋の花見 / 異譚・まんじゅう怖い / 異譚・道具屋 / 異譚・目黒のさんま / 異譚・時そば

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2013/01/11

太田忠司/黄昏という名の劇場

黄昏という名の劇場

黄昏の世界に生まれながら何ゆえにかそこを追われ流浪する"わたし"に、出会った人々が語る不思議な8つの物語。

ちょっとおどろおどろしい雰囲気があるけど話自体は特に"怖い"ということはない。
どちらかというと幻想的な夢物語のようなイメージの作品群。

どれも独特の余韻を残す作品だったけど、中でも人と本の関わりを表現した「赤い革装の本」がとてもよかった。
大量の書架に無秩序に収められた大量の本の中から自分の求める本だけを探す者たち。
1日のすべての時間を使って、ただ自分だけの本を探し求める。
しかしそうやって本に囲まれているにも関わらず、彼らは自分が探す以外の本についてはその背表紙に記された題名しか読もうとはしない。
そうして気が遠くなるほどの時間を掛けて自分の本を探しだした彼らを待ち受ける運命とは…。

『悪の華』を探す主人公に待っていた運命から彼を救った老人との会話が胸に響いた、

「-本は書架に収められ、読まれるときをじっと待っておる」
老人は私に言った。
「その本も、おまえさんに読まれるために、長い長い眠りの時間を過ごしてきた。そして今、お前さんの前にある。わかるか、人と本が出会うことの意味が」(P220)

「そうだ。開いて、読め。おまえさんが読みはじめたとき、物語は生まれる」(P221)

各編に添えられた藤原ヨウコウさんのイメージイラストも、物語に沿いながら更にそれ以上に濃密な世界があって素敵だった。

<収録作品>
人形たちの航海 / 時計譚 / 鎌の館 / 雄牛の角亭の客 / 赤い革装の本 / 憂い顔の探偵 / 魔犬 / 黄昏、または物語のはじまり

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2013/01/06

「博物館に初もうで」展~初詣~「あっぱれ北斎!光の王国」展

久々に最高気温が2桁になった今年最初の日曜日、初詣も兼ねてぷらぷらと遊びに行ってきた。

行き先は「博物館に初もうで」展@東京国立博物館(上野)~初詣@日枝神社(赤坂見附)~「あっぱれ北斎!光の王国」展@池袋・西武ギャラリー。

「博物館に初詣」展は東京国立博物館に所蔵されている作品の中から縁起のいい図柄のものを集めての展示。
目玉は国宝の長谷川等伯作「松林図屏風」。
勢いのある筆致と大胆な空白が印象的な作品だった。
混み合うこともなくゆったりとした館内。
順路も気にせずフラフラと2時間ほど巡回してきた。
けっこう写真撮影OKな展示物が多かったのが意外。
重文や国宝級のものでもOKだったりして、たくさんの人が撮影していた。
小学生くらいの男の子が戦国時代の鎧を解説文も含めて撮影していたのが印象的だった。
■東京国立博物館:博物館で初もうで
(1月27日まで。※但し、「松林図屏風」の公開は1月14日まで)
工事中だった東洋館がリニューアルオープンしたとのことだったけど、既にちょっと疲れが来ていたしこのあとも予定を入れていたので残念ながら今日はパス。
ちょうどお昼時だったので隣接している「ホテルオークラレストラン ゆりの木」でランチ休憩。

その後、銀座線で赤坂見附に移動して日枝神社で初詣。
最近は毎年ここでお参りしてお守りを買って帰るのが習慣。
以前は1月後半くらいに来ることが多かったので閑散とした中の初詣だったけど、さすがにまだ5日だと人出も多いし屋台も出ていてそこそこ賑わっていた。
お参りしておみくじを引いて、お守りを買って初詣は終了。

ここから丸ノ内線で池袋に。
そのまま帰ろうと思っていたんだけど、ここまで来て急に池袋西武内のギャラリーで開催されている「あっぱれ北斎!光の王国」展の招待券を持っていることを思い出した。
しかも会期は今日まで。
せっかくなのでちょっとだけ寄ってみることに。
デパートの中のギャラリーのためか思った以上に混雑していてビックリ。
この展覧会は去年行った「フェルメール 光の王国」展同様、その作家の本物(実物)ではなく作品を最先端の印刷技術で再現した作品の展覧会。
なので、会場内は撮影OK。
みんなすごい勢いで写真を撮っていたw
今回展示されていたのは富嶽三十六景と滝を描いたシリーズ。
さすがに実物に比べると奥行きとか繊細さが消えて平坦な印象を受けたけど、それでも色は綺麗に表現されていたと思う。
北斎といえば「神奈川沖浪裏」に代表されるような「青」を基調にした作品が印象的。
他にも「相州七里ガ浜」などほぼ青の濃淡で描かれた作品もあって目を引かれた。
「東都浅草本願寺」の大胆な構図や、桶枠の向こうに小さな富士が見える「尾州不二見原」もよかった。
美術品は実物を見るのがもちろん一番いいけど同じアーティストの作品が一堂に会する機会というのはなかなかないので、こうした技術が発達して手軽に見る機会が出来るのは興味を持つきっかけとしてはいいかもしれない。

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2013/01/05

映画:大奥~永遠~右衛門佐・綱吉篇

よしながふみさん原作漫画の映画化作品。

去年放映されたTVドラマがすごくよかったので期待していたんだけど、残念ながらいまいちピンと来なかった。

主役の2人はともかく、他のキャストがことごとくイメージからずれていてその差が埋められないうちに終わってしまった感じ。
特に語り手の秋本はもっと柔らかい感じの人がよかったな。
飄々としてるけど有能で鬱屈しているところも抱えていて…という部分があまり出ていなかったように思う。
それに最初は秋本が絹江に(実際には送れない)手紙を書いて、そのなかで大奥を語るという設定だったのにそれが途中からどこかに行ってしまったのも中途半端だった。
しかも映画の中では秋本と絹江についての説明が一切ないのが不親切。
秋本と絹江が実際に会うエピソードを入れなかったのはメインのストーリーとは関係ないから仕方ないと思うけど、セリフでの説明もないのでは原作読んでない人には「絹江って誰?」ということになってしまうと思うんだけど。
他にも原作読んでて当たり前、ドラマ見てて当たり前、といったシーンがときどきあるのが気になった。

綱吉に侍る男たちも今いちパッとしなかった。
(公式サイトの写真を見るとそうでもないんだけどな)
まあ、だからこその右衛門佐なのかもしれないけど。

堺さんはよかったけど、ドラマの有功のが印象的だったなあ。
画面に出ているシーンは多かったけど、あまり大奥総取締として活躍してるって感じがしなかった。
もうちょっと有功との違いが前面に出てもよかったのでは。
死ぬシーンもあっけないしねえ。
(原作もそうだから仕方ないんだろうけど)
原作にあった年老いた有功が桂昌院を訪ねてくるシーンが見てみたかった。
あ、でも、甘いモノを凄い勢いで食べてるシーンはよかったなあ(笑)
あのシーンが一番有功との違いが出ていた。
それにしてもあんなに食べながらセリフ喋るの難しいだろうな。
最終的にどのくらい食べたのかが気になるw

菅野美穂は相変わらず泣く演技が抜群に上手かった。
全体的に入り込めずにボーッと見てたんだけど、菅ちゃんが泣くシーンだけはもらい泣きしてしまった。
特に松姫が死んだあと、吉保にすがって泣くシーンがとてもよかった。

一番不満なのは原作のラストの綱吉が死ぬ(殺される)シーンをやってくれなかったこと。
確かに危険なシーンだけど…いろんな意味を持ったすごい結末だと思うんだけどな。
それにあそこがないと御台所もいいとこナシで、ただのやきもち焼きのへなちょこ公家さんになっちゃうんだけど。

映画版だったら前作のほうがコンパクトにまとまっていてよかったな。
今回のはあの時間にまとめるにはエピソードが多すぎたんじゃないかと思う。

衣装とかセットとか華やかで豪華でお金はかかってるんだろうなあと思ったけど、今ひとつな印象だけが残った。
残念。

映画:大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]公式サイト
※音が出ますので御注意ください。

映画 大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]オリジナル・サウンドトラック 大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

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2013/01/04

門井慶喜/若桜鉄道うぐいす駅

若桜鉄道うぐいす駅

鳥取の山奥を走る全長19.2キロのローカル線・若桜(わかさ)鉄道。
その始点 郡家駅から数えて3つめのうぐいす駅。
有名建築家が設計したというその小さな無人駅の駅舎存亡を巡る物語。

主人公の大学院生・涼太の語り口調で綴られる物語は軽快で、展開も早く読みやすかった。

ただ、涼太の恋人・悠花が心変わりをするあたりの描写はなんだかなーって感じ。
それまではあくまでも村の外側の人間の立場で騒動に立ち会っていた涼太を当事者として選挙戦に引っ張りだすための最後の一押しにしても設定がベタすぎるんじゃないかなあ。
いくらもう別れようと思ってるとしても「身内が危篤状態だからすぐに会いたい」って言ってる相手に対して「3日後に会いましょう」って返事する神経が理解できない。
(それを守ってきっちり3日待ってる涼太もよく判らないけど)
更にその前のベッドシーンのくだりも必要でしたか?と思う。
(前作の『この世にひとつの本』にもこんなシーンがあった。何故こういうシーン入れたがるかな?)

涼太が自分のことを「私」っていうのも違和感があった。
他人と話してるときならいいけど、身内にまで「私」っていうキャラじゃないような気がする。

あと、駅舎の本当の設計者が誰かってところも「そんな理由付けでいいんですか?」という感じがなきにしもあらず。
いくら過去の慣習だったとはいえ、そんな人が書いた図面に建築家が自分のサイン入れたりするかな?
もし本当にそんなことがまかり通るとしたら建築史の研究ってかなり難しいのでは…。
でも門井さんって「ぼくらの近代建築デラックス! 」(万城目学さんと共著)なんて本を出しているくらいで建築関係にも明るいようだからホントなのかな。
だとしたら、現実にも「実は…」な建物ってたくさんあるのかも?

とけっこう引っかかるところもあったものの、結末としては綺麗に収まるところに収まったという感じで読後感は悪くなかった。
説得力はイマイチだけど、お話としては悪くなかったかなと思う。

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七尾与史/山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎

山手線探偵 (ポプラ文庫 日本文学)

事務所を構えるお金がないため山手線を事務所代わりにしている探偵・霧山、その助手兼広報担当の小学生・シホ、霧山の友人で自称作家の三木。
おじさん2人と小学生女子1人のトリオが山手線で遭遇する謎を解く長編ミステリー。

読み始めは登場人物がしっくり来なかったけど、だんだん面白くなっていった。最初の事件から次々と話が展開して、ぐるっと回って最初のシーンに戻ってくる構成が上手い。

ただ、舞台が山手線というのは少し無理があるのでは。
偶然誰かに会うには本数も乗降客数も多すぎかと。

それに、あんなことをした犯人がその現場となった山手線に乗ってることにちょっと違和感を感じるなあ。
百歩譲って交通手段として使うだけなら理解するとしても、いつバレるかビクビクしてるのに車内であんな行動取るかな?

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