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2013/02/05

横田 増生/評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」

評伝 ナンシー関 「心に一人のナンシーを」

02年6月に39歳という若さで急逝したコラムニストで消しゴム版画家のナンシー関氏の生い立ちと業績をまとめた本。
ナンシーの家族や友人、仕事関係者など数多くの人々の証言や作品の引用で構成されており読み応えはあった。
でも面白くはなかった。

これを読んで思ったのは「私は別に彼女がどんな人か知りたいわけじゃない」ということ。
彼女のコラム(特にTV関連)はすごく好きで文庫を何冊も買ったけど、それは彼女の目を通して書かれる現象を読むのが好きだったのであってそれ以上でも以下でもないんだな。
そして(勝手な思い込みだけど)多分、彼女自身も少なくとも読者にはそういう読まれ方をされたかったのではないかと思う。

サブタイトルにも使われている『心に一人のナンシーを』(大槻隆寛さんの発言らしい)とか、作家の宮部みゆきさんが心に刻んでいるという『それでいいのか。後悔はしないのか』というナンシーの言葉が印象的。
これが書いてある冒頭の第一章が一番面白かったな。

その後はみんな褒めすぎ。
どんだけ偉大で、どんだけいい人なのかと。
しかも同じような褒め言葉ばっかりなので飽きたし、更にはそれが繰り返されることで却ってだんだん信憑性が怪しく思えてしまうくらいだった。
別に私も彼女が悪い人だと思ってるわけじゃないし、悪口が聞きたいわけでもないけど、みんな判で押したように「気配りができるいい人だった。才能があった」とか言われても…という感じ。
だって才能があって頭がいいのはもちろん、実はすごく気配りが出来る人であったろうということはその著作を読めば判ることだから。
仲がいい、身近な人たちだけでなく反対側の人、あるいは関係者ではなく純粋な読者の視点で語る人の意見も聞きたかったな。
そういう意味ではデーブ・スペクターとの論戦の記述は面白かった。

そもそもこの著者のまとめ方というのがちょっとずれている気がしてならない。

(略)それを時間軸にそって並べて読み返すとき、ばらばらに書かれたものであるにもかかわらず、いくつもの叙事詩が織り込まれたベルシャ絨毯のようになっている点にナンシーの実力があり(略)(p307)

とか、すごいまとめ方をしているのでビックリする。
まあ、著者がそう感じたという話なんだろうけど、それにしても「ペルシャ絨毯」て…(^^;

ところで、彼女の体調について「亡くなる直前には2~30メートル歩くだけで息切れして立ち止まってしまう」「それでも深酒やタバコを止めなかった」「健康診断も行ったことがなかった」との証言が多数出てくる。
これはどうなのかな~…。
もちろん他人の健康についての話題ってあるレベルを超えるとなかなか立ち入って行けない部分はあるというのは理解できる。
でも、今まで元気だったのにある日突然…というならともかく、そこまで症状が出ているなら誰か無理矢理にでも病院に連れてい行く人がいてもよかったのではないかと思うのだけど。
まして友人・知人だけでなく肉親(妹さん)も近くにいたわけだし。
おせっかいと言われ嫌われるのも覚悟でそこまでやってくれる人がいたら彼女は死ななくてもよかったのかもしれないと思えてならない。
もちろん一番の原因はそんな状態になっていながらも病院に行かなかった本人だとは思うけれども。

巻末の作品一覧を見るとまだ読んでいない本もたくさんあるので、この機会にまた少しずつ読んでいこう。
それにしても10年か…早い。
10年前よりも更に混沌としているTVの世界をナンシーはどんなふうに描いただろうか。
今更ながら彼女の早すぎる死が惜しまれてならない。

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