領家高子/鶴屋南北の恋
10年来の情夫 十郎の手引きで大御所の狂言作者 鶴屋南北の囲い者になった元人気芸者の鶴次。
実は十郎は南北の息子だった。
大南北の最期の時間のために自分の愛した女を送り込む息子とそれを知りながら受け入れる父親。
そしてその間で自分の役割をしなやかにこなす女の物語。
文章が端正で読みやすかった。
渡り歩きの芸人であった父親から三味線を仕込まれ、それを頼みに深川芸者として生きてきたという設定の鶴次の勁さ、柔らかさ、素直さが印象的。
男の都合でその身を左右されているように見えながら、そう選ばれるのもまた器量ということか。
鶴次、南北、十郎による調和が取れた愛憎劇の影で、状況に流されて(というか本文の説明では詳しいことがよく判らないまま)鶴次の元を去り、女郎屋に売られ、やがて命もなくしてしまうおとまが一番かわいそうだったなあ。
しかもそれは本筋にはほとんど関係してないし、その過酷な運命をあんなに慕っていた鶴次にも知られることがないなんて…可哀想すぎる。
おとまのことを十郎が憎いんでいたということだけど、本当にそうだったんだろうか。
端正な物語の中にあって、この部分だけがうまく消化できないまま終わっている気がして気にかかる。
「遊びだと思いなさい。生きているってのは、何もかも命の遊びなんだ」人生とは、今生に生まれ落ちた命の、ひたぶるに遊ぶ時間のこと。
「ちゃちな遊びをしちらかしたまま、人間は死んでいくのかもしれんがな」
(p156)
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