太田忠司/黄昏という名の劇場
黄昏の世界に生まれながら何ゆえにかそこを追われ流浪する"わたし"に、出会った人々が語る不思議な8つの物語。
ちょっとおどろおどろしい雰囲気があるけど話自体は特に"怖い"ということはない。
どちらかというと幻想的な夢物語のようなイメージの作品群。
どれも独特の余韻を残す作品だったけど、中でも人と本の関わりを表現した「赤い革装の本」がとてもよかった。
大量の書架に無秩序に収められた大量の本の中から自分の求める本だけを探す者たち。
1日のすべての時間を使って、ただ自分だけの本を探し求める。
しかしそうやって本に囲まれているにも関わらず、彼らは自分が探す以外の本についてはその背表紙に記された題名しか読もうとはしない。
そうして気が遠くなるほどの時間を掛けて自分の本を探しだした彼らを待ち受ける運命とは…。
『悪の華』を探す主人公に待っていた運命から彼を救った老人との会話が胸に響いた、
「-本は書架に収められ、読まれるときをじっと待っておる」
老人は私に言った。
「その本も、おまえさんに読まれるために、長い長い眠りの時間を過ごしてきた。そして今、お前さんの前にある。わかるか、人と本が出会うことの意味が」(P220)
「そうだ。開いて、読め。おまえさんが読みはじめたとき、物語は生まれる」(P221)
各編に添えられた藤原ヨウコウさんのイメージイラストも、物語に沿いながら更にそれ以上に濃密な世界があって素敵だった。
<収録作品>
人形たちの航海 / 時計譚 / 鎌の館 / 雄牛の角亭の客 / 赤い革装の本 / 憂い顔の探偵 / 魔犬 / 黄昏、または物語のはじまり
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