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2013年2月の12件の記事

2013/02/28

三上延/ビブリア古書堂の事件手帳4~栞子さんと二つの顔~

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)

大震災から1か月後。
ビブリア古書堂に栞子たちの母親である智恵子を訪ねて一人の客が訪れる。
かつてビブリア古書堂の通販取引で古書を購入したことがある人物の代理と名乗るその人物から、「相談したいことがあるので家に来て欲しい」との依頼を受ける。
大きな洋風の別荘といった趣のその家には江戸川乱歩の膨大で希少なコレクションが収集されていた。
依頼人からそのコレクションの売却を条件としたあるものの入手を引き受ける栞子。
引き受けた栞子は調査を開始、少しずつ真実に近づいていくがそこに10年間音信不通だった栞子たちの母親が現れ…という話。

今回は長編で全編江戸川乱歩。
面白かった。長編だけあって読み応えあり。

リーダビリティがよくてしかも先の予測が出来ないので、ページを捲る手が止まらない!という感じ。
更に非常に丁寧で膨大な乱歩についての知識が、物語の中できちんと咀嚼されているのが素晴らしい。
こういうトリビア的な内容を自然に物語の中に取り込むのってけっこう難しいと思うけど、それが違和感なくするっと入っているのが凄い。
そして膨大な資料を読み込み、多くの日数を費やして書かれたのであろうそうした薀蓄を著者の苦労も気にせず読み飛ばす贅沢さ!w
ただ、暗号文のくだりは残念ながらよく意味が判らなかった…(^^;

物語は栞子たちの母親の登場で大きく動き出した。
でも、栞子だけの言い分を聞いてたときとは随分印象が変わったかも。
まあ、確かに単純に「いい人」ではないと思うけどね、単純に「悪い人」でもないんだな、と。
あくまで自分の気持ちに素直な人なのかな。
一般的にそういう人物は周囲から見るとはた迷惑なものだもんね。

栞子の母親に対する態度は以前からそうだろうなと思っていたとおり、近親憎悪という感じ。
逆にいうとそれだけ母親のことを意識している証拠。
いつか自分もああなるかもしれないという恐怖と予感が栞子の行動を律しているような気がするな。
大輔も栞子が好きなだけにその栞子の気持に引きずられてしまっている部分はあると思う。

それに対して妹の文香の態度は見事。
2人の間の緊張をものともせず、自分の言葉と態度で切り込んでいく。
非常に素直だし、かつ大人な対応で思わず感涙。
あの態度やセリフもももしかしたら文香なりの計算なのかもしれないけどそれはそれでいいと思う。
最初の頃は物語の中で一人だけテンションが違うのでちょっと違和感があった(個人的な感想として)文香だけど、ここに来て真価を発揮し始めた感じ。
というか、もともとそういう役割の子なんだろうな。
それはそれで不憫ではある…。

智恵子の消息を志田までが知っていたという事実、そして栞子との関係は進展したものの智恵子に憎まれた(?)大輔の今後など、多くの謎を秘めたまま物語は後半へ。

続きが楽しみ。

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2013/02/27

松井今朝子/一の富 並木拍子郎種取帳

一の富―並木拍子郎種取帳 (時代小説文庫)

人気戯作者・並木五瓶に弟子入りした武家の次男坊・兵四郎。
「拍子郎」と名前を変えて師匠が芝居を書くための「種」を拾って歩くのが日課となった若者の活躍を描く連作短編。

登場人物は個性的な人物が多いし、事件も割と面白いのになんとなく今ひとつ。
全体的に登場人物がみんな引っ込んでる感じ。
事件があって、それに実際に関わっていても他人事みたいに遠くから眺めているという印象を受けた。
特に五瓶はもうちょっと事件について前のめりな感じでもいいのでは。
「師匠が乗ってこないから却って拍子郎が深みに嵌っていく」という部分もあったので、もともとそういう役割なのかなとも思うけど。
同じ五瓶さんが出てくる作品なら以前読んだ『東洲しゃらくさし』のほうが面白かった。

ただ、それにしては主人公の拍子郎も今ひとつ掴みどころがない感じでもどかしかった。
もっと自己主張してもいいんじゃないのかなあ。

拍子郎とおあさの恋模様はなかなかいい感じだった。
特におあさ側からの描写は初々しく、かつ切実で共感することが出来た。

この後も続いているようなので、もっと読めば面白くなるかもと思うけど今のところイマイチ食指が動かない。
拍子郎とおあさがこれからどうなるかや、拍子郎と兄の関係など気になる点はあるし、読みやすい作品ではあるのでまた機会があったら読んでみよう。

<収録作品>
阿吽 / 出会茶屋 / 烏金 / 急用札の男 / 一の富

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2013/02/24

堀川アサコ/たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖

たましくる イタコ千歳のあやかし事件帖

昭和初期、死んだ姉の忘れ形見である安子を父親の実家に預けるために青森の旧家・大柳家を訪れた幸代はその家の末娘で盲目の美少女・千歳と出会う。
若くして結婚したもののその直後に夫に死に別れた千歳は実家を離れ「イタコ」として自活していた。
千歳は何故か幸代を気に入り、自分の家で安子も含め3人で暮らさないかと持ちかける。
その申し出を受け青森で暮らし始めた幸代が千歳とともに不思議な事件を解決する話。
連作短編。

もっと単純に、困ってる人をイタコの力で助ける心霊ものかと思っていたら、意外に複雑かつ現実的な話だった。
更にイタコである千歳はかなり現実的に聞き込みしたり推理したりして、逆に都会育ちの現実派のように見える幸代のほうが怪異に巻き込まれるという不思議な展開。

一話目から名前だけが繰り返し出てくる10年前に失踪した幸代にそっくりな少女(蝶子)はどこに行ったのかという問いの回答が三話目の「紅蓮」で完結する構成。
読みにくくはないけど、ちょっと人間関係が複雑過ぎて判りにくかったかな。

あと、二話目の「ウブメ」は設定に納得出来ない部分があった。

<収録作品>
魂来る / ウブメ / インソムニア / 押入れの中 / 紅蓮

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2013/02/22

矢崎存美/ぶたぶた図書館

ぶたぶた図書館 (光文社文庫)

町に新しく出来た図書館で企画の募集が始まった。
小さい頃から本を読むのが大好きな中学1年生の雪音はさんざん悩んだ挙句、以前インターネットのサイトで見た「ぬいぐるみおとまり会」の企画を提出するが選からもれてしまう。
がっかりした雪音だが、ある日同じように「おとまり会」をやりたいと思っている司書の寿美子に会い2人でプレゼン用の資料を作ることに。
アピール力のある写真を撮るためにいいカメラを持っている人を探す2人。
そこにある日「山崎」と名乗る男性から電話があり-。

そうか、ぶたぶたが図書館の中の人なわけではないのね。
てっきり、司書のぶたぶたが図書館にやってくる人たちの悩みを解決する、あるいはその人にぴったりな本を紹介するといった話なのかと思ってた。

そんな思い違いをしていたせいか、今ひとつ物語に入り込めないまま終わった感あり。
まあ、全て自責だけど^^;

特に最後の話の彩子には感情移入できず。
彼女の言動が理解出来ないとかではないんだけど、人物像にピントが合わなかった感じかなー。
どんな人なのか分からないなーと思ってるうちに終わっちゃった感じ。
あ、でもぶたぶたに敵意を向けちゃうところはよかったな。
それをスルリとかわすぶたぶたもなかなかw

彩子に比べると「何も知らない」の秀はわかりやすかった。

<収録作品>
理想のモデル / 何も知らない / ママとぬいぐるみのともだち

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2013/02/20

皆川博子/開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―

開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ・ミステリワールド)

18世紀ロンドン。
聖ジョージ病院外科医のダニエル・バートンは外科医の地位向上と、医学への貢献を目指し私的に解剖教室を開き有能な学生たちを指導していた。
しかし、外科医に学術的な解剖が許可される遺体は年間数体しかない状況だったため、バートンは違法と知りながら墓暴きから遺体を買い取ることで研究を進めていた。
ある日、バートンの元に妊娠6ヶ月の若い女性の遺体が運び込まれる。
早速学生たちを呼び集め解剖を始めようとしたそのとき、どこからか情報を聞きつけた街の治安隊が登場。
学生たちは慌てて遺体をかねてより用意していた巻き上げ機を使い暖炉の奥に隠しその場をやり過ごすが、その後遺体を戻すために暖炉に入ってみると、なんと遺体は3つに増えていた-。

長編ミステリー。

最初の方で学生やら治安部隊やら大勢の人物が次々に登場して、更に死体もゴロゴロ出てくるのでちょっと混乱したけど、その後人数が絞られてからはスムーズに読了。
緻密な物語で読み応えがあった。
当時のロンドンの詳細な描写もいい。
また、キーになる2人の行動がどちらに与するのかが最後まで判らず、着地点がなかなか見えないので最後まで緊張感があってよかった。

ただ、皆川さんの作品としてはわりとあっさりした印象。
解剖を扱った話だしもっとドロドロした内容かなと思っていたので、その点はちょっと肩透かしだっかも。その分、読み易かったわけでもあるけど。

あくまでも誠実に医学の向上を目指すダニエル・バートンの実直さが印象的。
そして彼を師として慕い、仲間を信じる学生たち(バートンズ)の明るさもいい。
わけありだったエドとナイジェルは真っ直ぐな彼らの存在にとても救われたんだろうな。

エドとナイジェルがその後どうなったか、あるいは出会うまでの物語も読んでみたい。

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2013/02/17

エドワード・スミス/紳堂助教授の帝都怪異考

紳堂助教授の帝都怪異考 (メディアワークス文庫)

大正時代を舞台に頭脳明晰、眉目秀麗、冷戦沈着、傲岸不遜な若き大学助教授が不思議な事件を解決する連作短編集。

てっきりミステリーかと思っていたのに、ファンタジーだった。
最初の作品で事件が起こった現場に刑事がいて、そこに主人公の大学助教授がやってきて…という展開だったので「『ガリレオ』方式なのね」と思って読んでいたら、「犯人は煙の魔神です」。
え?と思ったけど、それなりに聞き込みもして、事件に至るまでの謎解きもあったりしたので「まあ、犯人はともかく謎解きなのね」と思って読んでいたら、だんだんその謎解きもなくなってきて、最後には紳堂助教授と彼の助手であるアキヲ少年(実は男装した少女)の恋物語風になってきたので驚いた。

物語そのものよりも人物設定の描写が多すぎ。
しかも私にとって致命的だったのは、それだけ丁寧に描かれた登場人物にさっぱり思い入れが持てなかったこと(^^;

読みにくくはなかったけど、もうちょっと物語もちゃんと書いて欲しかったなあ。
これなら最初から紳堂とアキヲの恋愛物でよかったんじゃ…(そうしたら私も買わずに済んだし←ヲイ)

ちなみに著者のエドワード・スミスはペンネームで、本人は「生粋の日本人」とのこと。

<収録作品>
香坂邸青年焼殺事件 / 小石川怪画 / 秘薬の効き目 / 沙世

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2013/02/16

小田雅久仁/本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります

本にも雄と雌があって、その相性がいいのを隣り合わせに置いておくと夜中にこっそり交じり合い本来この世には存在しない"幻書"が生まれる。
放っておくと自力で飛んで行ってしまうその"幻書"を収集する大学教授・與次郎の生涯を、孫の博がさらにその息子の恵太郎に語り継ぐために書いた本、という設定の物語。
(で合ってるかな?(^.^;)

最初は何故か書評本だと思ってて(←何故だ>自分w)読み始めたら小説だったのでビックリ。
で、ナンセンス・ホームコメディなのかなと読み進めていたら、だんだん壮大なファンタジーになって行ってまたビックリ。
だからというわけでもないけど読むのに1週間かかった。

今まで読んだことがなかった感じの本だったなあ。
独特な世界観だったのでそこに入って行くまでにちょっと時間が掛かったけど、とても面白く最後は感動した。
特に後半、與次郎が戦争で送られたボルネオ島で経験した夢とも現ともつかない不思議な体験のあたりからは一気に物語に引きこまれた。
(逆に言うとそこまでがかなり長かったわけでもある)

「本」への愛情がギューッと詰まった一冊。
私もラディナヘラ幻想図書館に行ってみたいな…。

『たった一行の文章を書くのでも、たった一つの言葉を選ぶのでも、それを裏から支えるなんらかの精神がなければならない。いっさいの言葉はなんらかの形で書き記す者の精神に根を張っていなければならない。それを積み重ねて、ようやく一冊の本ができあがるのだ。』(p304)

『本とはそもそも寡黙なものだ。誰かが手にとって開かないかぎり、そして読み始めないかぎり、ぐっと息をひそめ、ひと言も語ろうとはしない。だからこそ本は老いてゆこうとするのだし、だからこそまだ息絶えずにいるのだとも言える。』(p306)


ところで、ネットで他の人がこの本を読んだ感想を見てみると、どうやら作風が森見登美彦さんに似ているらしい。
私にとって森見さんは「ちょっと苦手」な作家さん。
何冊か挑戦しているものの、なかなかおもしろさが理解できず途中で挫折を繰り返したので、最近では気にはなるものの手にとることはない…という感じ。
でも、この作品が森見さんの作風に似ているのであれば、「う~ん?」というところで止めずにもうちょっと頑張れば面白さにたどり着けるかも?
今度試してみよう。

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2013/02/11

映画:レ・ミゼラブル

話題の映画「レ・ミゼラブル」を観てきた。
すごく評判がよかったので「どれどれ」と思って観に行ったんだけど、期待以上の素晴らしさに感動。
圧倒的な歌の力に翻弄された2時間半だった。

ミュージカルだというのは知っていたけど、あんなに全編歌っているとは思わなかったのでそれがまずビックリ。
しかもみんな恐ろしく上手い!
メインの役者さんはみんな歌手とかじゃなくて普通に映画に出ている俳優、女優さんだよね。
なのにあれだけの歌唱力が引き出せてしまうところが凄いなあと思った。
日本だったら絶対無理でしょう。

見ていて思ったのは「ミュージカルという方法は凄い」ということ。
普通の映画であんな説明的なセリフを一人で延々と喋っていたら絶対に変だけど、逆にその方が説得力があるし感動するし展開も速いという。
あれだけのドラマを普通のセリフでやったら、あの時間では終わらないし、終わらせようと思ったらいろんな部分を端折らざるを得ないと思う。
それが成功するのもそれだけの楽曲と歌唱力があってこその話だけど。

ただ、逆に歌があまりにも圧倒的なので、ストーリーはよく判らないけど感動しちゃうという部分はあったかも。

以下、謎の部分。(ちなみに原作は未読です(^^;)

  • ファンテーヌが工場を追い出された理由がよく判らない。
    「隠し子がいたから云々」とか言われていたけど、なんで子どもがいたら工場を辞めなきゃならないの?
  • ジャン・バルジャンはどうやって8年で仮出獄の身から(それを隠して)市長の地位に辿り着いたのか。
    これが一番不思議。出来ればスピンオフでこの間の話が観てみたいくらいw
  • 逃亡中のジャン・バルジャンはどうやってお金を得ていたのであろうか…。 確かに市長だったんだからそれなりにお金はあったと思うけど、9年も2人で逃亡してしかもあんないい暮らし出来るほど持っていたとは考えにくいんだけどな。
  • マリウスとコゼットが初めて会った夜、テナルディエは何をしにジャン・バルジャンの家に行ったの?
    エポニーヌとのやり取りからするとそこがジャン・バルジャンの家だとは知らなかったみたいだけど…。
    強盗に入ろうと思って行ったのがたまたまジャン・バルジャンの家だったってこと?
  • ジャン・バルジャンがテナルディエ夫婦に再会したとき、なんで慌てたの?
    最初のときにお金払ったんだから堂々としてればいいんじゃないの?
  • コゼットとマリウスの結婚式に姿を表したテナルディエ夫婦は何をしに来たの?
    ジャンバルジャンが死体を運んでいたことをマリウスに教えに来たみたいだけど、それによって彼らが得をすることってないような気がするんだけど。
  • ジャン・バルジャンがパン1個盗んだだけで捕まったのに、テナルディエ夫婦はあんなことばかりやってるのになんで捕まらないんだ。

などなど(ありすぎ?w)。
これは原作読めば納得できるのかな。
そのうち読んでみよう。

映画を観た限りではこの物語の中で結果的に一番可哀想だったのはジャベール警部だったな。
他の人物は誰かに希望を託して安心して、あるいは自分の信念のために死んだけど、彼はそれまで信じていた今までの自分を無くして真っ暗なまま死んでしまったわけでしょ。
確かにそれまで思考停止状態だったので自業自得かもしれないけど、それでもあそこで自殺させる意味がよく判らなかったな。
宗教的な意味合いがあったのかしら。

一方この物語の中で一番人格(性格)が不明なのってコゼットだった。
何を考えているどんな人物なのかさっぱり判らない。
彼女は物語の中で「愛」とか「希望」とか「純潔」とか「正義」とか、そうした美しいものの象徴なのかな。
だから美しく誰からも愛される。
でも彼女自身によって心を揺さぶられるというシーンは少なかったように思う。
エポニーヌがもっと嫌な女だったらまた違ったのかもしれないけどね。

でも、映画全体としては非常に素晴らしい作品だった。
ハリウッドの実力を正しく行使した結果であると思う。
観てよかった。

映画「レ・ミゼラブル」公式サイト (音が出ます)

レ・ミゼラブル~サウンドトラック
レ・ミゼラブル~サウンドトラック
レ・ミゼラブル〈1〉 (岩波文庫)
レ・ミゼラブル〈1〉 (岩波文庫)

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2013/02/09

白隠展@Bunkamuraザ・ミュージアム

130209hakuin渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「白隠展 禅画に込めたメッセージ」を見に行ってきた。

白隠慧鶴(はくいん えかく)は江戸中期の禅僧で臨済宗の中興の祖と言われる人物、とのこと。
白隠禅師本人のこともその作品も全然知らなかったけどとても面白かった。
力強く大胆で自由な筆致で描かれた禅画は今から300年前の作品なのに全然古くないところが凄い。
画風もそうだけど、絵の具(というか墨)自体もかなり鮮やかに残っている作品が多く、古びた印象がなかったのが意外だった。
堅苦しいところがなくておおらかな画風とひょうきんなテーマで見ているとついニコニコしてしまう。
書も力強く直線的な文字で、ちょっと広告用のPOP文字みたいな感じだった。
しかも筆で一気に書いたのではなく輪郭を書いてその中を塗りつぶしている作品とかもあって、びっくりした。

禅宗(臨済宗)についても禅画についても知識がないのでそこに込められたメッセージまで感じることは出来なかったけど、何となく「難しいもの」「古臭いもの」と思っていた禅画の楽しさ、自由さに触れられただけでもいい経験だった。

会場内は少し混雑していたけど一つ一つの作品が大きめだからかあまり1箇所に集中することがなく自然にゆったりと人が流れていたので、ほとんどストレスなく見て回ることが出来た。
イヤホンガイドは俳優の井浦新さんと大学教授の山下裕二さん。
山下さんの解説が妙におかしかったw

それにしても白隠さん、300年前(1685年生まれ)の人なのに84歳まで生きたらしい(*_*;
しかも絵を本格的に描き始めたのは60歳を過ぎてからで、死の直前まで絵を描いていたとか。
パワフルだなあ。見習いたい。

会期は2月24日まで。
白隠展公式サイト

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2013/02/08

冲方丁/光圀伝

光圀伝

素晴らしい作品だった。

同腹の兄がありながら世子となり水戸徳川家を継ぐことになった自分の存在を「不義である」として悩み、学問と詩にその答えを求め続ける光圀。
やがてそこから、救いと得がたい人々との交わりそしてついには義へ立ち返るための道を見つける。
その道もまた楽ではなかったがそれを貫き通しただひたすら「義」に生きた光圀の生涯が圧倒的な迫力で描かれていて読み応えがあった。

何よりも人物に対する愛情と尊敬で溢れた文章がいい。
主人公の光圀はもちろん、どの登場人物も活き活きとしていて立体感がある。
そして主要な人物はみなその最期まできちんと描かれているところがいい。
それがあるからこそ、光圀と同じ時を生きているような気持ちで読むことが出来た。

途中で『天地明察』の主人公・安井算哲とのやり取りも。
『天地明察』のときはあそこで光圀が出てくるのは単に幕府の要人だからかと思っていたけど、これを読んで確かに算哲を正しくバックアップ出来るのはこの人物しかいないだろうなと思えた。

全750ページという圧倒的な迫力。
しかもそこにまったく無駄がなく、むしろ足りないと思わせる充実した内容だった。
持ち歩くにはなかなか大変な大きさだったけど、その厚み、重さといった物理的な記憶もまたこの作品に必要なファクターだったように思える。
これを分冊せず、1冊ものとして出版した著者と出版社(角川書店)は英断だと思う。

とても幸せな時間だった。
ありがとうございました。

史書は、命の記述であり、決して死者の名簿ではない。

命がついえたことが肝心なのではない。どのような命も、生きてこの世にいたという事実は、永劫不滅である。そのことを知り、今生の我らもやがてその列に加わるのだという思いを喚起させる。それがひいては未来の子々孫々の営みを想起させ、今生における人倫の大義を、後世に伝える意義となるのである。
今生の世を未来に捧ぐ。
その理念あれば、いかなる死者も無に帰すことなく、そしてまた、いかなる者の死も、今生の者を脅かすことはないのである。(p484)

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2013/02/05

横田 増生/評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」

評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」

02年6月に39歳という若さで急逝したコラムニストで消しゴム版画家のナンシー関氏の生い立ちと業績をまとめた本。
ナンシーの家族や友人、仕事関係者など数多くの人々の証言や作品の引用で構成されており読み応えはあった。
でも面白くはなかった。

これを読んで思ったのは「私は別に彼女がどんな人か知りたいわけじゃない」ということ。
彼女のコラム(特にTV関連)はすごく好きで文庫を何冊も買ったけど、それは彼女の目を通して書かれる現象を読むのが好きだったのであってそれ以上でも以下でもないんだな。
そして(勝手な思い込みだけど)多分、彼女自身も少なくとも読者にはそういう読まれ方をされたかったのではないかと思う。

サブタイトルにも使われている『心に一人のナンシーを』(大槻隆寛さんの発言らしい)とか、作家の宮部みゆきさんが心に刻んでいるという『それでいいのか。後悔はしないのか』というナンシーの言葉が印象的。
これが書いてある冒頭の第一章が一番面白かったな。

その後はみんな褒めすぎ。
どんだけ偉大で、どんだけいい人なのかと。
しかも同じような褒め言葉ばっかりなので飽きたし、更にはそれが繰り返されることで却ってだんだん信憑性が怪しく思えてしまうくらいだった。
別に私も彼女が悪い人だと思ってるわけじゃないし、悪口が聞きたいわけでもないけど、みんな判で押したように「気配りができるいい人だった。才能があった」とか言われても…という感じ。
だって才能があって頭がいいのはもちろん、実はすごく気配りが出来る人であったろうということはその著作を読めば判ることだから。
仲がいい、身近な人たちだけでなく反対側の人、あるいは関係者ではなく純粋な読者の視点で語る人の意見も聞きたかったな。
そういう意味ではデーブ・スペクターとの論戦の記述は面白かった。

そもそもこの著者のまとめ方というのがちょっとずれている気がしてならない。

(略)それを時間軸にそって並べて読み返すとき、ばらばらに書かれたものであるにもかかわらず、いくつもの叙事詩が織り込まれたベルシャ絨毯のようになっている点にナンシーの実力があり(略)(p307)

とか、すごいまとめ方をしているのでビックリする。
まあ、著者がそう感じたという話なんだろうけど、それにしても「ペルシャ絨毯」て…(^^;

ところで、彼女の体調について「亡くなる直前には2~30メートル歩くだけで息切れして立ち止まってしまう」「それでも深酒やタバコを止めなかった」「健康診断も行ったことがなかった」との証言が多数出てくる。
これはどうなのかな~…。
もちろん他人の健康についての話題ってあるレベルを超えるとなかなか立ち入って行けない部分はあるというのは理解できる。
でも、今まで元気だったのにある日突然…というならともかく、そこまで症状が出ているなら誰か無理矢理にでも病院に連れてい行く人がいてもよかったのではないかと思うのだけど。
まして友人・知人だけでなく肉親(妹さん)も近くにいたわけだし。
おせっかいと言われ嫌われるのも覚悟でそこまでやってくれる人がいたら彼女は死ななくてもよかったのかもしれないと思えてならない。
もちろん一番の原因はそんな状態になっていながらも病院に行かなかった本人だとは思うけれども。

巻末の作品一覧を見るとまだ読んでいない本もたくさんあるので、この機会にまた少しずつ読んでいこう。
それにしても10年か…早い。
10年前よりも更に混沌としているTVの世界をナンシーはどんなふうに描いただろうか。
今更ながら彼女の早すぎる死が惜しまれてならない。

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2013/02/03

朝松健/暁けの蛍

暁けの蛍

旅の途中で偶然出会った青年僧・一休宗純と年老いた申楽の天才・世阿弥。
渡しの舟に乗り遅れた二人はそのまま川端の破れ小屋で一夜を過ごすことに。
昔語りで時間を潰す二人の元に今はもう存在しない遊里へと誘う不思議な舟が現れる。
二人がその先で目にしたものとは-。

面白かった。
天皇の皇子として生まれながら政治的な思惑により幼い頃から親と引き離され僧として生きることを運命づけられた一休と、圧倒的な美貌と天才的な才能を持って申楽の家に生まれ一時は三代将軍・義満の寵愛を得るまでなったものの代替わりした将軍に疎まれ演じる場さえも奪われようとしている世阿弥。
時代の天才と言える2人の激動の半生が静かで丁寧な筆致で描かれて読み応えあり。
更にそこにこの世ではない妖しの世界を絡め、二人の精神的な陰影を明確にしている。

最初は一休メインの話かと思ったけど、最後には世阿弥の芸に掛ける一途さ、冷厳さが印象に残った。

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