« 2013年2月 | トップページ | 2013年4月 »

2013年3月の13件の記事

2013/03/30

坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー

坂木司リクエスト!  和菓子のアンソロジー

「本屋」「ペット」に続いて3冊目。

今回のお題は「和菓子」。
どの作品も優しく柔らかい結末で気持よく読めた。
好きだったのは牧野さん、近藤さん、柴田さん、小川さんの作品。

特に温暖化によって日本の南半分には人が住めなくなった時代を舞台にした小川さんの「時じくの実の宮古へ」。
まさかここでSFとは。
しかも設定はSFなのに、その中心に和菓子を据えて、和菓子についての知識を丁寧に書き込んでいるというギャップが楽しい。
また飄々としてるけどきちんと一本筋の通った父親の描き方がとても印象的だった。

それにしても同じ題材でもいろんなアプローチがあるんだなあ。
企画本、3冊とも楽しかった!
このあともぜひ続けて欲しいな。
いろんな作家さんのいろんな我が儘リクエストアンソロジーが読んでみたい。

あと、あとがきは3冊ともリクエストした側の3人の作家さんによるものだったけど、受けた側の作家さん自身の作品解説や依頼された時の感想とかも読んでみたいな。

<収録作品>
坂木司『空の春告鳥』 / 日明恩『トマどら』 / 牧野修『チチとクズの国』 / 近藤史恵『迷宮の松露』 / 柴田よしき『融雪』 / 木地雅映子『糖質な彼女』 / 小川一水『時じくの実の宮古へ』 / 恒川光太郎『古入道きたりて』 / 北村薫『しりとり』 / 畠中恵『甘き織姫』

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2013/03/27

山本兼一/まりしてん誾千代姫(ぎんちよひめ)

まりしてん誾千代姫(ぎんちよひめ)

筑前立花城の城督・戸次道雪の一人娘に生まれ七歳でその地位と財産をすべて譲り受けた誾千代姫の生涯を描く物語。

山本さんの作品なので読みやすかったし、面白くなかったわけではないんだけど今ひとつ入り込めず。
主人公がスーパーすぎる(^^;
美しく、賢く、心根優しく、慈悲深く、夫である立花統虎(のちの宗茂)とは仲睦まじく、さらに勇猛果敢で自ら薙刀や鉄砲を取り父や夫の留守には先頭に立って城を守る…とか。
感心はするけど、共感するって感じではなかった。
大人になってからはともかく、幼少期からそれだったので出来すぎな感じが鼻についてしまいどうも主人公に気持ちを近づけることができなかった。

素晴らしい人物としての記述よりむしろ時々出てくる嫉妬や後悔や恐れの感情のほうが好きだったな。
人物像としては興味深いのでもっと人間臭い部分を前面に出して欲しかった。

あと、途中で出てくるエピソードの意味がさっぱり分からないことが何度かあった。
読んでも「…で?」って感じ。
内容すべてに教訓的な意味付が必要だとは思わないけど、何でこのエピソードをここに書いたのかも理解出来ずにモヤモヤしたのであった。

ただ人物像としては非常に興味深い。
本当にこんな女性だったのならもっと有名になってもいいのでは。
現在大河ドラマで描かれている山本八重どころの騒ぎじゃないでしょw

本の表紙のイラストは何気なくワカマツカオリさん。
小さいイラストなので最初気づかなかったけど、よく見るといろんなシーンのりりしい誾千代が描かれていて素敵。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/23

西崎憲/世界の果ての庭

世界の果ての庭―ショート・ストーリーズ

複数の物語が少しずつ、入れ替わり立ち替わり登場して話が進んでいく不思議な構成。
描かれるのは
「リコとスマイス」
30代の日本人女性で作家であるリコと彼女とパーティで知り合ったアメリカ人で日本の哲学者を研究しているスマイスの物語。
「寒い夏」
リコがこれから書こうとしている小説のプロット。
「人斬り」
スマイスの研究対象である日本の哲学者・皆川淇園と富士谷成章、御杖の親子を知るきっかけとなった明治期の作家渋谷緑童が書いたとされる小説。
「成慶・淇園・成章」「御杖」
スマイスの研究対象である日本の哲学者についての考察。
「影の物語」
戦争中に捕虜収容所から脱走したまま行方知れずになったリコの祖父が辿り着いた不思議な世界を描いた物語
の(多分)5つの物語。

雰囲気は決して嫌いじゃないけど受け止め方が難しい作品だった。
それぞれの物語が閉じて(完結して)いるのかどうか微妙だし、お互いの関係性もよく判らないまま終わってしまうので。

5つの物語の中ではリコの祖父の話が好きだった。
戦争中、敵の収容所を逃げ出したものの動く力もなくなり死を覚悟しながら目を閉じた男が再び目を覚ましたとき、そこは元の世界ではなかった。
いつの時代のどこの世界なのか判らない場所に迷い込み、歩いても歩いても同じような光景が広がる世界で自分が乗ることが出来る列車の到着だけを待ちながら旅をする話。
茫漠とした虚しさと孤独だけが広がる世界。
男が乗った列車はどこに行ったのだろうか。

個性的であるというのは、小説家にとっては褒め言葉ではない。不幸なことだ。(中略)
もっと正確に言うと、個性的であるだけではだめなのだ。個性的であると同時に普遍的であることが必要なのだ。書かれたものがすべて個人の体験に見えた時点で、その小説は見限られてもしょうがないだろう。(p23より)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/20

斎藤美奈子/名作うしろ読み

名作うしろ読み

古今東西の「名作」と呼ばれる小説の最後の一文からその作品を読み解く書評本。

斎藤さんの本を読むのは久しぶり。
相変わらず斬新な切り口、辛口で勢いのある文章が楽しかった。

読売新聞のコラム欄での連載をまとめた作品とのことで、1作品の分量がちょうど見開き2ページにまとまっているので読みやすい。
その中で末尾の一文に対応する冒頭の文章から始まって簡単な粗筋と斎藤さんの気になるシーンへのツッコミなど盛り沢山な内容で楽しめた。

一番最初に取り上げられているのは夏目漱石の『坊ちゃん』。
この作品のラストは「だから清の墓は小日向の養源寺にある。」という一文らしい。
ここに書いてある「だから」を井上ひさしは『日本文学史上もっとも美しい「だから」』と評し、斎藤さんも『その通りだと思う』と書いている。
ここを読んで、この一文を書きたくてこのスタイルの書評を思い立ったのではないのかな、と思えた。

今回は「名作」「古典」といった作品ばかりだったけど、最近の作品も同じ形式で批評して欲しいな。

お尻がわかったくらいで興味が半減する本など、最初からたいした価値はないのである。っていうか、そもそも、お尻を知らない「未読の人」「非読の人」に必要以上に遠慮するのは批評の自殺行為。評論が宣伝に成り下がった証拠だろう。(p290より)

本の話は「既読の人」同士でしたほうが絶対面白いんだから。(p290より)

それにしても収録されている132作品のうち私が読んだことがあったのは4作だけというのが情けない。
反省しなさい>自分。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/17

近藤史恵リクエスト!ペットのアンソロジー

近藤史恵リクエスト!  ペットのアンソロジー

10人の作家による「ペット」をテーマにした短篇集。

このシリーズは「本屋さん」に続いて2冊目だけど、種類も、その関わり方も、物語の中での役割も今回のほうがバラエティが豊富だった。

好きだったのは大倉さん、我孫子さん、柄刀さん、汀さん、皆川さん、近藤さんの作品かな。

特にヤモリを題材にした皆川さんのは「心地いい気持ち悪さ」とでもいいたくなるような気配が満ちていて好きだな~。
ラストの気持ち悪さは絶品。
ただしこれがペット小説なのかどうかはちょっと微妙かもしれないけど。

同じ爬虫類関係で汀さんのも楽しかったし、巻末の近藤さんによるあとがきもよかった。

ただ、私自身ペットを飼うということに興味がないせいか、そんなに思い入れを持って読む感じではなかったかな。
確かに可愛いなと思うけど、どちらかというと動物が物語に入り込むことで生まれる多様性を楽しんだという感がある。
これが実際に動物大好きでペットも飼ってます、あるいは飼いたいですという人ならまた別の読み方になるんだろうな。

<収録作品>
森奈津子『ババアと駄犬と私』 / 大倉崇裕『最も賢い鳥』 / 大崎梢『灰色のエルミー』 / 我孫子武丸『里親面接』 / 柄刀一『ネコの時間』 / 汀こるもの『パッチワーク・ジャングル』 / 井上夢人『バステト』 / 太田忠司『子犬のワルツ』 / 皆川博子『希望』 / 近藤史恵『シャルロットの憂鬱』

人は田舎者に生まれるのではない。田舎者になるのだ。~たとえ都会生まれでも、見知らぬ他人に配慮できない者は「真性田舎者」とでも呼ぶべき存在だと、私は断言したい。反対に、田舎生まれの田舎育ちであっても、美しい行動規範を持つ者は、田舎者ではない。単なる「田舎に生まれた(育った)人」だ。(森奈津子「ババアと駄犬と私」p9より)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/14

山本幸久/展覧会いまだ準備中

展覧会いまだ準備中

小さな美術館に勤める新人学芸員の弾吉を主人公にしたお仕事小説。

山本さん初読み。
登場人物がみんな恐ろしく個性的かつ暑苦しくてビックリした(汗)
まあ、主人公の弾吉自体、大学の応援団出身で身長2m近いという設定。およそ「学芸員」のイメージではないのだけれど。
あまりの暑苦しさになかなか物語に入って行けず、ドアの隙間から覗き見してました、という印象。
でも、そのわりに読後感は悪くなかった。

それぞれの登場人物の過去と今とこれからが描かれている。
「いまだ準備中」なのは「人生」ってことなのかな。
たとえ年をとっても、人生の終わりが見えていたとしても何かを始める準備は続くのかも。

「~今は長い道のりのスタート地点に立ったばかりだ。成果を上げることができるかどうか怪しいし、評価されることもないかもしれない。でもそれを言ったら世の中の大半はそんなものだ。報われない努力を積み重ね続けたところで、だれも褒めてくれないどころか、ときには非難されてしまうことだってある。だけどやるんだよ。やらなくちゃ駄目なんだ」(p224)

物語の冒頭でサクラが展覧会の照明に関して『今の光の当て方だと、額縁の影ができてて、絵が見づらくないですかね』って意見を言うシーン、そういうのって美術館のスタッフ側がまず気づくとこじゃないの?
お客目線で指摘しないと駄目なの?
実際の美術館でも照明が邪魔で作品がきちんと見えないことがわりと多いので、もしそうなんだとしたら開催前にお客を入れて照明のチェックをしてもらって欲しいくらいだと思った。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2013/03/12

大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー

大崎梢リクエスト!  本屋さんのアンソロジー

10人の作家による新刊本屋さんを舞台にしたアンソロジー。

どの作品も読みやすく個性的で楽しかった♪
どれもよかったけど、印象的だったのは吉野万理子さん、誉田哲也さん、似鳥鶏さんの作品かな。

誉田さんの作品はあの作品の彼女が登場。
ファンにとっては「おおっ!」って感じなんだろうなあ。(私は未読(^^;)
あ、でも本屋さんのモデルが池袋のジュンク堂だというのは分かってそれだけでニマニマしてしまったw

似鳥さんのは店長のキャラ設定が絶妙。
青井くんとのコンビもいい。
この設定で続きが読みたいな。

有栖川さんのは「もしかしたら怖い展開になるのでは…」という雰囲気が漂っていてドキドキしながら読んだ。

飛鳥井さんのはラストはよかったけど途中がイマイチ。
なんか思い込みが強すぎて読むのが辛かった。
確かに自分が好きなものがゴミ箱に捨てられてるのを見たら嫌な気持ちになるのは判るけど、それって本だけに限った話じゃないよね。
自分に不要なものだったら捨てるってだけの話でしょ。
それを「本」だけに限るのはちょっと違うと思うなあ。
あと、暇つぶしで本読むのってそんなにダメなの?
暇を潰す方法なんていくらでもあるのに、それにお金を払ってまで本を読むことを選んでくれること自体がすごいと思うんだけどなあ。
いつも「何か重要なことをここから感じないと」なんて気概を持ちながらしか読書が出来ないんだとしたら、私はきっとそんなに本を読まなくなると思う。
そんなに気持ちが充実してることってあまりないから。
気持ちが弱ってても、悲しくても、困ってても、いつも自分のペースで読めるからいいんじゃないかな。
そんな中で自分の琴線に触れる作品や作家さんに出会えればそれでラッキーだと思う。

ただ、他の作品ではこういうことは考えなかったから、読書について何かを考える切っ掛けを作ってくれたという意味でこの作品は成功なのかも。

<収録作品>
有栖川有栖『本と謎の日々』 / 坂木司『国会図書館のボルト』 / 門井慶喜『夫の弁当箱に石をつめた奥さんの話』 / 乾ルカ『モブ君』 / 吉野万理子『ロバのサイン会』 / 誉田哲也『彼女のいたカフェ』 / 大崎梢『ショップtoショップ』 / 似鳥鶏『7冊で海を越えられる』 / 宮下奈緒『なつかしいひと』 / 飛鳥井千砂『空の上、空の下』

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/10

岡條名桜/浪花ふらふら謎草紙

浪花ふらふら謎草紙 (集英社文庫)

小さい頃父親と2人で泊まっていた小さな旅籠「さと屋」に置き去りにされ、その後子どもがいなかった「さと屋」の主人夫婦の子どもとして育てられた花歩。
実の子どものように大切に育ててくれた「さと屋」での今の暮らしに不満はないけれど、小さい頃から父親の描いたという絵の場所を探すために大阪をふらふらと歩きまわることが日課となっていた。
そうしたふらふら歩きの中で花歩が出会った謎を解く話。

連作時代小説。

最初のほう細切れで読んでいたので、ちょっと印象が曖昧(汗)
ただ、1話目の「浪花の子」は設定とか人間関係が複雑で説明的な部分もあって入りにくかったのも事実。
でもそれ以降の話は花歩の役割が明確になって読みやすかった。
後ろに行くほど面白くなっていったという印象。

特に3作目の『紙牡丹』が特によかった。
佐市、亥助、壮馬それぞれがお互いを思いやる気持ちの暖かさが描かれ、花歩、千代太郎、吉助もそれぞれの役割をきちんと果たして結末も穏やかで気持ちのよい作品になっていた。

花歩と千代太郎の行末や花歩の父親の消息など今後の展開も気になる。
それから、元は同心の次男坊だったのに武士の身分を捨てて商人になったものの、その長男は逆に父の跡を継いだ兄の養子として侍の道を歩むことになった草紙屋「柊屋」の藤次郎と千代太郎の関係も興味深い。

<収録作品>
浪花の子 / 恋絵馬 / 紙牡丹 / 愁押葉

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/09

奇跡のクラーク・コレクション展@三菱一号館美術館

大手町の三菱一号館美術館で開催中の「奇跡のクラーク・コレクション-ルノワールとフランス絵画の傑作-」展を観てきた。

クラーク・コレクションとはシンガーミシン創設者の子孫である大富豪のアメリカ人クラーク夫妻が収集した美術品で、通常はアメリカ東部マサチューセッツ州の「クラーク美術館」に収蔵されているとのこと。
今回はその中から選りすぐりの近代フランス絵画を中心にした73点が公開されている。

ルノワールを始め、ミレー、モネ、コロー、ロートレック、ドガ、ピサロなど「私でも知ってます」的な有名な画家の名前が目白押し。
しかも大きさも内容もしっかりした、さらにあまり日本では一般的に知られていない作品ばかりだったのでどれも非常に見応えがあった。

以下、印象に残った作品について。

  • モネ『エトルタの断崖』
    断崖に映った光と影、さらに海と空の色合いがすごく綺麗だった。
  • モネ『ジヴェルニーの春』
    柔らかで華やかな色彩があふれていて、まさに「春」という感じ。
    見るだけで心が浮き立つ作品。
  • マネ『花瓶のモスローズ』
    ガラス製の花瓶に活けられたピンクの薔薇を描いた小品。
    力強さと繊細さ、可愛らしさが同居していてずっと観ていたくなる作品。
    死の1年前、体調を崩している時期に描かれたらしいけど、そうした弱々しさを全く感じさせない。
  • ドガ『稽古場の踊り子たち』
    横長のキャンパスに描かれたバレエの稽古場と若いバレリーナたちの姿。
    奥行きと活気、そして僅かな倦怠感を感じる作品。
  • ジェローム『奴隷市場』
    中央に描かれた奴隷として売られていこうとしている若い女性の美しさが印象的。
    奴隷として描かれているのに、卑屈さは全くなく裸身を晒して艶然と微笑む様子は女王のように見えた。
  • ジェローム『蛇使い』
    蛇使いの全裸の少年の後ろ姿がすごく綺麗。
    その様子を興味津々で見守る観客たちの表情や仕草も克明で思わず目を惹きつけられた。
    背景の壁や床の装飾も細かくて美しかった。
    ジェロームも印象派なのかな?
    印象派の作品はもっと輪郭が曖昧なイメージがあるけど、ジェロームの作品はあくまでリアルで繊細なのでちょっと違う感じ。
    でも私はこういう作品のが好きかも。
    あ、この作品は以前どこかで見たことあるなあ。
    「A Roman Slave Market」
  • ブグロー『座る裸婦』
    このブグローの裸婦もすごくリアリティがあって美しかった。
    ポーズによる筋肉の動きや肌の質感、色など、本物よりも本物っぽい感じ。
    しかも大きな画面いっぱいに裸婦が描かれているので迫力があった。
  • ルノワール『テレーズ・ベラール』
    青と白を基調にして描かれた少女の肖像。
    明るい青と紫で彩られた背景の色合いが美しかった。
    モデルの少女は「着てる服がダサい」という理由でこの絵を気に入らなかったとか(笑)
    絵の中ではとても知的でそんなふうなことを言いそうな感じではないんだけど、それはルノワールの理想なのかな。
  • ルノワール『鳥と少女(アルジェリアの衣装をつけたフルーリー嬢)』
    少女の全身像。
    青や緑を基調とした濃い背景に、淡い明るい色の衣装をまとった少女がくっきりと浮かび上がっていて美しかった。
    少女が鮮やか過ぎて鳥の印象があまりないな…(汗)
  • ルノワール『縫い物をするマリー=テレーズ・デュラン=リュエル』
    背景の緑と少女が被った赤い帽子のコントラストが印象的。
    一心に縫い物をする少女の真剣な表情も素敵。

こんなにたくさんの名品を他の美術館に貸し出しちゃって元の美術館は大丈夫なの?とちょっと心配になったけど、クラーク美術館は現在増改築中でその間のみの世界巡回とのこと。
これが終わるとあとはニューヨークやボストンから車で3時間(ってどのくらい遠いの?(^^;)行ったところにある本家まで行かなくちゃならないらしいので、この機会に是非。

会期は5月26日まで。
「奇跡のクラーク・コレクション」公式サイト

会場の三菱一号館美術館は今回初めて行ったけど、ちょっと変わった構造の美術館だった。
美しいレンガ造りの建物の中の2階と3階が展示室なんだけど、(美術館としては)小さい部屋と廊下の中に数点ずつ作品が展示してあって、そこを巡りながら作品を見ていく構成。
なんとなくどこかのお家におじゃましているような雰囲気だった。
ただ、混んでいるせいもあってかちょっと落ち着かない部分もあったかな。
それと思ったより展示室が多くてあちこち出たり入ったりするので、展示品を見ているときはよかったけど最後出た後でロッカーの場所が判らなくなってしまいウロウロしてしまった(^^;

展示されている作品はすべて額装され、保護用のガラスが掛けられていたんだけどそのガラスに照明が反射していないのがよかった。
美術館によっては時々、光が反射するだけでなく見てる観客の姿まで映り込んでしまい自分で見る位置を探さないと作品が見えないという場合もあったりするので、そういう点でストレスなく作品に集中出来るのはありがたい。
みんなこういう展示だったらいいのになあ。

今回の展覧会用の音声ガイドに特別ゲストとして黒柳徹子さんのチャンネルがあったんだけど、最初の挨拶を聞いたら滑舌がすごく悪くて(特にラ行とサ行)いたたまれない気分になってしまいそれ以上聞けなかった。
幸い普通の作品解説は他の人だったので問題なかったけど…。
TVなら平気なのかもしれないけど、イヤホンであれを聞くのは(失礼ながら)ちょっと勘弁…という感じ。
黒柳さんももうお年だから仕方ないのかなあ。

mitsubishi1goukan美術館の中庭には花や木の植え込みを巡る小道にベンチがいくつも設置されて散策や休憩が可能。
また、その周りにはカフェや雑貨屋さんも。
ここのカフェも評判がいいので寄ってみたかったけど、その前にお茶をたくさんいただいてお腹が空いていなかったので今回は残念ながらパス。
楽しみは次回に取っておこう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/07

有川浩/三匹のおっさん ふたたび

三匹のおっさん ふたたび

シリーズ2作目。今回も連作短篇集。
おっさんたちが活躍する6つの物語とボーナス・トラック「好きだよと言えずに初恋は」を収録。

いや~、やっぱり読みやすい。
驚異的なリーダビリティのよさ。
物語の内容よりも何よりもまずそこに感動する。
いや話も面白かったんだけどね。
でも、爽快感は正直今ひとつな感じ。
悪いことした奴に正面切って「思い知らせる」という展開ではなく、被害を受けた側の影響がなくなればそれでヨシという感じの展開が多くて、物語の中の重雄同様にちょっとイライラすることが多かった。
今の困ったことに真面目に対応すると、勧善懲悪では話は終わらないってことかな。

一番よかったのは本屋さんの話かな。
三匹+祐希の活躍もきっちりしていたし、相手側にも気持ちがきちんと届いてラストも納得できた。
本屋さんの井脇さんがいい人で泣けた。
対して第六話はよく判らない。
話の展開は理解できるけどなんであのおじさんの言い分をあんなに延々書いたんだろう?
(会社にあんなオヤジがいたら絶対嫌われると思うw)
まあ、清一さんの奥さんの芳恵ちゃんが思いがけずマドンナだったことは分かったけどもw

祐希と早苗ちゃんの恋も順調に進展している様子で微笑ましい。
祐希の清濁併せ呑む度量の大きさや、他人に対するソツの無さはすごいなあ。
どうやったらあんな男の子が出来上がってくるのだろうか。
これから清一さんの迫力も身につけて更にいいオトコになって欲しい。
そんな祐希を育てた両親の話もよかった。
ただ、母さん(貴子さん)の初めてのパートの話が「人間関係」に終始したのはちょっと残念。
たしかにありがちだし一番大変で目立つものではあるけど、それだけじゃないと思うんだよねえ。
枚数の問題もあるのかもしれないけど、幕の引き方もちょっと強引だったように思う。
途中で出てきた早苗ちゃんとの偶然の出会いのシーンはとてもよかった。
今後の展開が楽しみ♪

ボーナス・トラックは『植物図鑑』の彼が特別(?)出演。
1冊めに出てきた早苗のクラスメイト潤子が小学生のときの話。
そこで仲が良かった男の子が"彼"という設定。
いやいや、これはね~…罪作りなヤツだなとw
無意識でやってるだけに対する方としてはどうしようもなくなってしまう感じ。
潤子が転校する前提でホントによかったよね、と。
まあ、だからこその彼の行動なのかもしれないけど。
クラス担任の先生もなかなか酷かったけど、傍から見たら彼本人も同じくらい酷いよね、という感想。
影響力が大きい人はそれを自覚しつつ生きるべきだと思う。

ちなみにタイトルはこちらの曲のサビから取ったものかと。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/06

領家高子/鶴屋南北の恋

鶴屋南北の恋

10年来の情夫 十郎の手引きで大御所の狂言作者 鶴屋南北の囲い者になった元人気芸者の鶴次。
実は十郎は南北の息子だった。
大南北の最期の時間のために自分の愛した女を送り込む息子とそれを知りながら受け入れる父親。
そしてその間で自分の役割をしなやかにこなす女の物語。

文章が端正で読みやすかった。

渡り歩きの芸人であった父親から三味線を仕込まれ、それを頼みに深川芸者として生きてきたという設定の鶴次の勁さ、柔らかさ、素直さが印象的。
男の都合でその身を左右されているように見えながら、そう選ばれるのもまた器量ということか。

鶴次、南北、十郎による調和が取れた愛憎劇の影で、状況に流されて(というか本文の説明では詳しいことがよく判らないまま)鶴次の元を去り、女郎屋に売られ、やがて命もなくしてしまうおとまが一番かわいそうだったなあ。
しかもそれは本筋にはほとんど関係してないし、その過酷な運命をあんなに慕っていた鶴次にも知られることがないなんて…可哀想すぎる。
おとまのことを十郎が憎いんでいたということだけど、本当にそうだったんだろうか。
端正な物語の中にあって、この部分だけがうまく消化できないまま終わっている気がして気にかかる。

「遊びだと思いなさい。生きているってのは、何もかも命の遊びなんだ」人生とは、今生に生まれ落ちた命の、ひたぶるに遊ぶ時間のこと。

「ちゃちな遊びをしちらかしたまま、人間は死んでいくのかもしれんがな」
(p156)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/04

堀川アサコ/魔所―イタコ千歳のあやかし事件帖〈2〉

魔所―イタコ千歳のあやかし事件帖〈2〉

シリーズ2作目。
基本的な設定や人間関係は変わらないけど、前作よりも物語全体の流れがスムーズで読みやすかった。
前作はいきなり幸代の話から入ったので千歳の立ち位置や役割がよく分からないままだったけど、今回は冒頭でその辺りをきちんと説明してから始まったからかな。

4編の中では亡くしてしまったものを求めるあまりに違う世界に足を踏み入れた人々を描く2話目の「これはこの世のことならず」が好き。
禍々しさと切なさがうまく表現されていて惹きこまれた。
3話目の「白い虫」は気持ち悪さがダントツ。
ただラストは"この後どうなるのか"と思ったところでわりとあっさり終わってしまうので、ホッとしたり残念だったりw

前作の時も思ったけど「昭和初期の青森」という雰囲気はあまりないなあ。
この頃の田舎ってもっと閉塞的で同じ地域なら情報も筒抜けみたいなイメージあるけど、ここではけっこうみんなサバサバしてる感じ。
単に私の偏見なのかな。

あと、このカバーデザインはどうなのかなあ。
私の場合、書評を見てから読もうと思ったのであまり気にしなかったけど本屋でまずカバーを見たらあまり興味が沸かない部類のデザインだな。
内容にも合ってるとは思えないし。
(本文の各章の扉に入ってるのは線画のせいもあってかまだマシだと思う)

たましくる―イタコ千歳のあやかし事件帖 (新潮文庫)

同じイラスト表紙でも新潮文庫版の方がまだ雰囲気があって好きだな。
この作品(『魔所』)も文庫化されるときはもう少し購買意欲をそそるカバーにしてあげて欲しい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013/03/01

小路幸也/キシャツー

キシャツー

北海道の小さな田舎町。
1時間に1本、1両編成の電車で学校に通う「キシャツー」組のはるか、あゆみ、このみのテニス部ひらがな3人組は海岸に建てられた真っ赤なテントの存在に気づく。
3人組と美人の先輩 沙絵、はるかの幼馴染で生徒会長の良夫、その親友の遼太郎の6人はそこでキャンプをしていた東京の高校3年生の光太郎と知り合う。
光太郎はある人物を探す目的のために夏休みを利用してこの町にやって来ていた、
それを知った6人は光太郎に協力を申し出る。
北海道の小さな美しい町を舞台に綴られる7人の少年・少女たちの出会いの物語。

想像していた内容と全然違ったけど、面白かった。
とても爽やかな青春小説。

登場人物がみんなちょっといい子過ぎるという嫌いはあるものの、それはこの作品の場合欠点ではなく美点。
物語自体もうまく行きすぎであまり引っかかる部分はない。
光太郎が探していた人物があっさり見つかってしまうのも、更にはその人物と光太郎が再会したときに何の波乱もないことも正直驚いたくらいだった。
普通だったらそんなフラットなストーリーでは飽きてしまうのではないかと思うくらいスムーズな展開。
ただこの作品の場合、そうしたストーリー展開よりも登場人物それぞれが魅力的でみんなの会話を読んでるだけで幸せな気分になった。
ただひたすら、彼らが自分を、そばにいる誰かを、そしてお互いをどう思うかその視線の先にあるもの、言葉、想いを見ていたい、聞いていたいと思わされる物語だった。
これは人物を丁寧に魅力的に描ける小路さんならではだろうなあ。

ただ、こんな高校生がそんなにいるとも思えないので、ある意味「ファンタジー」のような気もしたり。

ただ、それだけにあの終わり方はあっさりしすぎていて残念。
もうちょっと賑やかというか丁寧なエンディングが読みたかったな。

大人になった7人や今回語り手にならなかった遼太郎、あゆみ、このみの物語も読んでみたい。

「どうしてそんなふうに求めるのかな」
「求めるって?」
「とりあえず今現在ここになくてもなんの影響もないものなのに、何かの答えを求めてしまう」(p122)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年2月 | トップページ | 2013年4月 »